第二次安倍政権待望論Ⅱ(後編) | 田母神俊雄オフィシャルブログ「志は高く、熱く燃える」Powered by Ameba

第二次安倍政権待望論Ⅱ(後編)

国民の手でそのような勢力から第二次安倍政権をいかにして守るかが日本の将来の全てを左右するでしょう。例えば、TVや新聞・雑誌などが安倍政権へのネガティブ・キャンペーンをやっているのを見れば、すぐに国民がTV局(その番組のディレクター及びプロデューサーなど個人あて)や同番組のスポンサー企業、新聞社や雑誌社の記事執筆者や編集責任者あてに電話を入れて抗議することは有効な手段でしょう。国民からのそのような抗議が大量に殺到すれば「安倍叩きをやると抗議が多すぎてその応対に追われて仕事にならない」といった事態になり、確信犯の朝日新聞・毎日新聞などはともかく、便乗で安倍政権叩きをしているマスコミのネガティブ・キャンペーンは減少していくだろうと思われます。抗議はその件数が多いからこそ影響力を持つため、「誰かが抗議するだろう」ではなく、せひとも一人一人が積極的に行動を起こしていただきたいと願います。

なお「維新の会」についてですが、私は橋下氏の歴史観には疑問を感じており、根底の部分では橋下氏は石破氏に近い歴史認識を持っているように感じています。竹島共同管理案は世論の非難をあびましたが、橋下氏は「加害者側(日本)が謝罪は十分!と言えますかね」などと述べておられ、「日本=加害者、中国=被害者」という白黒二元論の東京裁判史観から脱却していない様子が伺えます。日本は敗戦国ゆえに「加害者」のレッテルを貼られたにすぎず、戦争とは国益と国益の衝突にすぎず、日本は日本の国益のために戦っただけなのです。日本が「悪」であったのではなく、日本にとっての「悪」と戦っただけなのです。国益を守れる体制をつくるには、国益を守るために戦った大東亜戦争を正しく評価する歴史観が不可欠です。「戦後体制」とは敗戦国ゆえの自虐史観の上に立脚した体制であり、自虐史観を引きずっていては「戦後体制」からの脱却は不可能でしょう。
確かに安倍氏の目指しておられる憲法改正を実現するには「数の力」が重要になってきます。安倍氏は「維新の会」からも信頼されているので、憲法改正や教育改革といった理念の一致する政策ごとについてのパーシャル連合であれば大いに進めるべきでしょう。「数の力」があれば、憲法改正を含む「戦後体制」打破がスムーズに進むからです。しかし一番肝心な根本的な思想では安倍氏と橋下氏では相容れないものを感じます。また「維新の会」に集まっている候補者についても、果たしてどれだけの人数が自虐史観を脱しているのか大いに疑問を感じざるを得ません。議員バッジを付けたいだけの無知な烏合の衆では何の意味もありません。政策アドバイザーに就任された米田健三元代議士は自虐史観の悪影響を熟知されておられる方ゆえ、ぜひとも「維新の会」候補者への歴史認識教育に励んでいただきたいと思います。左派勢力の激しい抵抗が予想される「戦後体制」打破には、味方は多ければ多いほどそれに越したことはありません。

安倍氏は政界再編にも言及しておられますが、その理想は「単なる選挙互助のような政党ではなく、保守が結集した政党、そして左翼・リベラルが集まった政党に二分されていくのが本来あるべき政党の姿」というものでしょう。実はこれは私もずっと著書などで訴えてきたことで、米国の共和党・民主党のように政治思想の違いによって政界再編されることが日本の政治を根本から立て直していくことにつながると私は考えています。
例えば安倍氏の盟友である真正保守の平沼赳夫氏が別の党におられる一方で、中国に媚びることが生きがいののような左派が自民党内にいたりもします。安倍新総裁誕生をうけてのインタビューで古賀誠氏は「安倍さんとは思想が違う。右に寄りすぎなので真ん中に戻していく」といった趣旨の発言をされていましたが、要するにこれは「戦後体制からの脱却など許さない」という意味でしょう。ここまで思想の異なる人物が同じ党内にいては足を引っ張るだけではないでしょうか。
古賀氏と親しい野中広務氏が中国の国営TVに出て、尖閣国有化に関し「こんな不幸な事件が起きたのは、まったく日本の人間として恥ずかしい。中国の皆さんに大変申し訳ない」と謝罪し、「長い間戦争で多くの犠牲を残し、今なお傷跡が癒えていないその中国に対して、歴史を知らない若い人たちはそういうことを抜きにしてひとつの対等の国としてやっているんです。それは間違っています」などと自虐史観まるだしの対中従属発言を行っています。驚いたことに何と野中氏は日本が中国と対等ではないと主張しているわけで、ここまで見事な売国を行う人物がいまだに自民党内に一定の政治的影響力を持っていることは事実なのです。

