3月見たのは、「名もなき者 (A Complete Unknown)」,

「ウィキッド ふたりの魔女 (Wicked)」,

「Flow」,「少年と犬」,「教皇選挙の5本。

 

 

これはなかなか凄い映画だった。多少の脚色はあるけれど、事実を描いたものだし、やっぱり揺るぎない事実に勝るものはないのかもしれない。

今改めてフライヤを見てみたら、「時代は、変わる」とある。ああ、その通りだった、とつくづく思う。歌は世につれ、世は歌につれ。

 

ボブ・ディランの名を知らない人はあまりいないだろう。USAのフォーク、ロックの大物アーティストでシンガー・ソングライター。彼の1960年頃から65年頃の足跡を描いている。USAのフォークソングの始祖のようなウディ・ガスリーに憧れ、大学を辞め入院中の彼に会うため田舎からヒッチハイクで出てきた青年ボブ。病室で彼のためにギターをひいて自作の歌を歌うと、ウディも居合わせたピート・シーガー(彼もアメリカのフォークの礎を築いた人)も感銘を受けて、面倒見の良いピートは家に連れ帰って泊まらせ、教会や当時人気だったジョーン・バエズも出ているクラブに出演を世話したりした。

 

ピートは当時のUSAの「赤狩り」(反共産主義)のあおりで、共産主義者ではないのに公の場で歌うことを禁じられていた。彼はフォークソングで世の中を変えていくことを夢見ていた。時代は人種差別の撤廃を目指す公民権運動、その運動を支持するJFKの大統領就任、キング牧師の精神に基づく非暴力的なデモ行進、キューバ危機とその回避、JFKの暗殺・・・と続き、ボブはアコースティックギターとハーモニカを下げて自作のフォークを歌い、彼の才能はどんどん彼を有名なフォーク歌手、若者の代弁者のような存在にしていった。

 

社会活動する「意識高い系」な女性シルヴィ(仮名)と出会って恋に落ち、感化される。ジョーン・バエズとは同志的な間柄だが男女の関係を持ったこともある。(そこをクズだという人たちが多いが、でもなんだか憎めないんだよね。愛しているのは当時はやっぱりシルヴィだったし、暴力やモラハラは行使していない)ジョーンとの事のあとで、ボブはあの有名な「風に吹かれて」を作ったのだった。

だが、彼の才能と関心は彼の歌のスケールを広げてゆき、伝統的なフォークソングだけではなく電子楽器を使ったロック的な曲を作り歌うようになった。世間の求めるボブ・ディラン像に沿っていくことが息苦しくなったのだろう。ロックで台頭してきたジョニー・キャッシュはそんなボブを認め、交流が始まった。

 

ニューポート・フォーク・フェスで彼はトリを任されるようになっていたが、65年のフェスのトリで、ポール・バターフィールド・ブルースバンドのバック演奏でエレキギターで「ライク・ア・ローリング・ストーン」を熱唱したら、会場は怒号で騒然となり、大きな物議を醸した。でも、会場のお客さん(もちろん仕込みのエキストラさんたちだけど)を見ていたら、喜んでノリノリだった人たちもいたけど。

シルヴィに是非聞いてほしいと彼女をバイクで会場に連れ出していたボブだったが、彼女はボブが変わってしまったから(?)ジョーン・バエズがいたから(?)彼の出番前に会場から抜けて帰ろうとした。ボブはちょっとヤケになって、それでも自分のやりたい曲をやろうとした部分もあったのかもしれない。

 

その後のボブの活躍・・・数年前にはノーベル文学賞まで授与された・・・は、周知のことだ。ポピュラー音楽の歴史は、彼を抜きにしては語れないだろう。多大な影響力をもったビートルズが活動していたのはほんの数年だったけど、ボブは今でも活動しているのだし。

にしても、ボブの人間性は、この映画をみてもあんまりわからなかった。(^^;)名もなきというより、やっぱり「わからない人unknown」なのかね。

 

そして、ボブの役を演じきったティモシー・シャラメが本当に素晴らしかったのだ。彼はこの役のために5年間かけて、ギターもハーモニカ(ブルース・ハープ)も歌唱も、すべてを完璧にできるようになったのだそうだ。役者って凄い。見た目も似せてるけど、本当に頭が下がる。それはバエズ役のモニカ・バルバロもそうだった。ギターもひくし、美しい声で歌い、ボブとのハーモニーも完璧。彼女も演じるために相当頑張ったらしい。

 

シルヴィ役のエル・ファニングは、(若いのに)実際にディランの歌の大ファンだったし、彼女も役にぴったり。いかにも(報われない)いい人だったピート・シーガー役のエドワード・ノートン、その日本人妻で仕事の面では戦友のトシ役の初音映莉子も良かった。

あまり洋楽ファンじゃない映画好きの知人がこれを見て、急にボブのCDを買おうとしたのだから、この映画は音楽映画としても成功したのだと思う。

 

 

 

これは「オズの魔法使い」の前日譚という。「西の悪い魔女」と「善い魔女」の過去を描いたストーリー。生まれた時から輝くような美しさでちやほやされっぱなしのため、無邪気に上から目線なグリンダ(アリアナ・グランデ)と、対照的に生まれた時から辛いことばかりの、緑の肌で地味でまじめなエルファバ(シンシア・エリヴォ)。この二人が魔法学校シズ大学で出会い友達になり、実はエルファバに強力な魔法の才能があることを見抜いた人気のある魔法教授マダム・モリブル(ミシェル・ヨー)の企みで、二人はレジェンド「オズの魔法使い」のいるエメラルド・シティに彼を訪ねて行った。ところが彼(ジェフ・ゴールドブラム)は・・・。うむ、ネタバレするのもなあ。(^^;)

 

その秘密を知られたからと、エルファバとグリンダはオズの警察に追われる。そのあたりがスリリングな脱出劇になっていてドキドキハラハラする。

それに、社会変革の波が押し寄せてきていて、以前は動物も言葉が話せてともに文化的に暮らしていたのだが、ヤギの教授が魔法学校から追放されるなど、不穏な空気が漂っている。

 

全編がミュージカルなのだけど、旦那を連れていったため、字幕のほうでなく、吹替のほうを見させられた。(-_-;)なので、グリンダの歌は日本語で清水美依紗、エルファバは高畑充希、フィエロは海宝直人。みなミュージカルで活躍しているから歌唱力は確かだし、歌詞も日本語のほうがわかりやすいが、どうせならオリジナルの歌が聞きたかったなあ。

 

何気なく、タイトルにパート1とあったので、これはまだ続くんだとわかった。あの終わり方もやはりそのようだった。旦那が「面白かった」と言っていたので、これはまた一緒に見に行くかも。ただ、初めから、「エルファバが悪、グリンダが善」になっているところが私には気に入らなくて、(;^ω^)その点でもういいかな、と思ってしまった。映像はとても凝っていて、細かいところまでお金がかかっている・・・もとい気を配っているなあと思った。でも今なら全部実写じゃなくてCGかなあとも思ったが、チューリップ畑のシーンには本当にチューリップを何万本も植えたというから、その労力と金額を思うと気が遠くなる。(;´Д`)