JOKERまでで終わっていたので、その後見たものについて感想を。

 

★八犬伝★

 

 

これは、滝沢馬琴作の八犬伝という大河フィクションではなく、山田風太郎が八犬伝の作者馬琴と北斎の交流などについて書いた小説「八犬伝」が題材なのだった。だいたい忠実に再現した内容になっているらしい。

戯作者馬琴(役所広司)には家族がいて、馬琴は物書きなので文化人然としているが、庶民であまり品のない女房(寺島しのぶ)は稼ぎのことなどでいつもお小言ばかり言っており、一人息子(磯村隼斗)は体が弱いので、馬琴は彼を医者にしてどこかの藩の御典医にくわえたいと願っている。

 

 

八犬伝は人気作品なので、しょっちゅう馬琴に会って話をしたいという人物が訪ねてくるが、人付き合いが悪くプロモーション力もない馬琴はよく追い返している。彼にとってはなんだかこの世は行きづらそうだ。でも北斎(内野聖陽)はそんな馬琴のもとに気が向くとひょいっとやってくる。馬琴は作品の挿絵を描いてくれと頼むが、北斎は自分の弟子を挿絵師に推薦した手前、いいとは言わない。そして馬琴から小説の構想をきくとサラサラとその情景を見事な絵にするのだが、絶対残さずに破ったり丸めて持ち帰ったりする。馬琴は北斎の絵から新たに構想をふくらます。この二人の名優が、ぽんぽんと気持ちよく会話を交わす、なんだかすごいものを見ている気がする。

もちろんファンタジーである八犬伝の内容も映像化され、中心となる犬士の犬塚信乃(渡邊圭祐)をはじめイケメン俳優たちがフィクションの世界で生き生きと動く。昔見たカドカワの薬師丸ひろ子・真田広之が出た映画よりも、そのVFXがより素晴らしいのは当然で、お城の瓦屋根の上で戦うと、走るにつれて瓦がばらばらとリアルに落ちていく。これはやはり劇場で見るべきだろう。

 

 

対照的にリアルの芝居は重厚だ。芝居小屋の地下で、鶴屋南北役の立川談春と対立する馬琴の舌戦はスリリングでしびれた。俳優の演技を見るためにこの映画を見に行ってもいいくらい。馬琴はあくまでも勧善懲悪をよしとし、南北は超リアリストだった。北斎らがだんだん歳をとって行くさまも、美術さん衣裳さんが上手につくっていた。馬琴が目が見えなくなったら、(白内障か緑内障?)それまでろくに読み書きができなかった、息子の未亡人である嫁(黒木華)がけなげにも勉強して代筆をしてくれたのも感動的だった。こうして、世界的にも類をみない大河冒険小説は完結したのだった。ファンタジーにリアルを絡ませた山田風太郎の小説も現代的で面白い。(読んでないけど)(^^;)

 

★二度目のはなればなれ★

老優マイケル・ケインの役者人生最後の作品。これまでで一番演じていて楽しかったそうだ。

 

 

イギリスの街の工場で働いていたレネ(グレンダ・ジャクソン)はバーナード(マイケル・ケイン/若い時の役者はもちろん別人。その役者がハンサムだとマイケルは嬉しそう)と戦争のために引き裂かれたが、バーナードはあのノルマンディー上陸作戦から生還し、その後結婚して長く連れ添った。90歳ほどになった今(2015年頃)は海辺の町にある介護付き老人ホームで静かに余生を送る日々。バーナードには心残りがあり、Dデイ(ノルマンディー上陸作戦の日。この成功を境に、連合国側が勝利にむかったとされる)作戦のときに戦友を鼓舞し、その彼が目の前でなくなったことをずっと悔やんでいる。彼はその年のDデイ記念式典に出席するために申し込みをしていたが、席は得られなかった。あきらめようとするが、レネは「招待されていなくても行くべきよ」と夫を励ます。彼女はよく心臓発作を起こし、日常生活はなんとか自立しているが、一人で外出するなどの行動はできない。夫が遠くにいくことは避けてほしいようなものだが、明るく楽天的な彼女はそういって背中を押したのだ。何より夫を愛し、信じているから。でも彼女は少しずつ身の回りのものを整理し始める。度重なる発作にもう先が長くないと感じたから。

 

バーナードは施設に内緒で朝抜け出し、なんとかフランス行きの船に乗れた。余談だが、当時イギリスはEUから離脱していなかったので、2国間の移動もスムーズ。

(^-^; お金もなかったが、船で知り合った元空軍の人にホテルの部屋をシェアしてもらえたし、参加の権利も得た。道中、別の戦争で片足を失った船員の若者を諭したり、その空軍の友人が、弟を自分の都市爆撃で殺してしまったのではないかと悔やむのに寄り添ったり。人生は本当に複雑で、戦争はとんでもないほどに人の心に影を落とすのだ。

 

彼の不在に気づき、施設は行方不明者としてバーナードを探し始めるが、レネが彼はただDデイ式典に行っただけだというと、うってかわってSNSやマスコミに取り上げられて、90歳の英雄扱いになり一躍有名人に。(・_・;)結局彼と友人は、フランスに来ていたもとドイツ兵らに参加チケットをあげて、二人でバイユーの外国兵戦没者墓地に出かけた。バーナードは海軍の友人の、友は弟の名前を発見し、バーナードは友人から預かっていた恋人への伝言を墓に供えた。なぜ恋人に渡せず持っていたのかは、わからない。戦後のどさくさで行方がわからなかったのか、それとも恋人が結婚していたとか亡くなっていたとか、事情があるのだろう。そして、彼はレネのもとに帰ろうと決める。

 

帰国したバーナードは出迎えた周囲の反応に驚くが、今までと変わらない生活にもどる。レネはまだ気持ちの沈んでいる彼をいたわり、私たちはうまくやれたかどうかはわからないけど、結婚生活で一秒も無駄にしていない、今度またあなたがどこかに行くときは、自分も一緒だという。若い時の思い出のシーンもよみがえり、彼らの積み重ねてきた時の豊かさにじんとした。最後に流れてきたジャズのスタンダード曲 "You'd be so nice to come home to"がほんとにぴたっときて、沁みた~~。

実話なので、この半年後にバーナードが、そしてそのあとを追うようにレネがすぐ亡くなったとのことである。