昨年秋に見られると思って楽しみにしていた作品だが、諸般の事情があったのだろう、この2月公開となった。原作が上橋菜穂子さんで、私はこのひとの作品が好きなので。とはいってもちゃんと何冊も読んではいないが、「狐笛の彼方」が夏休みの読書感想文の選定図書になって文庫で読んだ時からのファンだ。いつかはアマゾン?楽天?で、彼女の著作を数冊まとめてプッシュされ、ついぽちっとしてしまったが、悪い癖でまたすぐ別のものに気がむいてしまうため、まだ読み切っていない。反省。(いや反省だけならサルでもできるが)( ̄▽ ̄;)
NHKで、綾瀬はるか主演(バルサ役)で「精霊の守り人」を放送したので、それをご覧になった人も多いと思う。著者はああいう時代不明場所不明だがアジア的な世界を描かれる人だ。
時は不明だが、舞台はツォル帝国とアカファ王国。かつてツォルは圧倒的軍事力でアカファに侵攻し、全国を制圧するかに見えたが、最後の聖地火馬地方に進む前に突如発生した謎の病・黒狼熱(ミッツァル)のため撤退を余儀なくされた。その後2国は緩やかな併合関係を保っていたが、アカファの王と参謀は、ひそかにミッツァルのウイルス(?)を体内に持つ山犬(を操る犬の王)を使って、反乱することを企てていた。なぜかその病はアカファの民にはあまり広がらないのだ。それで、侵攻したツォルへの罰か祟りではないかとも噂されていた。
始まりは、地下の炭鉱のような暗くて広い岩塩を採掘する作業場。囚人か奴隷かが大勢強制労働させられている。そのなかの一際屈強そうで風格のある男がヴァン。生き残った最後の「独角」(アカファの武勇に秀でた戦闘チームで鹿を乗り回す)の兵士だった。声は堤真一。ある日山犬の群れが突然この作業所を襲い、ほとんどのものが死に絶えた。噛まれると全身にまだら模様が広がり、病のためかひどく咬まれたためか、本当にほどなくして絶命するのだ。しかし独居房の土牢に入れられていたヴァンは、噛まれたがむしろそのため異常に強い腕力を発揮し、牢の柵を壊し、目の前で下女が遺した女の幼子を連れて牢から逃げ出す。
ヴァンは森で野生の鹿を道連れにし、すぐ馴らして乗りこなした。幼子ユナも噛まれても発症しなかった。ヴァンは故郷の妻と息子をやはりミッツァルで失くしていたらしい。あてどない旅だと思うが、途中で助けた男を送っていったその男の平和な村で、ユナと暮らし始める。一方ツォルの皇帝の聡明な次男は、代々の医家の息子であるホッサルに命じて、病の原因を調べさせていた。ホッサルの声は竹内涼真。改めて聞くと彼はなかなか落ち着いたいい声の持ち主だ。ツォルでも呪術的な医療が行われていて、流行り病で死んだものはさっさと火葬して医療者がおまじない(?)を唱えているが(火葬は正解かと思うけどもっと人の少ないところでやるべきでしょうね)、ホッサルはマスクと手袋をつけ、火葬前に亡くなった人を観察する。
ここで、全滅した作業場で一人行方不明者がいて、そのものはミッツアルから生き残ったらしいとわかり、ホッサルは彼を探してボディガードのような巨漢の従者と旅に出る。一方、病の治療法など見つけられたくないアカファの参謀も、追い人サエ(杏)を放つ。折も折、久しぶりにツォル王が火馬の里に玉眼来訪といって飛行船で行幸することになった。
こうして追跡劇が始まり、血縁のない父娘は本当の親子のように助け合いながら(ユナが攫われるが)火馬の里まで行く。ホッサルも同行し、どうも病にかかるかかからないかは、もちろん祟りなどではなく、鹿の乳に関係しているようだと気づく。命を付け狙っていたサエも、もとは火馬の里の民で、道案内をしてくれるまでになった。
あまり詳しくは書かないほうがいいと思うが、これは大人が見ても見ごたえがある作品であった。ヴァンの男気と父性愛、ユナの無垢な可愛さにジーンとしてちょっと泣きそうになった。市井の人々が旅人や病人に示す優しさもよかった。原作者の言葉にあるように、人と人がともに暮らしていけば、感染症の危険はある。しかしそれ以上に助け合う喜びや愛し合う生きがいがある。やはりこの原作は、今の時期に映画になるべき作品だったのだろうか。
Miletの歌う主題歌もよかった。原作は角川書店。制作はKADOKAWA、日テレなど。配給東宝。