「冴羽さん、今回の奥様の不倫騒動、だいたい真相がつかめましたよ。」
私は法律事務所に呼び出されると、提携する探偵からそう告げられた。
「奥様のラインを見ますと、奥様の方が不倫に熱心なようですね。」
妻と不倫相手とのラインのやり取りを探偵がパソコンに映し出すと、そこには貞淑な妻とは思えないような卑猥な言葉が並んでいた。
"しっかり溜めてきてね"
"待ち遠しくて、今から濡れている"
それに対する相手の男のレスポンスは"会いたいよ"とか"さみしいね"といったもの。
なるほど妻の方が不倫相手にぞっこんなことはラインのやり取りで明白だった。
「ただね、これだけじゃないんですよ。」
探偵はそう言うと、妻の不倫相手の男の身上調書を私に手渡した。
そこには相手の男は私の妻以外にも若い不倫相手がいること。
私の妻との不倫関係のことは半年も前からバレていて、男本人は別れたがっていることがなどが記載されていた。
「どうゆうことです?」
探偵に訊ねると
「簡単ですよ。奥さんの不倫相手の男とその妻、つまり浅谷美穂はグルです。」
「奥さんの不倫相手の男は若い女ができたので、奥さんは邪魔になった。」
「で、自身の妻つまり浅谷美穂に奥さんとの不倫を告白したんですよ。」
探偵の説明がよく理解できない私は首を傾げた。
「奥さんの夫、つまり冴羽さんが大手メーカーの西芝に勤めていると知り、いい金ヅルになると踏んで仕組んで来たということです。」
「あの浅谷という夫婦はとっくに家庭内離婚しているんですよ。」
「夫は不倫相手との関係を清算できるし、妻の美穂は示談金を取れるから一挙両得なんでしょう。」
探偵の説明に多少は納得しながらも今一つ理解できないことがあった。
それは、そんな回りくどいことをしてまで相手の男は妻と別れなければいけない理由があるのかということ。
それを探偵に問いただすと、探偵は少し気まずそうな顔をしながら
「それは・・・奥様が男と心中しようとしたからです。」
心中という言葉に私は耳を疑った。
「一度、相手の男から別れを切り出したことがあったようなのですが、奥様はそれを潔しとせず、大量の睡眠薬を飲んで無理心中をしようとしたんです。」
「これには相手の男が怖気づいてしまい、この騒動で奥様との不倫がバレるきっかけにもなったんです。ヤバイ女と関わったと思ったのでしょう。」
妻が不倫相手と無理心中しようとしていた話は衝撃が大きすぎて茫然自失となった。
「そうですか・・・。妻は浮気じゃなくて、その男と本気だったんですね。」
私がボソッと呟くと探偵は静かに一礼して「以上です。」と締めくくった。
「さぁ、冴羽さん。示談金要求してきた浅谷美穂と戦いましょう!」
弁護士がそう言うと、探偵も大きく頷いた。
「戦うって、やはり裁判をするのですか?」
私がそう言うと、弁護士は首を横に振りながら
「違います。訴訟させないようにします。ムダなことだと分からせます。」
「そんなこと、できるのですか?」
私が半信半疑で尋ねると、探偵がニヤリと笑いながら言った。
「冴羽さん、この件まだまだ裏があるんですよ。まぁ見ててください!」
妻の不倫を口実に示談金を要求してきた連中との決着が近づいていた。