日本は、交渉合意を急ぐべきではない | 山田としお オフィシャルブログ Powered by Ameba

日本は、交渉合意を急ぐべきではない

 この状況を見るにつけ、WTOドーハ・ラウンドを7年間も続け、もう最後という時に、米国は輸出補助金の削減に反発し、中国は新興国の特別セーフガードの発動基準に反発し、両国が離脱して、インドは二国間の対立を和らげるため反対に回り、150近い国・地域のうち3か国の反対で決裂したことを思い出してしまいます。この決裂の後、WTOは停滞し、その後、米国を中心とするTPPや、アジアの国々を中心とするFTAAP、中韓FTAをはじめとする中国を中心とする各国とのEPA、EUを中心とするEPA等の動きになっています。その意味で、TPPは対中国、対EUをねらいにした動きでもあり、日米間においては、中国のアジアインフラ投資銀行設立や、安全保障問題とも関連しているのです。今、日本と米国が、TPPの早期合意を目指すねらいもそこにあるとみられます。


 先週23日に、前日の「TPP交渉における国益を守り抜く会」で決定した「政府を挙げて脱退も辞さない覚悟で交渉に当たること」とする決議を、官邸で総理に申し入れました。安倍総理は、「全力を挙げる」とおっしゃいましたが、合意を確信している様子でした。一方で、来年の参議院選挙に与える影響も気にされていました。私は、米価の低落を水田フル活用対策や在庫の調整で何としても防がなければならない、と申し上げると、総理は、きちんと聞いておられました。8年前、私が初当選した時の参院選では、29の一人区で自民党が6勝23敗だったことを申し上げたところ、「そうだ2007年だったね」と、ご自身の第一次内閣時の敗北と緊急入院で退任に追い込まれた事態を振り返っておられました。


【「世界各国の多様な農業の共存」が大切な理念】


 ここで交渉がまとまらなくなると、米国の大統領選挙の帰趨とも関連して、TPPは漂流するか、もしくは日米二国間のEPAに発展するのかもしれません。だから、日米両国はここでまとめたいのだと思います。


 と言って、妥協を重ねるわけにはいきません。米国政府や議会は、改正新TPA法を利用して日本に再交渉を求めてきかねないのであって、そうなれば、これからも困難な交渉を続けることになります。しかし、米国がねらいとするままに合意を進めるとすると、日本の農業を、社会を、根底から変えかねません。ここは改めて、2年前に、安倍総理がオバマ大統領と行った共同声明のとおり、「日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品(内容の中心は自動車)というように、両国ともに二国間貿易上のセンシティビティが存在することを認識」したことを改めて確認して、合意を進めるということだと思います。


 「世界各国の多様な農業の共存」、これが一番の理念であり原則です。改めて、各国の気候や国土や歴史は異なるということの認識が必要です。先住民を追い出し、国土を占有し、広大な粗放的農業経営を生み出した新大陸型農業と、アジアモンスーンのもとで、山の多い小さい島国で、土地集約型・労働集約型の稲作経営とならざるを得なかった東南アジア型の農業は、当然異なるのです。このことを認識し、お互いの不足分を輸出入する貿易交渉こそが、農産物については必須であることを、永いWTO交渉できっちり確認してきたはずなのです。


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