前に月9のドラマで見ていた「イチケイのカラス」。イチケイとは、東京地方裁判所第1刑事部の通称である。カラスというのは、裁判官の着る黒いガウンのこと。すなわち裁判官の物語。刑事訴訟でなければ、つまり民事なら、イチミンとか言うのだろう。
主人公は裁判官入間みちおで、竹野内豊が演じる。人を食ったようにいつもひょうひょうと落ち着き払っていて、ものの見方がユニークでフラット。裁判ドラマでは「99.9」や「京都地検の女」などで、弁護士や検事が案件の調べ直しをして真実にたどり着いているが、裁判官がそういうことをするのは見たことがなかった。しかし入間みちおは「職権発動」という伝家の宝刀を抜いて、裁判官なのに頻回に案件の調べ直しをするのである。それで真実がわかって考えられていたことがひっくり返るのが面白いドラマなのだが、彼が「変人」いや型破りでしばしば周囲が迷惑したり、お堅い層からにらまれているのも事実だ。
特に、東大卒のエリート裁判官でかなりカチコチの坂間千鶴(黒木華)とはよくバチバチ言い争っている。でも千鶴の情熱的で正義感が強いところは好ましく、それにみちおの幅広さ柔らかさが加われば、鬼に金棒だ。彼らを見守る部長裁判官の駒沢(小日向文世)もいい感じ。
 
さて、昨年秋から映画館でよく予告編スポットCFを見させられていたイチケイのカラス劇場版が、13日に封切りになった。最近は映画封切りまえにテレビでスペシャルドラマをやるようだが、この作品もスペシャルを放送した。そのドラマと劇場版と両方を見た。
 
 
まずこれがスペシャルドラマ。以下はFODでドラマにつけられていた前振りで、少し長いが貼り付けてみる。

**入間みちお(竹野内豊)がイチケイから異動になって1年後の熊本を舞台に幕を開ける。熊本地裁第二支部で精力的に裁判を行うみちおのもとに、ヤンキーグループの決闘の仲裁に入った青年・諏訪遙人(髙橋優斗(HiHI Jets))が殴られ、意識不明の重体となった傷害事件が起訴される。加害者と推定された内田亘(嘉島陸)は、全面的に罪状を認めており、執行猶予付きの判決で収束する事件のように思われた。しかし、調査を進めると、不審な点がいくつか見つかる。さらに警察の取り調べの際、内田は容疑を否認していたという。なぜ、内田は証言を変えたのか?疑問に思ったみちおは、職権発動して捜査を開始する。

一方、東京では、イチケイの部長裁判官である駒沢義男(小日向文世)が、“代理お家騒動裁判”と世間から注目を集める大企業・星積ホールディングスの社員同士の傷害事件を審議していた。社員たちは、次期社長候補の派閥にそれぞれ属していて、代理戦争の様子を呈していた。対立しているのは、同社役員、大藪重之(北村一輝)と嶋津奈都子(中村アン)。奈都子の部下・丹羽昭久(吉沢悠)らはとにかく裁判を早く終わらせようとする。そんな両者の態度に、駒沢は怒りすら覚えてきて・・・。
捜査を進めていく中で、とある場所で鉢合わせるみちおと駒沢。みちおは内田の弁護人を務める吉塚悟(小柳友)、検察官の木内真菜(向里祐香)と、一方の駒沢はみちおの弁護士時代の同僚で丹羽の弁護人を務める、青山瑞希(板谷由夏)の部下で若手刑事弁護士・佐倉朝子(堀田真由)、書記官の岡林保(戸塚純貴)らと現れる。
みちおが担当する“熊本・ヤンキーの決闘”と、駒沢が担当する“東京・大企業の代理お家騒動”の2つの事件のある接点が浮かび上がる。物語のラスト、裁判で直面する、この事件の背後にあった切ない愛の物語と大きな闇とは?**

 

このドラマでは坂間との丁々発止はほぼ見られなかったが、なかなか面白かった。ヤンキーグループの一員として「君花」の宮世流弥くんも出ていた。また、熊本のみちおのもとにわざわざ異動してきた書記官中村梅雀さんの家族の話も出てくる。諏訪君らの家族や仲間を思う気持ちもよかった。

 

そして劇場版イチケイのカラス。

 
今回はまた転勤で(裁判官は地縁での癒着を避けるためにあちこち転勤する)岡山に来ている入間みちお。ところがその隣町に坂間千鶴も弁護士として赴任していた。裁判官は他の職種も2年間経験しないといけないのだそうだ。千鶴は吉田羊の産業医と宮藤官九郎の町役場職員夫婦によくしてもらって本屋の二階に事務所を開くが、依頼がほとんど来ない。依頼は人権派といわれる弁護士月本信吾(斎藤工)がほぼ独占していた。しかし彼には悲しい過去から生まれた裏の顔があった。
ある夜、沖で自衛隊のイージス艦と貨物船の衝突事故がおき、貨物船の乗組員が全員亡くなった。過失は貨物船にあると思われたが、イージス艦の航海日誌が紛失するなど不審な点が多かった。船長(津田健次郎)の墓参りに訪れた最年少防衛大臣(向井理)に、本当のことが訊きたいと迫った船長の妻(田中みな実)が刃物を持っていたことからこれは傷害事件に発展し、みちおが裁判を担当することになった。しかし状況証拠に納得しないみちおが真実を明らかにしようとするも職権発動は国家に対しては使えず、さらに彼は裁判の担当から権力によって外されてしまう。千鶴もまた地元の町の経済的基盤である企業シキハマの工場から汚染物質が排出されて、既に健康被害が出ている問題の訴訟を担当し、相手が手ごわいので月本とタッグを組んで真相を解明しようとする。その問題は、貨物船衝突事故と深いかかわりを持っていた。
 
この作品を見て気になったのは、何度も「町を守る」という言葉が使われていたこと。これは仲良し5人組(内訳は言うとまずいからここでは言わない)がお互いに誓い合って、実際にそれぞれが町のために尽くした合言葉のようなものなのだが、どうにも聞いていて気持ち悪かった。守り方のベクトルが違う方向に向いていないか。企業の負の部分を追及すれば、それに経済的に依存する町が崩壊するだろうと危惧するあまり、健康で安心して暮らせる町とは言えないほうに舵を切っている。そのために犠牲になる住民が出ても反省している様子なく、悲劇のヒロイックになっているのはどうにも納得できない。弁護士の家に放火なんていう嫌がらせも。
・・・・・あの、和菓子屋の子として八木君使う必要性ある?女性観客を呼びたかったんだろうな。(-_-;)確かに八木君を見るのは楽しみではあったが。千鶴の案件の裁判はみちおがジャッジすることになり、結局企業の不正は明らかにしたけれど、大臣のやってたことについては問えないんだものね。
 
劇場版だから船の事故や工場でのチェイスなどスケールは大きかったけど、そして千鶴とみちおの絡みもたっぷりあって面白かったけど、(野球したり土掘ったり・・・微謎(^^;))「町を守る」が気になって、後味が良くなかった。それは私だけかもしれないけど。
なので、むしろスペシャルドラマのほうが気持ちよかった。