一方で民主党内にも数は少ないものの例えば松原仁氏や北神圭朗氏など、真っ当な真正保守思想を持った方がおられるのも事実です。例としてお名前を挙げたこのお2人は自虐史観から完全に脱却しておられ、終戦記念日にも靖国神社を参拝されておられる方です。そして実は北神圭朗氏は同じ選挙区に本拠を置いてきた野中広務氏と熾烈な政治闘争を繰り広げてこられた方なのです。北神氏は「野中王国」と呼ばれた野中氏の利権を崩し、媚中派のドンともいうべき野中氏の政治的影響力を抑えるために必死に戦ってこられた方です。つまりもしも選挙で北神氏が落選してしまえば、日本を中国の従属下に置きたい野中氏の政治的影響力は増してしまい、野中氏は安倍氏の理想実現を阻害しようとするでしょう。
つまり「民主党議員だから全員ダメ」ではなく、この北神氏のように「戦後体制」脱却のために絶対に必要な人材もおられるのです。北神氏は平成22年の安倍氏を中心とする訪台議員団の団長も努めておられ、安倍氏がホストをつとめておられたCS対談番組では自民党以外の党から一番最初にゲストに招かれています。このように北神氏や平沼氏をはじめ本来であれば安倍氏の理想を支えることができるはずの人材が他党にいて、安倍氏を邪魔する媚中派が自民党内にいるといった状況を鑑みると、やはり政党というものはその政治思想・理念によって構成されるべきでしょう。次回の衆院選の結果が新たなる政界再編、政治思想による再編につながることを期待したいと思います。

TPPについては、同時に二重の視点で戦略的に捉える必要があります。経済問題としてのTPPと、対中包囲網構築の国際戦略としてのTPPです。本来はTPPそのものについては対中包囲網を構築するには非常に有効な戦略なのです。自由主義国による経済圏をつくることは中国に対する強力な国際的対抗勢力を築くことができます。また同じ経済圏に属する国が攻撃されると全体に悪影響が及ぶため、同経済圏の国が一致団結するという安全保障的な側面もあります。しかし経済面での日本の国益を投げ捨ててまで無条件参加するわけにはいかない国内事情があることも事実でしょう。

安倍氏は「交渉力を強めた上で国益を守れるかどうか考えないといけない。聖域なき関税撤廃は反対」と言明されていますが、これは対中「戦略的互恵関係」と同じく譲れないものは譲れないという信念でしょう。実はTPPのような案件については日米首脳同士で水面下での秘密交渉が進められるのが常であり、日米が互いに「これは譲歩できる」「これは譲歩できない」と内々で「聖域」について話し合ってすりあわせを行うものなのです。ブッシュ政権が米国産牛肉の輸入規制などについて小泉政権に圧力をかけなかったのは、良好な日米関係のもと水面下での話し合いでブッシュがそれを了解していたからです。しかし民主党政権が日米関係を壊してしまい、中国のご機嫌ばかり気にしてきた民主党政権は米国とのパイプが弱く、さらに間の悪いことに米政権も嫌日傾向の強い民主党政権であったことも重なり、米国は水面下で話し合う対日配慮すらせずに高いハードルのままで日本に「イエスか、ノーか」を突きつけているのです。民主党政権が続くかぎり米国は日本をまともに相手にしないことは確かです。

一方、安倍氏は米国とのパイプが太く、日米同盟のあり方に関する安倍氏の考え方はとりわけ共和党勢力から極めて高い信頼を得ています。私は共和党筋との情報ルートがありますが、共和党関係者は口をそろえて「中曽根以降の日本首相で我々が最も信頼していたのは小泉と安倍だ。安倍政権が長く続けば日米同盟はより強固に生まれ変わっていただろう」と断言します。中曽根・小泉両政権が長期政権であったことを考えると、僅か1年でここまで米国の信頼を勝ち得た安倍氏の外交能力には驚嘆するより他はありません。もちろん米国が民主党政権であっても米国の安倍氏に対する信頼は野田政権とは比べ物になりません。
第二次安倍政権が誕生すれば、TPPは日米首脳間での水面下での話し合いが再開されるでしょう。その話し合いによって「聖域」が守れるのであれば対中包囲網の一環として参加するべきであり、「聖域」が守れないのであれば不参加もやむをえないのではないでしょうか。TPPは国論が分かれていますが、国民にはTPPの対中包囲網の側面があまり知られていません。安倍氏はその側面もよく理解されているだけに、たとえ参加であれ不参加であれ安倍氏であれば最も国益に沿う結論を出していただけるものと私は確信しています。誰よりも深く日本を愛する安倍氏が熟考されて下した決断であれば、その決断がどちらの結果であっても私たち国民は安倍氏の判断を信じるべきでしょう。

