「源ちゃん、あたしが岡田舞って偽名を使っているのは知っているよね?」

 

ある日突然、彼女は俺にそう言ってきた。

俺は返事をしなかった。

 

「知っての通り、あたしの父は源ちゃんのお父さんの会社の副社長なの。」

「だって、源ちゃんの家とはいろいろあったから本名使えなかったの。ごめんね。」

 

隠してきたことを告白するということは何かある! 俺は身構えた。

 

「あたしね、その・・・源ちゃんとの赤ちゃんができちゃったみたいなんだ。」

 

またかよ!・・・そのテの話は自殺未遂した亜矢も同じことを俺に言ってきた。

この先の展開が読めて俺はうんざりした。

 

「この話、あたしのお父さんにしたらすごく喜んじゃってね!」

「一度、源ちゃん交えて話がしたいっていうんだけど・・・・・」

 

なるほど。

社長の御曹司の赤ん坊を副社長の娘が孕んだとなれば、政略結婚としては最高だ。

親父の顔色をうかがっていた副社長は立場がガラリと変わる。

そりゃ、喜ぶだろうよ・・・

だけどなぁ!

 

「言いたいことはそれだけか? それは俺の子じゃないぜ!」

 

すると舞のヤツ、いや幣原ゆかりは血相変えて言い返して来た。

 

「毎回毎回、あたしの中にたっぷり射精しておいて何でそんなこというワケ?」

「あたしも気を付けてたけど、あんなに頻繁にやったら妊娠するのも当然よ!」

 

どうやら、彼女もゴムなしで膣内射精を繰り返せば妊娠すると信じて疑わない種族のようだ。いったい何年看護師やってるのだろうかと俺は思った。

 

「じゃあ、教えてやるよ。俺は種なしなんだよ。男性不妊ってヤツ。」

「20歳の時におたふく風邪やってな。精巣炎起こして調べたら種なしなんだよ。」

「俺は自然妊娠させる能力がないって医者からお墨付きまでもらっている。」

 

これには彼女も驚いたらしく、黙り込んでしまった。

 

「妊娠が本当なら、そりゃ俺以外の誰か他のヤツの子だ!」

「俺が避妊をいっさいしないのは実はそうゆう理由があったからさ。」

 

すると彼女は別の質問をしてきた。

 

「じゃあ・・・源田家はあなたの代で終わりってワケ? 一人息子なんでしょ?」

 

やはり彼女も俺が源田の御曹司ってことを知って近づいてきたのだと確信した。

 

「いや、詳しくは言えないが、ソコのところは問題ないんだ。」

「お前こそどうなんだよ。父親とは離婚して、母親のところに引き取られたんだろ? そんな父親のために何でお前が動くんだ? 背景がよく分からない。」

 

すると彼女はフンと鼻でせせら笑うように

 

「あんな男のためにあたしが動くハズがないでしょ! 父親ズラして反吐が出る。」

「復讐よ! 母やあたしを捨てて、あなたの父親の犬になったヤツへの復讐。」

 

と吐き捨てるように言ってのけた。

 

「もう少し詳しく説明しろよ。」

 

そう言うと根深い彼女の恨みつらみの身の上話がはじまった。

恨みは人を魔物にすると言われるが、彼女もそのひとりであった。

 

やはり彼女も魔物の女だった。

 

(つづく)