先月書いた、11月公開の気になる映画のブログで取り上げた2作。これらはとても対照的な作品だった。
観客には背景がまだよくわからないのだが、のり子(綾瀬はるか)は鳥取で清掃の仕事をしている。このピンクの服(つなぎ)は会社の女性用仕事着で、彼女らは数人でワンボックスカーに乗り派遣先に行って掃除をする。のり子の仕事ぶりを見ると、言葉数が少なく表情にも変化が乏しく、愛想もない様子。ある日仕事先の精神病院の庭でひとりタバコ休憩をしているときに、入所している女性患者から声をかけられた。(上司からは患者さんとはなるべく話をしないようにと言い渡されていたが。)彼女(市川実日子)は自分はもうすぐ死ぬので、姫路にいる娘を連れてきてほしいとのり子に頼んだ。・・・この精神病院の建物が庭も含めてとても雰囲気があって美しい。以前南仏への旅で訪れた、ゴッホが入院していた病院兼修道院のような作りをしていた。・・・それと、今どきそういうところの敷地内でタバコすっていいのかな?うちの職場は敷地内喫煙禁止だけど、愛煙家は隠れてすってるな。(^^;)それにしても、綾瀬はるかがあの出で立ちでスパスパ煙草すう役とは。江口のりこや木南晴夏じゃなく?そしてずっとあのつなぎ姿。
のり子は一人でアパ-ト暮らしをしていたが、日記(?)のようなノートに書きつけた。必要なものはタバコ、車、少しのお金、と。そして、ある日彼女は決行した。仕事先から会社の車を盗んで(いや拝借したつもりだったのかも)そのまま姫路へとルート29(一本で姫路直行)を南下したのだ。風変わりなその娘ハル(大沢一菜・とてもいい感じの子だが、女の子には見えない💦)を見つけたまではよかったが、今の彼女の保護者には何も告げずにつれ出し、その後は、波乱万丈なロードムービーになった。詳しくは書けないが、愛犬家の婦人に車を乗り逃げされ、野宿Σ(゚Д゚)。しかたなく歩いてルート29をたどると、(途中からバスに乗るとかないのかい!?)単独で事故を起こした車の老人と道連れになったり、社会の悪い面に絶望して放浪している親子(高良健吾と原田琥之佑)に親切にしてもらったり、その老人があの世からカヌーでお迎えに来られたのを見送ったり。\(◎o◎)/!・・・原田琥之佑くんって今度「天狗の台所season2」に出るけど、原田芳雄さんの孫なんだってね。昔原田さんのファンだったわ。
のり子たちと出会う人々がみな、いわゆる普通の人たちじゃなかった。小学校の教師をしているのり子の姉も含めて。そしてやっとたどり着いた鳥取で・・・。ネタバレになっちゃうからこのくらいにしようかな。鑑賞した人たちによる映画の評価欄を見ると、点数はよくない。わけわからない、つまらない、寝た、綾瀬はるかでなければ見にいかなかった、などなど。(^^;)でも★5つ(満点)をつけている人もいた。では私はというと、確かになんだかわからないものを見せられている感じではあったが、嫌ではなかった。昔三木聡監督の映画を何本か見たけど、それを見た後のような感覚。(「亀は意外と速く泳ぐ」とか「転々」とか「図鑑にのってない虫」とか。今三木さん何やってるんだろう?ご存命?)ロードムービーって、日常とは違った風景や人や慣習などに触れることで登場人物(あるいは自分)に変化が現れるという作品じゃない?それでいくと、のり子(ハルはなぜかのり子にトンボというあだ名をつけた)にもハルにも、確実に何か変化が起きたと思う。起承転結というセオリーに則って大いに盛り上げる作品ではないが、否定とか拒否とかはしない。
脚本・監督は森井勇佑。2022の「こちらあみ子」の監督である。
それに対して「アイミタガイ」は対照的。劇場でフライヤーを見るまで全く眼中になかった作品だったが、見た人の点数が凄く高かったので見に行った。★5点中の4点以上の作品はまずハズレがない。苦手な分野の作品とかじゃなければ。
フライヤーの右に書いてある言葉、相身互い。人と人の不思議な縁の連鎖。(悪い意味では使わない)
フライヤーに顔が出ているキャストたちについて少しずつ書いてみると:
主演の黒木華は、親友の写真家(藤間爽子)の客死を信じたくなくて、毎日のように彼女の携帯にラインでメッセージを送り続けていた。両親の離婚で母と引っ越し、転校してきていじめにあっていたのを救けてくれた親友(中学時代は私の推しの白鳥玉季)は、彼女にとって光だった。娘の形見の携帯の解約をせず、ずっとラインを見守っている両親(田口トモロヲ、西田尚美)。ラインの送り主のことは知らなかったようだ。
ヒロインの穏やかでやさしい彼氏(中村蒼)は結婚したいと思っているが、彼女は彼を頼りないと思っているし、両親を見ているので結婚はしないと言い切っている。なのに職場は結婚式場で彼女はウェディングプランナー。(^^;)この頃は若いカップルの挙式だけでなく、高齢カップルの金婚式なども扱うので、その会で器楽演奏をしてくれる高齢音楽家を探していた。そのほうが若い演奏者より喜ばれるのだそうだ。
今は母は亡くなっていて、おば(安藤玉枝)は派遣ホームヘルパーをしており、その派遣先の品のいい老婦人(草笛光子)の家で、素晴らしいクラシックなピアノを見つけた。娘時代(戦前)にはフランス人音楽家から習っていたが、今は人前では弾けないという彼女。
親友の両親の家には、娘あてに他県の児童養護施設から感謝の手紙が届いた。何も知らなかった両親は、検索してその施設に連絡をとった。驚いて弔問にきた施設長(松本利夫)は、毎年ひな祭りには桜餅、こどもの日には柏餅というように、娘さんからプレゼントが届いていた、施設のトイレには写真ギャラリーがあるのでぜひ見に来てくださいという。
ある日ヒロインはたまたま彼氏とおばあちゃん(風吹ジュン)の家を訪ねた。そこで気軽に男仕事をやってくれた彼、そして隣家でおきたボヤ騒ぎを適切に消し止めた様子に、今まで頼りないと思っていた彼を見直す。・・・余談だけど、最近私も中村蒼くんを見直している。「エール」「私のお嫁くん」「宙わたる教室」などで見たが、人柄がいい感じに思える。「ギークス」ではイマイチだったが。
そのほかに宝飾店の店主(升毅)とその孫も登場する。
これらの人たちのエピソードが、一見オムニバスのように見えながら、実はちゃんと意味を持ってつながっていて(彼氏と親友の父親までも)、すべてがきっちり伏線回収される。そしてひとりぼっちだったヒロインが愛を信じて一歩踏み出すまでが描かれる。つまり、わかりやすく、静かにだがちゃんと盛り上がって、爽やかな余韻を残す作品だった。養護施設のトイレで母が涙を流すシーンでは私もうるっとした。
( ノД`)ヒロインと同じように、親友の両親も、一歩前に進みだすのだった。
フライヤの下にあるように、「すべての秘密がつながる時、あたたかな涙が溢れ出す」。王道のヒューマンドラマだった。どっちを?ときかれれば、こちらをお薦めするけど。(原作は小説らしい)★が多いのもうなづけた。監督草野翔吾(「彼女が好きなものは」。来年「大きな玉ねぎの下で」の公開が控える)、脚本市井昌秀(「犬も食わねどチャーリーは笑う」「台風家族」「箱入り息子の恋」)。