TPPも含めて経済分野などにおいて米国の一方的要求を押し付けられることになる根因は、憲法や集団的自衛権といった「戦後体制」のせいで日本と米国が対等な同盟国になれないことに由来します。自主防衛力の増強を蔑ろにして安全保障をアメリカに依存してきたからこそ、他の分野では引き下がるしかなかったのです。軍事も経済も外交もばらばらに存在するものではなく、あらゆる国策は密接にリンクしているのです。とりわけ米国の政権が民主党の場合は日本を「アメリカにとって都合のよいATM」のように見る傾向が強く、クリントン政権による対日経済戦争を引き合いに出すまでもなく、日本に対する経済的圧力は激しくなりがちです。対手が共和党か民主党かによって日本も対米戦略をアレンジする必要がありますが、それらを分析して総合的対策を立てていく司令塔的なセクションが日本にはありません。対米のみならず対中政策も対韓政策も対露政策も、日本の省庁縦割り・省益優先によって、政府の大きな統一方針のもとで動くことなくバラバラに動いている実情になっています。とりわけ対中・対台政策などは媚中派の官僚が勝手に独断で動かしているような側面があります。

安倍氏はアメリカをモデルにして国家安全保障会議(日本版NSC)の創設を構想しておられます。中国の軍事的覇権の脅威に直面している日本にとって、最も重要な国家戦略は外交・安全保障に関わる国策の策定です。しかし民主党政権が設けた国家戦略室の戦略項目からは外交・安全保障に関する項がすっぽりと抜け落ちています。こんなものは国家戦略とはいえません。国家安全保障会議は外交・安全保障の重要な方向性を決定する司令塔的なセクションですが、まさに民主党政権の国家戦略で抜け落ちてしまっている項目そのものです。この構想が実現すれば、日本の外交・防衛は省益や官僚の独断に左右されることなく、統一された政府方針のもとで著しい質的向上を遂げるでしょう。中国に媚びたい一心の駐中大使が勝手な発言をして中国に誤ったメッセージを送るようなことも起こらなくなるでしょう。まさに「強い外交、強い防衛」を実現する司令塔となるセクションが誕生するのです。

また安倍氏はスパイ防止法制定と日本版CIA創設の必要性も主張されておられます。防止法がないため、これまでの日本は中国・北朝鮮・ロシアなどのスパイがあふれかえり「スパイ天国」といわれてきました。日本に機密情報を教えると筒抜けに中国などに漏れるという理由でアメリカも本当に重要な情報を教えてくれません。国家公務員が中国のスパイに国を売っても微罪にしか問われないため、まさにやりたい放題、国を売りたい放題の大安売りでした。中国や北朝鮮の核ミサイルにも日本の技術が流れており、スパイ防止法がないことによって失われた国益は計り知れません。
そして日本にCIAのような機関がないため、日本はひたすら重要情報を盗まれる一方で、他国の機密情報をほとんど得られません。米英露仏中はいうまでもなく先進国で諜報機関を持たない国なんて日本ぐらいのものです。なぜスパイ防止法や諜報機関がこれまで存在しなかったのかといえば、これもまた自虐史観を根底とする「国家は悪」といった概念が根底にあるからです。安部氏であればスパイ防止法や諜報機関を設けてようやく日本を普通の先進国の姿にすることができるでしょう。安倍政権が誕生すれば「日本の007」が世界を股にかけて活躍する日が訪れることでしょう。

前稿でも述べましたが、安倍氏が政権当時に進めておられた自由主義国による対中包囲網構築は、日本が繁栄を維持して生き残るためには絶対不可欠な国際戦略です。日米に加えてインド・ASEAN・豪州・台湾などと安全保障面と経済面での実質的同盟を築き、将来的にはアジア版NATOのようなものを創立することが重要です。NATOはソ連の脅威に対抗して欧州の自由主義国が安全保障のために結束した同盟ですが、アジアでは中国の脅威に対抗するために日本こそがアジア版NATOの音頭をとらねばならないのです。それを実行できるビジョンと能力を持つ首相は安倍氏しかおられないと私は確信しています。

