すでに、ハピエンになりそうでああよかった、というブログを書いた後なのだけど、せっかくなので前半(だんだん佳境に近づいて)の続きを。
「水無瀬、海、好き?」
泊まりにおいでと母に誘われた蛭川に、一人だとなんだか怖いから一緒に行ってと頼まれ、水無瀬は蛭川の母が今暮らしている家に一緒にバスに乗って出かけた。蛭川も、母の家の中までは入ったことがなかったらしい。センスの良い洋風の海沿いの家の、ふたりにあてがわれた部屋には、ダブルベッドが一つおいてあった。焦って「俺、床で寝るよ」と言い出した水無瀬に、「なんで?こんなに広いのに」と蛭川、
ここでもノートにスケッチを描いている(対象はおもに水無瀬)。進路はという話題で、やっぱり彼は早く自活して一人で暮らしたいから大学には行かないという。
母は唐揚げや卵焼きをお弁当箱に詰め、父親違いの幼い妹もふくめ4人で家の前の浜でなごやかにピクニック。蛭川が父親のDVを受けていることは固く口留めされていた。
夕暮れの浜で。俺の家に一緒に帰ろう、という水無瀬に、それは怖いと蛭川。俺もオヤジの息子だから、水無瀬を殴るかもしれない。「お前は親父さんとは違う」「俺を見張っていてくれる?・・・でも、お前がアメリカに行ってしまったらどうしよう。」「行かない、お前が行くなって言ったんだろ。」「それはただの本音じゃん」
行かなきゃだめだよ、と言いつつ、波音に消えそうな声で「いかないで」という蛭川と抱きしめあう。あの部屋に帰り、キスした二人。蛭川が水無瀬の服の中に手を入れたら、水無瀬は服を脱いだ。潔さが男前。蛭川にも促すと彼も脱ぎ、そのうち上下が入れ替わった。純謙、尊い。(´;ω;`)
初めての朝。おそらく彼らは今まで、これほどの幸福感は感じたことがなかったのではないかな。
帰りにも浜で話した二人。前に、俺はお前といると弱くなると言っていた水無瀬。他人に無関心だったのに、恋愛感情が芽生えてどんどん心が潤って柔軟になってきて、同時に怖れや不安も生まれ、弱いとも言える。一方蛭川は、俺はお前といると強くなれるよ、と言っていた。諦めから投げやりな生き方をしていたのに、俺はもう殴られっぱなしはやめる、と宣言した。お前にふさわしい男になりたい。そして水をかけあって戯れる。
授業もまじめに受け、遊びの誘いにも「やりたいことができたから」と断る蛭川に、措いていかれそうで焦っていた悪友。俺は知っている、お前親父に暴力受けてんだろ、そういうやつの息子はやっぱり暴力振るうようになるんだよ、と言われ、けんかになったが、ギリギリのところで殴らずにやめた(偉いよ、悔しいだろうけどよく耐えたね。)
ある日、塾帰りに多分蛭川母直伝の唐揚げの材料を買おうとした水無瀬は、その級友が万引きをして逃げているところに遭遇した。ちょうど蛭川と電話していて、彼に話すと、蛭川は家から走って駆け付けていった。(嫌な予感がする。σ(-_-;))そしたら、蛭川ったら、自分が彼にやらせたのだということにして、自分は何もしていないのに、自分も罪を被った。(゚д゚)!なにもそこまでしなくてもいいのに。彼に、悪いことは全部お前から教わったんだと言われていたので、それに責任を感じたのだろうか。二人とも停学処分になったが、水無瀬が教師に蛭川は何もしていないと訴えても、この件にはかかわるな、学校は君に期待しているんだと取り合わない。進学校ってそんなもんか。ここでも水無瀬は自分の無力を痛感するのだった。
成績が下がって水無瀬は母に文句を言われ(この人、息子の成績しか見てない)、停学で蛭川は父に罵倒され暴力を振るわれ、水無瀬は心配していても蛭川と連絡がとれず、家に居場所がない蛭川が夜の公園にいると、塾帰りにやっと彼をみつけた。
一緒に警察に行く途中、蛭川があの赤い橋のところで立ち止まった。俺といると悪いことばかりがおきる。水無瀬は離れたほうがいい。帰って、少しでも寝て、そして学校に行って試験を受けて。
水無瀬は逆らえず、名残惜しそうにふらふらと帰っていった。
その後、花火大会の日、塾帰りの水無瀬を蛭川が呼び止めた。会えるかと思って、塾からずっとつけてきたという。塾友と水無瀬が離れるのをじっと待っていたのだ。
蛭川は母の家の近くの学校に転校し、寮生活をすることになった。でも、これまでのことを一度全部捨ててやりなおすことにしたから、もう連絡しない、という。
その後ろ姿に、「蛭川!俺、俺・・・」と言いかけた水無瀬だが、ちょうど花火大会を告げる狼煙が鳴った。「ごめん、何?」本当は、「俺、お前が好きだ」と言いたかったのだろうが、涙を堪えて、元気でね、としか言えなかった。「お前もな。」
あっという間に2年生の夏から卒業式の日になった。ならんだ水道の蛇口をみても蛭川を思い出す水無瀬だった。彼と柴(眼鏡の子)は第一志望の大学に合格したらしい。根本は一浪確定だが、お前らと一緒に卒業できてうれしいという。水無瀬は空き家になった蛭川の家に行ってみた。意外に外階段から中に入れた。そして、蛭川の部屋の机の上に置いてある、雨原監督の映画のDVDを見つけた。開いてみると、そこにはノートを破って書いた水無瀬への手紙が入っていた。きっと読まれることはないだろうと思って蛭川が書いた手紙。
お互いの誕生日に手紙を出そうと話し合っていた彼ら。(水無瀬は4月6日、蛭川は12月19日だった。)始めは水無瀬の声で、途中から蛭川の声で手紙が読み上げられたが、
「お前のことが好きだったよ」は手紙が映っただけで声はなかった。言ったらお前が離れていきそうで怖かった。
「幸せでいて」で締めくくられた手紙。その上にぽとりと涙が落ちた。
水無瀬のモノローグ:いつか俺たちが大人になったら、不幸にも負けないぐらい強い大人になれたら、その時は逃げたくない。今度こそ俺がお前を守ってやりたい。ごめんね、好きだよ。それからまたあっという間に年月が過ぎた。(;´∀`)
今は日本にいて大学4年の水無瀬。そして、文芸サークルらしいところにいて、一人でコツコツと小説を書いている。でもその内容は、蛭川と自分との話らしい。誰にも見せる気はないと柴に言っている。この作品全編にわたって、ときどき二人の足跡を現在の水無瀬が辿っているのは、この小説のためのようだ。
そしてこの後が、前に書いた「オーラス前に」のブログである。
最終話とそのアフターストーリーは、この後に。