[ミセス・ハリス、パリへ行く]
いつもの映画館にはフライヤもおいてなくて、だから上映されるのに気づかなかったのだが、ある日から大きなポスターが通路に貼られた。(掲載した写真は「映画.com」から。)
Facebookの中のローカル映画ファンコミュでほかの人が超おすすめしていたので、映画.comで確認したあと見に行った。
 

時は第二次大戦終了の、数年後。ロンドンに住むミセス・ハリスは、戦争に行ったまま帰らない夫(花屋勤めだったらしい)を待ちながら、通いの家政婦をして、それでも一人で明るく暮らしていた。家政婦協会みたいなエージェントがいなくて個別に探したのか、2か所の契約先は、なんとなくだらしない感じの女優志望のやや若い女性宅と、お金持ちらしいのに気前よくお給金を払ってくれずに、小切手を換金し忘れたなどと言うマダムのいる邸宅。ある日ミセス・ハリスは、邸宅で素晴らしく美しいドレスを見つけた。マダムは、ディオールのよ、それ500ポンドもしたの、夫には内緒よ、という。つまり、良くはわからないが、普通の人が買うのとは桁が2つ

くらい違うドレスなのだろう。もちろんお誂えである。当時は高級な衣類はオートクチュールで仕立ててもらうのが普通だったろうし。ミセス・ハリスにとっては夢のようなものだし、着ていく場所もないのだが、なぜかこのときは、こんなドレスをいつか着てみたいという思いが芽生えた。マダムに、家政婦は「透明人間(見えない存在、目立たない存在)」よと言われたからだろうか。

 

 

 
それからは、コツコツお金をためたり、家政婦友達の親友とサッカーくじをやってみたり、友人男性も含めドッグレースをやったり・・・そして夫の戦死が明らかとなって、見舞金が入り、目標の金額がたまった。彼女は何のつてもないのに、一人で日帰りの予定で((@_@))大金の現金を携えてパリにでかけた。行く先々でトラブルに見舞われるが、彼女がきっぱりしていてものおじせず気さくなので、パリの駅にたむろする知的ルンペンぽいおじさんや、ディオールのメゾンに勤めるマヌカンやお針子、ディオールの職員の青年や、新作ドレスお披露目会に来たやもめの貴族まで、彼女に親切にしてくれる。みな、普通の市井の人である彼女が美しいもの(夢)のためにこれだけお金をためる努力したことに感心していた。むろんお金持ちなのを鼻にかけた人もいて、ミセス・ハリスが一番気に入ったドレスをさらっていった(一点ものなので)が、二番目に気に入ったグリーンのドレスを作ってもらう権利を手に入れた。しかし何度か仮縫いをせねばならないので、(日帰りじゃあ無理よね(^^;))ロンドンでの仕事は親友に代行を頼んだ。
 
 
上の写真はなんだか「ローマの休日」みたいだが、彼女にいま不在の妹のアパートを貸してくれたディオールの職員の青年。詳しくは書けないが、ミセス・ハリスのおかげで、ディオールにも新しい改革の風が吹いた。彼女の家に、フライヤにあるグリーンの素晴らしいドレスが届いたとき、彼女の顧客の女優志望の娘が飛び込んできた。これから仕事をゲットするため演劇界の重要な人に会うのに、着ていくドレスが(シワシワだったりして)ないの、どうしよう、と。ミセス・ハリスは、人がいいのでドレスを貸してしまうが、その娘がなんとストーブの炎でドレスを焦がし、台無しにしてしまったのだ。無残な姿のドレスと、私は幸い無事よという呆れたメモだけが彼女に送られてきた。ミセス・ハリスは、テムズ川の橋の上からそのドレスを捨ててしまう。そして、業突く張りな邸宅もやめて家で沈んでいると、新しいドレスがディオールから届けられた。あの彼女が一番気に入った深紅のドレス。なぜならあのときのお客(の夫)が労働者からの搾取がばれて失脚したため、引き取り手がいなくなったものを彼女のサイズに合わせて作ってくれたのである。そのドレスを着て「軍人会」でダンスするミセス・ハリスは、輝いていた。・・・すみません、十分ネタバレですね。(・_・;)
この作品の原作はポール・ギャリコだった。フォローさせていただいているbluebird book cafeのいくらさんのブログを読んで気づき、そういえばと思い出したのが「スノー・グース」だ。これも美しい短編小説で、何よりその小説にインスパイアされた、(プログレッシブ)ロックの組曲作品があるのだ。イギリスのキャメルというグループのアルバム(LPレコード)である。
 
 
組曲と言っても一枚通して気持ちよく聴けて全部美しい。このアルバムは、高校生のときに、クラスメートの女子に「あんた絶対これ好きだから、買って」と頼まれて少し安くしてもらって買ったもの。彼女は買ったはいいが好きではなかったらしい。どんなストーリーかは、このかたのブログをご参照いただきたい。https://www.soundhouse.co.jp/contents/feature/index?post=439
(あとでメッセージするつもりだが、Facebookとかで引用できるようになっていたので、URLを貼り付けさせていただいた。)
この映画は見終わって気持ちがほっこりするから、私からもお薦めである。
 
すずめの戸締まり
 
 
これはもう大ヒット作だし、内容は言うまでもないような。初めから動員を見込んで、いつものシネコンでも複数ホールで一日に何回も上映していたし、今の時点で300万人以上が見たらしい。じつは新海監督の「君の名は」も「天気の子」も、上映中にまたみたいとは思わなかったが、これはまた見に行ってもいいかなと思った。
入学前くらいの子供の時、本好きな私に、母が買ってくれた分厚い少年少女向け「日本の歴史」シリーズの第一巻が、神話時代~古代編だった。結局そのシリーズは、第2巻くらいまで買ってもらえたかどうか。おかげで、「豊蘆原の瑞穂の国」だとか「常世」だとか「邇邇芸命」だとか(難しい漢字は使ってなかったろうけど(^^;))、なんとなくなじんでしまっている。
そうか、常世(とこよ)って、あの世ではなく、時間が一緒くたになった場所なのね、などと変に納得しながら見た。対義語は現世(うつしよ)。すずめの姓が「岩戸」というのも、「天岩戸」*(あまのいわと)を連想させる。つまり、すずめは、後ろ戸を開けるべくして開けてしまう運命にあったんだろうね。
それにしても、いつものとおりの美しい画面、精密な絵のすばらしさ。とりわけあの三本足の椅子が駆けるところには感心した。可愛いし。
それに声優たち。オーディションで選ばれたすずめ役の原菜乃華も、壮太役の松村北斗も素晴らしかった。松村君って、あんないい声してたんだ。もちろんその友人役の神木隆之介くんも、いい味出していた。
最近見た「天間荘の三姉妹」にもモチーフとして東日本大震災が取り上げられていたが、すずめの戸締りでもそうだった。東北。陸の上の船。基礎部分しかなくなったすずめとお母さんの家。「うしろ戸」が現れるような場所(廃墟)をあちこちに置き去りにしてはいけないなあ。行く先々で助けてくれた人たちの存在は、気持ちを和ませてくれてよかったな。
*(あまのいわと:日本神話で、天照大神が世の乱れに、心折れて隠れ、頑丈な岩戸で蓋をした。どんな強力でもその戸を開けることができず、地上は真っ暗になってしまった。人々は困って、わざと戸の外で賑やかに宴会をやり、大神がそっと様子を見に扉を少しあけた隙に、控えていた強力たちが岩戸を開放したという神話)