中国に膨大な経済援助を与えて謝罪と譲歩を重ねた結果、中国から侵略を受けつつある現状は、自虐史観外交・土下座外交・バラまき外交がもはや完全に破綻している現実を示しています。安倍氏の価値観外交の本質は、価値観を同じくする自由民主義国との連携を強化すると同時に、「親日国との絆を一層深め、反日国に媚びることはしない」というものでしょう。それは安倍氏がODAを親日国優先に戦略的に実行するように指示されていたことからも裏づけられます。
日本ではいまだに形を変えただけの実質的な中国へのODAや経済協力が継続していますが、かつての米国がソ連に経済援助したでしょうか。そんな愚かな利敵行為は即座に全廃すべきであり、私は第二次安倍政権があらゆる対中援助を打ち切られることを強く期待します。日本と中国は冷戦を戦う実質的敵対国です。敵に塩を贈るということは国際政治ではありえないことなのです。

中国は軍事面のみならず経済面でもアジアをその支配下に置くべく「人民元経済圏」の構築を猛スピードで進めています。FTAや通貨変動同調などを駆使しながら「米ドル抜き」の経済圏をつくろうとしており、すでに台湾ドルは人民元との直接決済に合意し、ASEANの中核たるマレーシアやタイの通貨の対ドル相場も人民元に接近しています。元来ASEANの多くの国は自国の主要産業を華僑に握られており、韓国のウォンもASEAN通貨と変動幅を合わせ中韓FTAにも前向きであり、このまま放置しておけばアジアは「人民元経済圏」になってしまいます。アジアの経済は人民元を機軸に動くことになり中国の経済的影響力は巨大なものになります。日本も中国の顔色を伺う政策しか採れなくなり、いずれ尖閣も沖縄も奪われてしまうことでしょう。経済は安全保障とも密接にリンクしているのです。下手すれば日本の円はハードカレンシーの地位すら失いかねません。経済大国日本が中国の属国的な「貧しい国」へと落ちぶれることにつながるのです。

日本は何としても「人民元経済圏」を阻止し、米ドルと連帯した「円経済圏」を至急に構築しなければなりません。ところが民主党政権で行われてきたことは、世界で初めて米ドルを経由させずに円・人民元の直接取引きに応じ、さらに中国との通過スワップ、中国国債の購入、人民元建て債権市場構築への協力など、全力で「人民元経済圏」構築を支援する狂気の国家的自殺行為なのです。人民元が世界通貨になることをあらゆる手段を駆使して全力で後押ししているのです。
世界中のどの国もがドル経由で人民元に交換しているのに、よりによって同盟国の日本が世界で初めて「ドル抜き」で中国通貨をバックアップしたことは、米国にとっては重大な裏切り行為と映っています。しかもTPPでは二の足を踏みながら日中韓FTA締結には前向きという民主党政権の姿勢には、米国の識者からは「日本は人民元経済圏に組み込まれて没落していき経済大国の地位を失う」と予測する声もあがっています。野田政権に一刻も早く退場していただかないと、この対中経済政策を採用する野田政権が続けば続くほど「人民元経済圏」は加速していくのです。私は国際政治学の近未来予測の観点により、安倍政権が誕生すればまず真っ先に円・人民元直接交換を中止されることを要望したいと思います。国民の皆さんも「人民元経済圏」阻止こそが日本の繁栄を維持する国益であることを忘れないでいただきたいと願います。

なお韓国に関しては度を越えた侮日行為は確かに憤りを禁じえないものですが、価値観を同じくする自由民主主義国であり米国の同盟国でもあり、そして何よりも日本にとって地政学的に絶対的な鍵を握る位置にあることを忘れてはいけません。感情論に動かされて戦略を誤ると日本の破滅につながるのです。現代地政学の始祖といわれるマッキンダーの言葉を借りれば「大陸国と海洋国の国力が均衡して衝突するとき、その中間にある半島国家を自陣営に組み入れた側が勝利をおさめる」と説いています。日清戦争も日露戦争も朝鮮半島の独立主権をめぐっての大陸国(清、ロシア)と海洋国(日本)の戦争でした。現在朝鮮半島は大陸陣営(北)と海洋陣営(南)に2つに割れており、大陸側に位置する北朝鮮が中国陣営にある以上、日本と国境を接する韓国が日米など海洋国側なのか中国側なのかが日中冷戦の帰趨を左右するのです。安倍氏はその地政学的現実をよく理解しておられます。日本の対外戦略を語るならまず地政学の正しい知識を理解しなければなりません。大陸国家・半島国家・海洋国家にはそれぞれ地政学的な宿命が存在しているのです。それを見極めて中長期的な戦略的判断を行うのが国際政治なのです。

