「ふったらどしゃぶり」は、もうご存じの方も多いだろうけど、両親の急逝後に同居している幼馴染・藤澤和章に恋しているのに全く答えてくれない、それなのにやさしく面倒見てくれてずっと一緒にいたいといわれていてフラストレーションがたまっている半井整と、同棲していて結婚まで考えている彼女に1年もセックスを拒まれ続けて困惑している萩原一顕の話。整と一顕は同じ家電メーカーの同期で、普段特に付き合いはなかったが、かずあきという名前が一緒だったので、整がメールアドレスにしていたkazuakiと数字(和章の誕生日らしい0927)がドメイン違いで一顕のアドレスとほぼ同じだった。そのため同期会の幹事役の一顕が候補店の情報を自分に送るつもりで送ったはずが、間違って整に届いてしまった。
そのことでメールをやりとりするうちに、お互いに現実の相手を知らないままに、というか相手がリアルでは誰なのか知らないから、抱えている悩みを打ち明ける間柄になった。そして劇的なシチュエーションで、相手が誰なのか知ることになる。
それだけだったら二人は深い間柄にはならなかっただろうが、なんというか、単なる慰め合い以上に・・・いや慰め合ってはいなかったが、シンパシーを持ち、お互い気になる存在になっていった。そしてある晩ついに、体の関係を持つ。二人とも女性は知っていても男性は知らなかったのだが。先に体から入っても、あとで感情がついてくることもあるんだなあ。そして二人に何かおきるときは、いつも雨が降っている。
あるときは驟雨、あるときはどしゃぶり、またあるときは、雨の音がずっと流れている携帯のアプリ。
結局二人の関係はお互いの相手にばれて、整は和章の隠していたことを知って彼を赦し、ずっと保護してくれていたことに感謝して別れることにする。一顕も彼女と別れることに。この脚本がすごくいいのだ。ドラマでは、原作にあったセリフはほとんど忠実に再現されている。でも少し設定が変えられていて、和章から整への告白は、整が嫉妬に狂った和章に力ずくで思いを遂げられた翌朝ではなく、しばらく一顕と会わないようにしていた整が鎌倉の和章のアトリエを訪ねた時になっている。その方が、落ち着いて気持ちを整理してからの話として自然に受け止められる気がする。
一顕とかおりの別れ話も、小説ではメールのやりとりが主で、じっとしていられなくなった一顕が家を飛び出したらそこにかおりがいたのだが、ドラマではカフェで会った一顕とかおりの対話になっている。そのとき、原作にはないが、「不誠実なことをしてすみませんでした」と一顕が謝る。それがあるとないとでかなり違うと思う。そのあとに「一顕から言って」と言われ、「好きな人ができました。別れてください」と一顕がいい、かおりが「分かりました、わかれましょう、さよなら」と出ていく。原作ではついでにかおりに全力でひっぱたかれるのだが、(^^;)このときもかおりは雨の中に飛び出していくのだった。
整の心の声「一顕に会いたい、電話がしたい、一緒に飲みたい、・・略・・好きだと言いたい、好きだと言われたい」も、ドラマでは二人が交互に心でつぶやいている、そこがいい。
ラストシーンも、小説では駅の改札で一顕に整が傘をさしかけるのみだが、ドラマではあの美術館の前。セリフはほぼ同じだけどここでまた違うのは、あの整が、「萩原が好きだ、一緒にいたい」とちゃんと言うことだ。一顕も「俺も一緒にいたい」と答え、周囲に人がいないから、雨の中キスをして終わる印象的なラストとなる。脚本の開真理さんは、「素晴らしい原作をお預かりして」、どう生かそうか悩んで考えたとのこと。もちろん原作のセリフも、改めて読み返すととても素晴らしいとわかる。
「メロウレイン」の上下巻は、整と一顕のその後を書いたスピンオフになっている。
小説「ふったらどしゃぶり」が終わった時点では、まだ、どちらも好きだった人と別れて引っ越したから、じゃあすぐ付き合いましょうとはなっていない。そこは同じ巻に収録された「all rain in this night」「ふったらびしょぬれ」に描かれていて、結局二人は恋人同士になるのだけど。
