今年のNHKの土曜夜22時からのドラマ(5話完結）、結構面白い。
主人公の桐子（松坂慶子）は、70代の独り者。家族も財力もなく、寂しく思っている。唯一の趣味は句会で、主催者（？）の俳人は片桐はいり、いつもの句会の面々も、みな高齢者である。中には昔テニス選手でスタープレイヤーだった三笠(草刈正雄）がいて密かに憧れている。桐子は俳句仲間で親友のトモ（知子：由紀さおり）と、彼女の夫がなくなってから3年の間一緒に暮らし、人生で一番といえるくらい楽しい生活を送ったが、トモは病気でこの世を去ってしまった。いつも快活で、おっとりゆったりした桐子と違ってなんでもよくこなせたトモ。彼女がいなくなって、形見に残してくれると言っていたトモの黄色い手編みのショールなども娘さん（戸田菜穂）らにバタバタと処分され、がらんとした家で、財力もない桐子は古くて今にも壊れそうなアパートに引っ越す。老人の一人暮らしには不動産屋も厳しいのだ。
パチンコ店で清掃のパートをしながら、寂しく先行きが不安な桐子は、テレビで見たニュースに衝撃を受ける。それは出所したばかりの老いた男が、また刑務所に出戻りたくて再び犯罪を犯したというもの。
まあそれはそうだろう。若かったり、待っていた家族がいたりすればまだやり直しがきくが、高齢になって娑婆には家族も友人もなく、再就職も部屋を借りることもその年齢と過去では厳しいとなれば、刑務所に舞い戻りたくなるのもわかる。（しかし彼らも、換金できる仕事は所内でするだろうが、結局国民の税金で暮らすということなのだと思う。そういった境遇の人は娑婆にもたくさんいるけれど、それでも塀の中を選ぶのは、やはり人間関係を自ら作りにくいが寂しい人だからなのだろうか。）自分の自由と尊厳を相当犠牲にできるならば、寝床と食事とちょっとした会話の相手がゲットできるということだろう。
それに感化された桐子は、刑務所に入りたくて「ムショ活」を始めた。ちょっと、無邪気すぎませんか、あなた。(-_-;)係累がたくさんいれば、迷惑をかけるからとてもそんなことはできないが、家族がいないし友達もトモ以外は眼中にないからこそ、桐子は存外思い切ったことができるのだろうか。そして、なるべく人に迷惑をかけないように犯罪を行って収監されようと計画を練る。ものを盗るならそれは返すつもり。殺人はしない。（土台、臆病で引っ込み思案なのに。(^^;)）
変に前髪ぱっつんな、中世の修道士みたいなダサいヘアスタイルにした桐子役。ぽっちゃり体形だけどとてもきれいな松坂慶子さん、好きな女優さんだ。彼女の役には邪な隠れた了見がないものがほとんどで、多分素の性格も、真面目でおっとりしたかただと思われる。一方トモはちゃきちゃきとして、そんな桐子をあたたかくリードし慈しむ由紀さおりさん。以前はNHKやフジの歌謡番組の中でよく寸劇があり、そこでもそんな感じのコメディエンヌとしていい演技をしていた。NHK「お江戸でござる」での女優さんぶりも懐かしい。
桐子が働くパチンコ店の上司として、岩田剛典くんが出ている。彼は、今回、ムショ帰りと噂されている役なので、桐子はおずおずと「犯罪小説を書いているので」と偽って犯罪指南を仰ぐ。結局は彼女がムショ活をしていることがばれてしまうのだが、岩田君はいろいろと相談に乗ってくれる。また、派手な格好をしたパチンコ店常連客に宇崎竜童氏。ヤバそうな金貸し役で、一時は桐子に強盗されそうになるのだが、彼女がドジすぎて一枚どころか何枚も上手な彼は、むしろ桐子に協力してくれるようになる。そして、桐子がスーパーでわざとわかりやすく万引きをしたときに（トモの大好物の苺大福ばかりたくさん）、それをつかまえたアルバイト店員に長澤樹ちゃん。彼女は「光を追いかけて」で中川翼くんと共演していたし、今は生命保険のCFで、病院の玄関で退院してきたママに抱き着く娘の役を印象的に演じている、といったら「ああ」とおわかりかもしれない。彼女は正論をいうしっかりした子だが、桐子を「桐ちゃん」と呼び、彼女がサーフィンをする浜辺に桐子がおにぎりを持って訪ねるなど、すっかり友だちになった。そしてムショ活を手伝い、しまいには身代金目的に自分を誘拐したことにすればきっと逮捕されて刑務所に行けるよと持ち掛ける。・・・・いったい何なんだ、これは？(ﾟДﾟ;)
家族も友達もいなくて寂しかった桐子なのに、岩田君、宇崎さん、樹ちゃん、さらには結婚詐欺師で三笠をだました木村多江さん、パート仲間で桐子を心配してくれるいい子（富田望結：朝ドラ「なつぞら」で番長と結婚した子）など、気づけばたくさんの協力者に囲まれているではないか。
万引きも強盗も結婚詐欺も誘拐も、ことごとく失敗した桐子。さらには、あの快活だったトモにも、実は桐子と住み始める前はもっと暗い影があり、なにか秘密を隠し持っていた（不倫か？）ことが匂ってきた。すでに第4話まで終わってしまったが、いったいどんな風に決着するのだろう。
写真はNHKのHPより。第4話は今ならNHK＋で見られます。