残念ながら現在は韓国自体が幼稚な反日感情論に妄動するあまり、愚かにも自国の地政学的な視点を見失って対中包囲網構築を妨げており、このままでは下手すれば数十年先には韓国は北朝鮮ともども中国に併呑されて一自治区に落ちぶれているかもしれません。米国は韓国のこの事大主義を熟知しているがゆえに、米韓FTAで韓国を事実上の経済植民地化して海洋国陣営に縛り付けようとしているのです。竹島や河野談話修正など譲れないものは一切譲れませんが、日本は韓国の幼稚な感情的外交とは異なるレベルの高度な視点で国際戦略を俯瞰するべきであり、長年の反日教育による反日史観の払拭は困難でしょうがせめて自由主義海洋国家として日米側につく必然性を理解させねばなりません。それを実行できるのは「価値観外交」を提唱されている安倍氏だけだと私は思っています。
単純な「親韓か嫌韓か」の感情的次元で外交を行うことは日本が韓国と同レベルに落ちることになるのです。対中冷戦の一方の当事者である日本がそんな低レベルの次元に陥って自由主義海洋国同士で争えば大喜びするのは中国であり、それでは日本が中国との冷戦に勝つことは叶いません。日本に太刀打ちできない小さな国力しか持たず感情的な反日を叫んでいるだけの幼稚な韓国と、尖閣を起点に沖縄や台湾を呑み込み日本を完全にその覇権下の属国にするという明確な中期戦略を持つ中国とでは、日本が採るべき国際戦略は自ずとまったく異なってくるということです。日本にとって最も脅威となる本当の「敵」は何かを見極めることが重要でしょう。

なお本論を締めくくるにあたり、少し手前味噌のエピソードになって恐縮ですが、対中包囲網の大きな軸となるインドと安倍氏との関わりを述べさせていただきます。私の師である田中正明氏(歴史学者・松井石根大将元秘書。平成18年逝去)は、東京裁判で日本無罪判決を下したインド代表判事パール博士の愛弟子であり、昭和27年に講和条約発効により日本が主権回復したその日にパール判決を出版して「日本は侵略国ではない。占領軍の洗脳作戦に騙されるな」と国民に訴えられた方です。田中氏は安倍氏の祖父である岸元首相とも親しく、岸氏の名代として台湾を訪れて蒋介石と面談されたこともあります。南京虐殺捏造を激しく批判する田中氏は中国や朝日新聞から敵視され、かつて人民日報の第1面に写真付きで「中国人民の敵」と題する中傷記事を掲載されたこともあります。戦前はアジア植民地各国の独立の志士たちを支援され、戦後は自虐史観を土台にした「戦後体制」と戦い続ける人生を一筋に歩まれた方でした。

その田中正明氏が生前に何度も口にされていたことが「占領軍が作ったこの戦後体制を一新できる人がいるとすればそれは安倍さんだろう」という言葉でした。平成5年に朝日新聞出身の細川首相の「日本は侵略国」発言を受けて、自虐史観に批判的な自民党の一部議員が日本近現代史の勉強会「歴史検討委員会」を立ち上げられ、安倍氏・中川昭一氏・平沼赳夫氏らもその中心メンバーになっておられました。田中氏も講師として出向かれたのですが、その際に出会った愛国心にあふれた1人の新人議員の真摯な姿勢と強い意志に田中氏は強い感銘をうけられ、「この人は将来必ず国を変えることができる人だ」と直感的に感じられたそうです。そしてその新人議員こそ若き日の安倍氏だったのです。

