「エンパイア・オブ・ライト」
つけられたキャッチコピーは、「人生を照らす光は、きっとある」
舞台は、サッチャー政権下の1980年代。産まれていなかった人も多いだろうけど、確かあの時代のイギリスはかなり経済状況が厳しかったと思う。失業率が高く、社会が暗かった。お話の紡がれる場所は海辺の町の寂れた映画館兼ダンスホール「ドリームランド」、サム・メンデス監督がロケハンで気に入ったこの建物が「エンパイア劇場」となった。
1階がロビーで2階に2ホールのみの映画館。上はもう使っていない、閉鎖した2ホールとダンスフロア&バー。ここで働く中年女性ヒラリー(「ファーザー」のオリヴィア・コールマン)は、過去に家庭不和と精神科病院への入院歴があって、今も通院している。処方薬が炭酸リチウムといったら(躁)うつ病らしい。同僚たちは彼女に優しいが、支配人のエリス(なんと英国王のスピーチのコリン・ファース)は彼女の弱み([就労不適格者]なのに雇ってもらっている)に付け込んで、休み時間に彼のオフィスでのセックスを要求し、それを拒めない。とはいってもヒラリーは決して無教養な女性ではなく、時々詩の一節を暗唱している。
ある日、大学に進学する夢を諦めた黒人青年スティーブンが就職してきて、彼女が面倒をみるよう言われ、館内を案内する。開かずの間だった3階以上に興味を示した彼と上に上がったら、ダンス&バーフロアには鳩が入り放題で、そのうち羽を傷めた鳩を見つけた彼は上手に手当てをした。同僚には内緒でその鳩の様子を見に行くうちに、親子ほども歳の離れた二人はキスやその先も・・・あまりベタベタすることはなく、まるで友達同士みたいでもあるのだが、二人でいると心癒される男女の関係になった。歳の差を無視して見ていると、二人はむしろローティーンのカップルのようにほほえましい。バスで浜辺にいって砂の城を作ったり、水面で石切りをしたり。大晦日を共に過ごす特に親しい人もいない二人は、ニューイヤーの花火を劇場の屋上で一緒に観るのだった。
しかし二人には問題があった。薬を飲まなくなった彼女は、上から目線なことを言われると急に怒り出して砂の城を崩すし、彼は道を歩いていると白人のごろつき達に「バナナ食ってろ、サル!」みたいに絡まれる。かつて労働力不足のため受け入れたカリブ海からの移民を、不景気な今は白人から職を奪うものとして排斥しているのだ。時にデモや暴動が起こって黒人の死傷者も出ていた。スティーブンのママは看護師で、パパは女と出奔していた。
当時の映画は、レイジング・ブルやインディ・ジョーンズ、ブルース・ブラザーズ、オール・ザット・ジャズなどがエンパイア劇場で上映され、音楽は、パンクな化粧の従業員ジャニーンとスティーブンは、スカとパンクの融合したスペシャルズとかがお気に入り。私は当時はロックといえば渋谷陽一さんや、小林克也さんの番組「ベストヒットUSA」の世代なんだけど。(^^;)
そのあと、「炎のランナー」のプレミア上映会が市長らの御臨席で開催されるとき、調子が悪くなっていたヒラリーが、勝手に舞台に上がってスピーチしてエリスの晴れ舞台をぶち壊したり、そんなこんなで強制的に入院させられたり、黒人排斥デモがおきてエンパイア劇場に乱入してきた白人チンピラにスティーブンが半殺しの目にあったり、数々の波乱がおきる。
ヒラリーは映画館に勤めているのに映画を見たことがなかった。が、老映写技師に頼んで映写室で見せてもらう。当時は頻回にフィルムをかけ替えなければならない技術のいる仕事だった。闇の中を通る光が、スクリーンに様々なスペクタクルや人生模様を映し出す。映画の映像はずっと光としてあるのではなく、残像のおかげで光と光の間の闇も、人の目には連続した光とうつるのだそうだ。それを見つめるヒラリーの瞳が潤み輝いた。
ふたり、エンパイア劇場で傷を癒して飛び立った鳩のように、スティーブンは大学への入学を認められてほかの街へ旅立ち、送り出したヒラリーも映画を心の友として、寛容な同僚たちとここで働き続けるのだった。ふたりが過ごした時間は残像となってのちの闇も照らすのだろうか。
・・・いくつかひっかかるところはあるのだけれど、でも、大きくいってこれは傷ついた寂しい人を包みあたためる作品だと思った。エンパイア劇場の、格調高い内装の、オペラでも上演しそうなホールが魅力的。(これが映画館?)そしてなによりオリヴィア・コールマンが素晴らしかった。
「湯道」
笑って、泣いて、整って。(⌒∇⌒)
東京で建築デザイナーとして働く兄三浦史朗(生田斗真)は、独立したら仕事の注文がなくなり、父が亡くなったので実家の銭湯「まるきん温泉」を売ってそこにマンションを建てようと思い、帰郷する。しかしそこを切り盛りしていた弟の悟朗(濱田岳)と住み込み従業員のいづみ(橋本環奈)に反対され、計画は頓挫、ボイラーの火災でケガをし入院した悟朗のかわりに銭湯の運営を数日間担った。定年間近な郵便局員横山(小日向文世)はお風呂について深く顧みるという「湯道」をたしなんでいて、その講義は病気の家元(角野卓造)の内弟子(窪田正孝)が行っていた。家の風呂が故障し横山もまるきん温泉へ。焚くための廃材を持ってきてくれる風呂仙人(柄本明)、誰もいない一番風呂に入って思いっきり歌う婦人(天童よしみ)、風呂上りにビールを飲みかけては奥さん(戸田恵子)にとりあげられる食堂の主人(寺島進)など、様々な常連さんが通うまるきん温泉。銭湯を開業したころ「お風呂で人を幸せにする」と書いたボイラー室の署名に亡き父母に加え自分の名前もあって、感慨深い史朗。
さて、まるきん温泉は存続するのか?退職金で家に檜風呂を作りたい横山の願いはかなうのか?湯道の跡継ぎは決まるのか?・・・泣きはしなかったけど笑うところは時々あった。(ダジャレというかオヤジギャグもあったし。(^^;)(^^;))
ハートウォーミングな作品なので、安心して見られます、ほっこりしたかったらどうぞ。
ちなみに旦那を引っ張って行きましたが、楽しんでくれたようです。