この回は、しんみりじんわりするお話。

定年退職した権藤さんがバラの花束を抱えて会社から帰る道、「明日から何をして生きていけばいいんだろう」と足取りは重い。本来なら、優しい愛妻が「長い間お疲れさまでした」と迎えてくれるのだろうが、すでに奥様は病を得て亡くなっていたらしい。

そんな気持ちの疲れた人が、まるで吸い寄せられるように、雨宮のお店にやってくるのだ。

本当なら定休日のはずなのに、洋酒堂のお隣の古本屋のご主人の頼みで、反対隣のお花屋さんの女主人のサプライズ誕生祝をするはずだった。この二人、20年の付き合いのケンカ友達。本当は憎からず思っているのかな?(^ー^)

それが急に中止になってしまったところで、図らずもお店はたった一人の定年されたお客様のためのお祝いの席になった。にぎやかにお祝いするのはちょっと違う雰囲気だが。

マッカランをロックで飲みながら、3年前に亡くなった奥様は、チョコレートケーキが大好物だったとぽつぽつ語り始める権藤さん。棚に並んだ缶詰めの中から、3年前製造のチョコレートケーキの缶詰をチョイス。「甘いものは苦手なんだ」という彼に、雨宮は、チョコレートによく合うお酒をお作りしますと。シェフはマスカルポーネチーズを添えたお皿を用意し、小林はしっとりした曲のレコードをかける。雨宮が作ったのは、オレンジ風味をつけたサイドカー。

 

少しずつケーキをつつきながら、問わず語りに愛妻の思い出が口をついて出てくる。

「ふとした瞬間のことをふとした瞬間に思い出す」と。

奥さまは言っていたのだ。「あなたが心配なのよ、私が死んだらあなたは仕事だけの人になると。」「仕事をやめたら何にもしない人になってしまうんじゃないかなって」

私が死んでもあなたの人生は続いていくのよ、だから約束して、いろんな場所に行って、いろんな人に会って、楽しいことをたくさんするって。・・・・(´;ω;`)・・・・

奥さんの想いとご主人の想いが胸に迫る。あのとき「わかった、約束する」と言ったのに、

こんな大事なことを忘れていたなんて。

権藤さんが、雨宮の書いた切花を長持ちさせるコツのメモとともに、奥さんに捧げるバラの花束を抱えて帰った後、お店の中ではサプライズパーティーのために用意したワインで、三人がご苦労さん会。彼らが高校生だった年のワインだ。そこで、バラバラだった三人がある日たまたま一緒に並んで昼ごはん(校内の売店で買った同じパン)を食べたことを思い出した。共通の思い出、あったんだね。楽しそうな雨宮。

お店を閉めて、「ふとした瞬間にふとしたことを思い出す」と、なんとなくごきげんな雨宮は、(カバー写真)迎えにきて待っていた、長く仕えている感じの運転手さん付きの車で帰宅するのだった。やはりお坊ちゃまなのね。

 

さて、今までの第一話と第二話のカクテルは、コメント欄に書いてたけど、

第一話:コスモポリタンマティーニ

第二話:ジャック・ローズと(バージン)ブルーラグーン(雨宮はバージンから言ってたけど検索してもそれが見つからない)

第三話:(シングルモルトのウィスキーマッカランと、)サイドカー でした。

 

すみません、付け足しがあるのでver.2として題名を変更します。

カクテルにはカクテル言葉というのがあるそうで、サイドカーのカクテル言葉は、やはりあのサイドカーつきバイクからなのか、「いつも二人で」なんだそうです。

素敵な言葉。愛妻家の権藤さんにぴったりです。

雨宮はそれを知っていてチョイスしたのかな?いずれにせよ、サイドカーはショートカクテルにしてもなかなか強いお酒です。25から30度くらいあるみたい。ロックでウィスキー飲んでる権藤さんなら大丈夫と考えたのかな。