小泉政権の時代に逝去された田中氏は残念ながら安倍政権誕生をその目で見届けることは叶いませんでしたが、安倍氏は首相としてインドを訪れた際に、パール判事のご子息に会いに行かれ、チャンドラ・ボース記念館も訪問されました。産経以外のマスコミはほぼ黙殺したのですが、これは非常に大きな意義のあることで、パール判決を日本国民に想起させることで自虐史観からの脱却を促すとともに、インド人に対しては大東亜戦争における共闘の記憶を呼び覚ますことができる非常に優れた外交戦略です。かつて日本軍とインド国民軍はインド独立のためにともに血を流して一緒に戦いました。独立の志士チャンドラ・ボースの記念館を訪れた安倍氏の姿は、その日印共闘の歴史を多くのインド国民にあらためて思い出させたことでしょう。

安倍氏がインド国会で行われた「二つの海の交わり」という演説は、インド国会議員に深い感動を呼び起こし全議員総立ちのスタンディングオベーションがいつまでも鳴り響きました。親日国との絆を一層深める外交は大成功だったのです。胡錦濤に握手してもらうためにぞろぞろと議員を引き連れて訪中した小沢氏の国辱的行動に比べて、安倍氏の訪印は日本外交の大きな勝利だといえるでしょう。中国に対抗する包囲網構築には、親日的であり巨大な人口を持ち高度経済成長中である核保有国インドとの連携は極めて重要な鍵を握ります。いわばインド抜きには対中包囲網は完成しないのです。安倍氏は歴代のどの首相よりもインド国民の心を惹きつけました。日印関係のエポックメイキングとなる貴重な一歩だったのです。

しかし大きな外交成果を築いてインドから帰国された安倍氏を待ち受けていたものは、あいもかわらず左派マスコミによるネガティブ・キャンペーンの罵声、そして左派マスコミに踊らされた国民からの罵倒だったのです。これほど理不尽なバッシングを受けた安倍氏がそれでもなお日本と日本国民を見放さず、こうして日本を再起させるためにふたたび立ち上がってくださったことに、国民の一人として私は深い感謝の思いを禁じえません。安倍氏がふたたび首相としてインドを訪れ日印同盟への具体的な歩みを進めることを、きっと天国のパール判事や田中正明氏も願っておられることでしょう。

揺るぎない意志でソ連との冷戦に勝利をおさめ米国を唯一の超大国へと導いたレーガンは、大統領就任直後に支持者たちにこう語りかけました。「我々は心の痛む敗北を何度味わい、暗い孤独な夜を何度過ごしたことか。だが今や我々保守の時代が到来した。自由のため、保守のために全力で戦えば、後世の人は必ず、我々を勇気と英知のある人間として、歴史に栄誉をもって位置づけるだろう」と。やがてレーガンのその言葉は現実のものとなりました。今の日本に必要なのは、レーガンのように強い意志と信念で国民を導いてくれる指導者です。私は安倍氏こそが「日本のレーガン」になれる唯一の人物であると確信しています。

私たち日本国民は5年前に選択を誤りました。左派マスコミに踊らされて稀代の改革者たる宰相を辞任に追い込んでしまい、貴重な5年もの時間を失ってしまいました。その5年の間に中国は力を蓄えて日本を併呑する長期戦略を実行に移し始め、日米関係は破壊され、デフレ不況は深刻さを増し、震災と原発事故も重なって日本はすっかりボロボロになってしまいました。まさに国難の時代です。しかし今ならまだ間に合います。失ってしまった5年を悔いるよりも、安倍氏とともに未来を信じて決意を新たにしてもう一度やり直しましょう。

日本にはまだ世界3位の経済力があり、世界の最先端をゆく高度な技術力があり、世界最大級の膨大な海洋天然資源があり、勤勉で秩序正しく思いやりに満ちた国民性があります。かつて敗戦で焼け野原と化した日本は、世界中が驚く高度経済成長を経て世界2位の経済大国になりました。日本民族にはその底力があります。
理想に満ち溢れ心から日本を愛し国民を思いやってくれる宰相のもとで、政府と国民が心を一つにして力を合わせ、新しく生まれ変わった豊かな強い日本を築いていきましょう。自虐史観にとらわれ中国にひたすら媚びる卑屈な「戦後体制」は私たちの手でもう終わりにしましょう。中国との冷戦に打ち勝ち、そして誇り高く生まれ変わった美しく強い国を子孫に残してあげようではありませんか。

ともにこの国に生まれ、この国で生き、この国で死んでいく、日本を愛する同胞の皆さん。もう案ずることはありません。安倍晋三という一筋の光芒はやがて日出づる国を明るく照らす夜明けの太陽になるでしょう。不安にかられた暗い夜は終わり、もうすぐ新しい朝がやってきます。今こそ立ち上がるときです。「戦後体制」との戦いはこれから始まるのです。


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