「頼れる人がいない」 身元引受人100人超の現場では…
入院や介護施設への入所の際に求められるケースが多い「身元引受人」や「緊急時連絡先」。これを民間の業者に代行してもらうと諸経費を含めて100万円以上かかるケースも多く、身寄りのない高齢者が手術などを受けようとしてもとても負担できないというケースが相次いでいるといいます。
取材を進めると支援するNPOには「頼れる人がいないので助けてほしい」という切実な声が相次ぎ、100人を超える高齢者の「身元引受人」を担っていました。
「家族がいない」「兄弟や親戚がいても頼ることができない」 そうした人たちが増える中で病気などで困った時にさらに追い詰められる実態が広がっています。
(盛岡放送局記者 二宮舞子)
身元引受人 NPOに相次ぐ相談
岩手県盛岡市のNPO法人「いわてグリーフサポート」の職員の佐々木善規さんです。家族や友人など「身元引受人」になってくれる人がいない一人暮らしの高齢者などから週に数件相談が来るといいます。
現在、100人を超える高齢者の「身元引受人」を佐々木さんたち4人のスタッフが無償で担っています。先月5日、佐々木さんは身元を引き受けている長島行雄さん(72)の入院手続きに立ち会うため、盛岡市の病院を訪れました。
長島さんは脳梗塞の後遺症で手足が不自由になり、車いす生活を送っています。未婚で、姉や妹とは両親の死後30年以上音信不通になっていて、頼れる家族がいません。
「私はひとりだから。佐々木さんたちに頼る以外にないから。助かるよ。安心する」
「長島さんのような人はかなり多いですね。なんとか手助けになればなと思って活動しています」
長島さんは週に1度の訪問看護を受けるほか、週に2度デイサービスに通っています。訪問看護にあたる職員も、家族に代わる佐々木さんの存在が大きいと感じています。
「万が一何かあったときにどうしてもご家族に連絡をしなくてはならないこともあるので、佐々木さんたちと情報共有ができるのがいちばんいいところなのかな」
がん患者の付き添いも
男性はがんを患っていて、転移が進み治療法がないため、緩和ケアを受けるための話し合いを病院で受けました。医師は男性と佐々木さんに「いつ亡くなってもおかしくない状況。肺に血栓ができて詰まったら終わりです」と告げました。
今後は、本人と相談しながら自宅アパートの荷物の整理なども行う予定だといいます。佐々木さんは、身元引受人の仕事の中で、医療の方針を決める場に立ち会うことが最も難しい仕事の一つだと言います。
亡くなった後の葬儀の支援まで
先月20日、佐々木さんは88歳の男性の葬儀を行いました。NPOでは、生前から葬儀や墓に関する不安を訴える高齢者が多いことからこうした人たちの葬儀や供養にも活動の幅を広げました。
盛岡市で合同墓を管理していて、年に1度、供養祭を開いています。ことしは身寄りのない人や後継ぎのいない人など6人の遺骨が納骨されました。身寄りのない高齢者が増える中、死後は合同墓に入りたいという人が増えているといいます。
「入れればそういうところに入りたいよ。合同墓にね。いろんな人が来るじゃん、お参りに。それいいじゃん。それはいいよ」
依頼が急増 支援は限界に
佐々木さんは、誰かがやらなければならない仕事だと思い活動を続けてきました。しかし、増え続ける依頼に対して断らざるをえない場面も出てきています。
「どんどんどんどん増えてきて。やってあげたいのは十分なんですけど、手が回らないっていうのが現状ですね。私たちと同じような考えの方が全国各地にいれば、ノウハウをお伝えし、やっていただきたい。そうした支援はします。そういう団体や個人でもいいですけど、あればいいかなと思いますね」
どうなる今後の身元引受人の問題
国立社会保障・人口問題研究所の調査では、2015年の時点で65歳以上の一人暮らしの高齢者は620万人余りいますが、2040年にはおよそ900万人に増えると予想されています。
高齢化が進む中、身寄りのない高齢者も今後、さらに増えると見られます。佐々木さんたちのようなNPO法人のほかにも民間にも身元引受人を代行する業者はありますが、費用は諸経費を含めて100万円以上するところが多いといいます。
佐々木さんたちのもとに依頼してくる高齢者の多くは、生活保護を受けるなど経済力が乏しい高齢者です。こうした人たちの身元引受人を誰が担うのか、社会福祉の制度に詳しい淑徳大学の結城康博教授は、次のように話しています。
淑徳大学 結城康博教授