憤慨する満は浩一をひっぱって委員長と3人で人気のない生物室に入った。きっと俺は(あの人たちには)見えてないんだ、しかたないよという浩一に、満はイラッとして、でも死体だけどお前は生きてるだろう!と言う。(私には、浩一がどんどん普通の死に近づいて行って、自分の前からいなくなってしまうおそれへの満の不安がそうさせているように感じられた。)
そこへ玉ちゃんこと玉置先生が準備室から出てきた。彼は生物の先生だから(原作によると水槽で飼っているウーパールーパーにエサをあげようとしたのだ)。玉ちゃんは、昨日はありがとう、呼び出してお礼を言うのも変だと思って遅くなってしまった、と深々と3人に頭を下げる。
小河先生は辞職するとのこと。俺が学校を辞めようと思ったのだが、新しい環境に行きたいと彼が希望していると。もう授業が始まっているから教室に帰りなさいと言われ3人は生物室から出ていきかけるが、満がとどまったので浩一もとどまった。
満は気になっていた小河先生とのことを玉置先生に訊く。小河先生が飛び降りようとしたのは玉置先生が原因でしょう。小河先生は優しいいい人なのに、なぜですか?
玉置先生は、まさに雅彦が優しいいい人だから、今でも雅彦を愛しているけれど逆に別れようと思ったという。俺の一番は他にいるのに、雅彦に甘えすぎてしまった、早く別れて別の人を見つけてもらうべきだったと。一番の人がほかにいるのに、なぜおがちゃんを?と、満は納得がいかない。満は一見クールな人に見えているが、実は一本気な性格なのだ。彼はだから、母が亡くなっていても父が香住先生と交際していることを快く思っていない。でも玉置先生は、俺の一番はもういない、亡くなったんだ・・・もう20年も前の事なのに、今でも時々彼を探してしまう、と言った。ギクっとする満。( ノД`)玉置先生も切ないなあ。
満と浩一は、おがちゃんとたまちゃんの話がそのまま自分たちの未来のようで、胸に突き刺さった。でも、浩一は、なだめるように満の手を握ってから尋ねる。「先生、同着一位はダメですか?」「えっ?」「一番が二人いちゃだめですか?」同じくらい大好きな人が二人できてもいいではないかというのは、自分がいなくなった後にひとり残される満を思いやっての浩一の優しさである。玉置先生は満に、「君の相棒は面白いことを言うなあ」とほほ笑む。玉置先生には浩一が見えているんだね。関係性の深い人や心情を共有できる人には、特に満と一緒にいるときは浩一は見えるらしい。
満は先生に同意するが、心のなかでは、「お前どういうことだよ、みっちゃんと同じくらい好きな人がほかにいるなんて言われたら、俺は滅茶苦茶腹立つぞ」と思う。一方浩一は、みっちゃんにだけ見えていれば、俺はそれでいいよと言うのだった。(´;ω;`)浩一も別れが辛いし、後で自分以外がみっちゃんと・・・と考えれば複雑な気持ちだろう。でも、笑顔でみっちゃんを包み込む。自分が人々から忘れられていく恐怖を抱えながら。なんて愛情深い子なんだろう。(彼の生い立ちからくる影響も大きそうだ)
放課後二人はまた香住先生を訪ねて青海総合病院に行く。浩一の太ももの傷が開いてきたので(生体と違って回復力は期待できないからね)、外科的に縫合しなおしてもらうためだ。香住先生は縫合に手間取っていて、私内科医だから手際が良くないのよというが、実は浩一の体が透けてきていたので、縫いにくかったのだ。その部屋に急用で看護師長が入ってきて、治療中でしたかすみませんと謝るが、診察台に乗った浩一のことは見えていない様子で、香住先生に紹介された満(院長の息子)にだけ挨拶して用を足して去った。はあ~ビビったと浩一、でも香住先生は、浩一君がだんだん透けてきていると満に打ち明ける。浩一が満と話したりするとはっきりするというのだ。
暗澹たる気持ちで帰る満(と、浩一)に、小走りで向こうから来た男性がぶつかりそうになった。あ、こいつは、あの運転手だ、浩一をひいたやつだ!と気づく満。相手も気づいて、君はあの時いた子だね、一緒にいた子は大丈夫だったのか、と尋ねる(やっぱり浩一は見えていない)。彼らが事故現場から消えてしまったから、警察にも嘘を言っているように思われて怒られたし、ほうぼうの病院に問い合わせてもそれらしい怪我人はみつからなかったし、心配していたんだと。満は激しく憤って文句を言いそうになったが、浩一が制した。
満は最大限に気持ちを抑えて、生きてます、大丈夫です、痛みもないようです、とぽつぽつと言った。運転手は、今、状態が悪い母の様子をちょっと見てくるから、すぐ戻ってくるから待っていてと言った。あの日も母の具合が悪いと聞いて、病院に来るのについスピードを出してしまったのだと。満が「早く行ってあげてください」と言うと、走っていった。
みっちゃん、よく頑張ったね。それにしても本当に浩一っていい子だ。「早く消えよう」と満を促して院外に出た。お前、腹立たないのかと満は浩一にきく。浩一はちょっと考え、よく考えたら俺怒ってもいいんだよな、でも、うーん、なんでかな、あまりそんな気になれないのは、みっちゃんが怒ってるからかな、俺の分まで。みっちゃん、すげえ怖い顔してる。そして満の頬をむにっとつかんだ。やっぱりみっちゃんはこっちの方が可愛いよ。
「やめろよ!」と浩一を振り払い、こらえきれなくなって涙を流した満に、そっと背後から、みっちゃん、俺こんなでごめんなとハグする浩一。
他に人気のない駐車場で、満(と浩一)はそのまましばらく泣いていた。(T_T)原作では、浩一が他人に見えないから、手放しで泣き続けている男がいると通報されなかったのは、ここが病院の駐車場だからだろうと満は思っている。
前からくしゃみしていたが、ここで冷えたのか呼吸器の弱い満は熱を出した。呼吸器の弱いのは母譲りである。お母さんは呼吸器の病気で、長く入院したあと亡くなったらしい。(原作より)
浩一は満の看病をする。何すればいい?加湿器をかけて、冷蔵庫の保冷剤と、常温の水を持ってきて、・・・そばにいてくれ。
もちろんだよ、みっちゃん。と額にキス。
浩一って、食べないし、眠らなくていいし。(前々日も満の寝言を夜も朝もちゃんと聞いていた(^^;))パワフルな死体だが、「鬼」である浩一は、愛する人が分け与える生命力で動いているらしい。だから満のそばにいるときはくっきりするらしい。
満の熱はなかなか下がらなかった。その半分は浩一のせいだと思う満。