原作は、砥上裕将氏の2020年に本屋大賞第3位となった同名小説。残念ながら、例によって読んでいないけど。主演は、いつも爽やかな青年と思えば「流浪の月」で「ええ?」な男も演じて、その演技力の奥深さを感じた横浜流星。スタッフは、「ちはやふる」のスタッフ。
ある日、大学生の青山霜介は、友人(細田佳央太)にバイトの交代を頼まれて、水墨画の絵画展の設営スタッフとして寺の境内にいた。映画の初めのシーンは、見つめる霜介の顔アップ。彼が見つめていたのは、戸外に展示されていた椿の花の絵だった。知らず知らずのうちに涙をあふれさせていた霜介。彼にとって椿の花は特別な意味をもつ花だったし、なによりその椿の水墨画は、白黒なのに色彩を感じさせる生き生きした花の絵であった。書き込まれていた作者の名は千瑛(ちあき)だったが、彼は「せんえい」さんの絵だと思う。
そんな霜介に、日本画の巨匠篠田湖山(三浦友和)が声をかける。私の弟子になってみない?と。湖山は、霜介が絵をみて泣いていたのを目撃していて、彼の中に何か感じたのだった。それは霜介も同じで、水墨画は彼の心の琴線に触れたらしい。霜介は弟子なんて恐れ多いと断るが、湖山の絵画教室(そんなのは実はなかったけれど(;^ω^))の生徒になる。
「せんえい」は、湖山の孫娘の千瑛(清原果耶)で、才能を高く評価されていたが、ある時手厳しい批評をうけてからスランプに陥っていた。彼女は祖父になにかヒントなどもらいたいのに、何も教えてはくれない。なのに祖父は霜介の面倒をみるようにという。憮然としながらも、人がいいので霜介に手ほどきをする千瑛。湖山は手取り足取り教えることはしないが、よく弟子・門人を見ていて眼差しは温かい。師匠とは、こんなものなのかもしれない。三浦友和は、いつのまにか老人役をするようになった。自分の年齢を考えれば、いつまでも「百・友」や「三丁目の夕日」の友和ではないわけだが、味があった。
純和風の懐かしい香りのする湖山邸は、弟子の湖峰(江口洋介)が切り盛りする。上位の弟子なのに、「他にできる人がいないから」と全く屈託ない様子で家事をこなす悠々とした兄貴分。昔出たドラマを思い出すが、この人はこんな役が似合うなあ。(^ー^)湖山が描いた春蘭の絵を手本に、自分のアパートに帰ってもひたすら模写し続ける霜介。水墨画は様々な表情を持った線により、対象を描くものだが、その絵の表すものは画家の心情、覚悟、決意など、命の状態そのものである。心が定まっていないと、一本の線をすっと引くことすらできない。だから、自分が線で描くことはそのまま線が自分を描き出してしまうことにもなる。それはある意味恐ろしいことかもしれない。
霜介がとある事件以来ずっと沈んでいたのを心配していた友人(細田佳央太、河合優実)らは、水墨画サークルを学内に立ち上げ、千瑛を講師に呼んで活動し始める。霜介は水墨画に命を傾けることでその経験を乗り越えられるのか。千瑛はスランプを克服できるのか。(清原果耶はやはりさすがだった)・・・・・見終わった後に心が洗われたような気持になる作品であった。
「アムステルダム」
はじめ、いつの時代の出来事なのかわからなかったが、第二次大戦よりは前の時代のことだったらしい。アメリカ兵でユダヤ系医師のバート(クリスチャン・ベール)と黒人兵のハロルド(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は戦友。第一次大戦か、黒人兵は今以上に差別され危険な最前線に投入されていたが、班長?のバートは差別をしなかった。二人は大けがをし、野戦病院で会った看護師ヴァレリー(マーゴット・ロビー)のおかげで、生命と社会的脅威との両方から逃げることができ、アムステルダムで3人は楽しい時を過ごし、ハロルドとヴァレリーは人種を越えて恋人同士となり、ハロルドとバートは親友になった。バートはユダヤ系なもので、NYでは医師の名家である妻の一族から、戦功をあげるようせっつかれて参戦し、右目を失ったのだ。バートとハロルドはそのあとNYで医師と弁護士(本当に頑張ったのだろう)をしていたが、そこに友人リズ(なんとテイラー・スウィフト)がヨーロッパ旅行中に不審死をとげた、父であるリベラルな将軍の死体を持ち込み解剖を依頼する。その結果を伝えるため街かどでリズに会った二人は、いきなりリズを車道に突き飛ばした誰かによって、殺人犯の濡れ衣を着せられてしまう。
活路を求めてある実業家(ラミ・マレック)の屋敷を訪ねた二人は、そこで姿を消していたヴァレリーを見つけた。彼女はその実業家の妹で、怪しげな薬を飲まされて精神病者のように扱われていた。しかし、二人に会って彼女は薬を飲むのをやめ、無実を証明するため3人で行動開始。そして、バートの主催する大がかりな退役軍人の会で、絶大な人気のある元将軍(ロバート・デ・ニーロ)に、事件の黒幕(一部の実業家たち)の用意した原稿で演説をさせることが目的だったと判明する。そうして元将軍をヒトラーやムッソリーニのようにカリスマとして持ち上げ、選挙もなしで大統領にし、自分たちの好きなように動かそう(戦争をおこさせる)としているのだった。デニーロは存在感も演技力もやはり素晴らしく、高潔な人格の将軍として、命の危険もかえりみずに自分の原稿で演説をした。そして、ハロルドとヴァレリーによって、暗殺者から元将軍を守ることができ、アメリカにファシスト大統領は誕生しなかった。
奇想天外な話だが、全く全部が真実というわけではないにしても、これは事実に基づく映画らしい。驚きだ。でも重い映画かと言うと、やはりこれはコメディー。ややドタバタ劇的なところもちょっとあり、面白かった。にしても、クリスチャン・ベールって、あんな風貌だっけ?「フォード対フェラーリ」「バットマン」の彼とは思えない。(-_-;)TENETのジョン・デヴィッド・ワシントンのほうがすかっとしてたなあ。それだけクリスチャン・ベールも役者なんだね。