メロウレインではその続きで、ひなびた商店街のある街の古いエレベーターのないマンションに引っ越した整と、街道沿いにあるらしく近所にはチェーンの飲食店ばかりのマンションに引っ越して、部屋にダブルベッドを置いた一顕の恋の日々を描いている。同棲はせず、週末にどちらかが相手の家に泊まりに行くような暮らし。作者は何度も詳しく二人のベッドシーンを描写している。これがBL小説の王道なのかな?💦
でも、愛し合っていて幸せな二人の交歓は、読んでいて嫌じゃないな。
中には、整のいきつけの飲食店のスタッフの子(♀)が整に気があったり、一顕の知人の結婚披露宴二次会の幹事を彼と一緒に引き受けた女子が一顕に恋したりといったエピソードも出てくるが、二人はラブラブである。
一顕は、やさしく律義で、仕事もできて、結構イケメンで、夜もなかなかにタフで、一本気なためかおりの家庭環境をディスったお母さんと元旦から衝突したりもするが、こんな人、理想の夫じゃないのと思う。彼はネイリストのかおりと暮らしていた時は、少し長めの綺麗に手入れされた爪をしていたが、今は深爪一歩手前なくらいに短く切っている。整を傷つけないために。(^-^)
整は相変わらずちょっと不思議ちゃんというか、周囲からは草食の妖精みたいに思われているふしがあるが、前よりも親しみやすくなり、集まりや社員旅行にも参加するようになった。一顕を駅まで迎えに来たり、マフラーをまいてあげたり、唇があれているとリップクリームを塗ってあげたりする。ついでに剥けかかった唇の皮をはいでしまったりするが。(^^;)そしていつまでも、(といってもどしゃぶりの後1年くらいの話だけど)「萩原」「半井さん」と呼び合っていて、一顕は半分敬語だ。整は和章のことがあるから、一顕をかずあきとは呼びにくいんだろうな。
メロウレインには和章と柊のカップルも登場する。和章は「ナイトガーデン」で、クォーターの美少年柊とカップルになったらしい。そのスピンオフも収録されていて、そこにも二人のベッドシーンは登場するが、一顕と整のが、なんだかアレをアレしてと具体的なのに比べ、もっと抽象的で詩的である。和章は整に対してしたことの反省もあり、自分が柊をまた囲い込んで自分の思うように動かしていないか、常に気をつけているようだ。柊ははじめ和章に反発していたようだが、今は全面的に和章を信頼している模様。なので、ナイトガーデンも読もうかなと、購入した。ついでに、実は読んだことがなかったBLの古典(?)も購入した。
全9巻一気に買ったのだが、なんと3巻だけルビー文庫じゃなかった。(;´Д`)表紙イラストは、吉田秋生さん。
ドラマのキャスティングはぴったりだと思った。整役の伊藤あさひ君は、「みなと商事コインランドリー」のシンこと慎太郎くん役西垣匠くんと、同じ大学同じ学部で同期なんだそうだ。「絶対BL」ではモブの犬飼君に恋する役だった。NHKの「正直不動産」にも出ていた。来週、彼がロベスピエールを演じたミュージカル「1789 バスチーユの恋人たち」を上京して観る。主人公は架空の青年ロナン(私が観る日は岡宮来夢くんのはず)、渡辺大輔さんの出演作品をチェックしていて、これを見つけて申し込んだ。下の写真はXに伊藤君スタッフが投稿したもの。撮り方が上手なためもあるが、脚長いなあ。
外見でいえばあさひくんはいわゆるフォーゲルゲジヒトなところが私の好みではないけど、(ディスってはいません)色白だし繊細で独特な雰囲気をもつ整にぴったり。一顕の武藤潤くんは、やや色黒で誠実そうなところがぴったり。「げんじぶ」(原因は自分にある)では、彼も杢代くんも、イケメンなんだけどもう少しでもずれたらちょっと・・・という危うさがむしろいいのかなあ?(あー、ディスってませんので赦して)彼の話し声が柔らかいところが優しくてとてもいいと思う。
かおりの秋田汐梨ちゃんも嫌味がなく、女性としてわかる気もしたし、和章の松本大輝くんもぴったりだった。彼は「佐原先生と土岐くん」でも似たようなキャラだった。でもむしろ「ジョフウ」の彼に期待したいな。
とうことで、「ふったらどしゃぶり」にまつわるあれこれでした。