「はじめまして。 カズミです!」
僕が振り向くとその女の子はニコニコして立っていた。
「あっ、えっと、はじめまして。達也です。」
その女の子の楽し気な雰囲気に少し圧倒されてしまった僕。
初対面だというのにどうしてこんなに笑顔になれるのか僕にはわからなかった。
「えーと、じゃあ、伊勢佐木町を案内しますよ。」
僕がそういうと彼女は元気よく「お願いします!」と言いながらペコリと頭を下げた。
出会い系サイト、マッチングアプリで知り合った僕たち。
チャットなどで簡単なやり取りをした後、気軽に会おうかということになってこうなった。
僕はこういう出会い方をするのははじめてだったので、戸惑ってしまったが彼女は少し違うようだった。
そして、彼女の外見は僕のタイプでは全くなかった。
心のどこかで淡い期待が崩れ、少しがっかりしている自分がそこにいた。
僕は現在22歳。4月から新入社員になる大学生。
大学時代に交際していた彼女はいたが恋人という感じではなく、どちらかというと友達的な関係。
何か映画やドラマにあるような本格的な恋愛をしてみたくなったのだが、映画やドラマのような理想の相手と出会えるというのはあまりに非現実的な期待なのだろう。
「カラオケにでも行ってみる?」
僕はそう言って、彼女とちょっと時間を過ごしたらサッサと帰る算段をしていた。
「いいよ。カラオケなんて久しぶり!」
そういって無邪気に小躍りする彼女の姿は大人の女性というよりは小中学生の女の子という雰囲気。
じっさい小柄で童顔、眼鏡をかけた彼女は昔のアニメのキャラ『アラレちゃん』にそっくりだった。
「いやいや、結構いろいろ歌っちゃったね!」
彼女が歌う歌が僕の好きなアーチストと被っていて、予想外にカラオケは盛り上がった。
「夕飯、何か一緒に食べようよ。」
すっかり楽しくなった僕は彼女となら良い友達になれると思い、懇親のために食事に誘った。彼女は少しお酒が飲みたいというので居酒屋に行くことにした。
「あたしね。田舎臭くない?」
居酒屋で彼女は突然、真顔でそう尋ねてきた。
聞くと、彼女は北海道の道南地方にある僻地の出身。
ペットの美容師であるトリマーになりたくて、その資格やノウハウを学ぶために横浜に出てきて専門学校に通っているということだった。
「ひとり暮らしなの?」
僕が彼女にそう尋ねると、少し困ったような顔をしてボソッと
「新聞奨学生って知っている?」
「あたし、新聞配りながら専門学校の学費と生活費を賄っているの。」
「だから、ひとり暮らしっていえばそうだけど、ちょっと皆とは違うの。」
と話をはじめた。
彼女は早くに父を亡くしたため家が貧しく、苦労して育ったこと、
北海道には母親と弟ふたりが生活保護を受けながら何とか生活していることなどを語り、すっかり僕は彼女の苦労話に聞き入ってしまっていた。
「お客様、そろそろ閉店の時間なので・・・」
居酒屋の店員にそういわれてふと時計を見ると午前零時を大きく回っていた。
「終電逃すとヤバイかも!」
そういって慌てて店を出て駅に向かったものの終電は見事に逃してしまった私たち。
財布を除くと1万円札が1枚こっきり。
僕と彼女は家が正反対の方向なので、深夜料金のタクシーを使って帰るのは厳しかった。
「どうしようか?」
途方に暮れる僕たちに追い打ちをかけるように大雨が降ってきた。
3月の冷たい大雨。
一夜を明かせるような店はなく、冷たい大雨に打たれるしかない僕たちの目の前にホテルがあった。
休憩5千円、宿泊Ⅰ万円とあった。
「ここにいたら風邪ひいちゃうよ。とにかく入らない? 緊急避難だよ。」
僕がそういうと彼女も即答で「そうしたい」という返事。
こうして意図せず初対面の日に僕たちはホテルに行くことになったのだった。
・・・・つづく