今年も自立の方向が見えない日本 | 田母神俊雄オフィシャルブログ「志は高く、熱く燃える」Powered by Ameba

今年も自立の方向が見えない日本

今年も残すところあと半月ほどになった。今年もまた我が国は、国家の完全独立に向けて一歩も踏み出すことなく一年が過ぎた。我が国は、独立国家でありながら、そして世界有数の経済大国でありながら、自分の国を自分で守ることが出来ない。これは恥ずべきことだと認識しなければならない。独立国というのは自主防衛が基本である。しかし、今の日本では、国家の指導的立場にある政治家も、高級官僚も、財界人も、多くがそのことを忘れている。自分の国を自分で守れなければ、守ってくれると言われているアメリカの言う通りにせざるを得ない。そして、日米安保によってアメリカが日本を守ってくれるのだから、「良好な日米関係の維持」が我が国の外交、安全保障上の最も重要な目標となる。


しからば、アメリカの言う通りにしていたら日本は利益を得ることができるのか。はっきり言って損するばかりである。国際政治とは何かと言えば、その本質は富と資源の分捕り合戦なのである。アメリカはアメリカの国益でしか動かない。アメリカ政府が、心底、日本国民のことを慮ってくれることなどあり得ない。アメリカは国益に叶わなければ、敵と味方さえどんどん入れ替える国である。


第二次大戦のときは、日本やドイツはアメリカの敵だった。ソ連や中国は、アメリカの同盟国である。しかし戦争が終わってアメリカは、共産主義の脅威を認識した途端に、敵味方を入れ替えることになった。日本やドイツはアメリカの同盟国になり、ソ連や中国はアメリカの敵になった。中東でもイラン・イラク戦争までは、アメリカはイランのパーレビ王朝を支援していた。しかし、イランに政変が起きアメリカにとってイランが都合の悪い国になると、アメリカはイランを捨ててイラクに付いた。そして、次にイラクが都合が悪くなると、軍事攻撃をしてフセイン政権を倒したのである。


中国と台湾の関係でもアメリカは1960年代の半ばまでは台湾支持であった。しかし、中国が核兵器の開発を終えると、このまま中国を敵にしておくのはまずいと考えたのか、アメリカは台湾を捨てて中国を国連の常任理事国にした。このようにアメリカは国益に叶わなければ簡単に敵味方さえ入れ替えてしまうのである。


我が国は、日米安保によってアメリカに守られていると思っている国民が多いが、日米安保条約はアメリカの自動参戦を保証してはいない。日本の戦争にアメリカが参加するかどうかは、アメリカの自由意志に任されているのである。私は、日米安保はあくまでも抑止のためのものでしかないと思っている。万が一、抑止が破綻したときに、アメリカが日本を守るために動くかどうかは、そのときのアメリカの損得勘定で決まる。そんな不安定なものに国家の命運を預けたままでいいはずがない。だから我が国も良好な日米関係を維持しながら、一歩ずつ自分の国を自分で守る方向に踏み出していくことが必要である。攻撃的兵器も必要である。国際政治を動かす一流の国を目指すためには核武装も必要なのである。



別にアメリカが特別悪いとか言っているわけではない。国家というのはそういうものだ。国際政治は常に腹黒いのである。我が国の指導者だけが甘すぎるだけである。民主党の鳩山氏は幹事長時代の2009年に「日本列島は日本人だけの所有物ではない」などと発言していたが、我が国を中国にくれてやると言っているようなものである。


第二次大戦までの世界では、軍事力を直接使って富や資源を分捕りに行った。しかし今はそういう時代ではなくなった。軍事力を直接使わない代わりに、ウソ、デマ、捏造の情報を流して、また自国に有利な国際システム、国際ルールを作ることによって、自分の国にだけは、合法的に富や資源が還流するようにしようとする動きが日常的に行われている。私はこれを情報戦争と呼んでいる。ISOやTPPなども世界中の国がみんな公平に平等に競争できるシステムが提案されているわけではない。全ては提案国の利益のために提案されており、それを丸呑みすれば我が国が損をすることになるだけである。


中国や韓国が、「戦前の日本軍が残虐行為を行った」と執拗に言ってくるのも、情報戦争と認識することが必要である。中韓が言ってていることはウソ、捏造の類であることは十分に分かっている。しかし我が国の多くの政治家、高級官僚、財界人などが近代史をほとんど勉強しておらず、これに騙されて我が国の富や資源を分捕られることに協力している。


軍事力が強くなければ、国際社会において何を発言しても無視されておしまいである。モスクワで前原元外務大臣が、「北方領土は日本のものだ」と言った。しかし、無視されて終わりであった。菅総理が、メドベージェフ大統領の北方領土訪問は「許せない暴挙だ」と言った。これも無視されておしまいである。我が国の軍事力が弱いからである。核武装をしているロシアに対し、我が国が核武装していないからである。外交のバックには必ず軍事力が存在する。軍事力の均衡を保つことは、相手国を外交交渉のテーブルに着かせるために不可欠の要件なのだ。


自衛隊は、我が国の方針により攻撃的兵器を持つことが出来ない。攻撃を受けたときには、アメリカに反撃してもらうということになっている。しかし、アメリカが本当に反撃してくれるかどうかは分からない。自ら攻撃的兵器を持つことを追求すべきであると思うが、我が国の政府には全くそんな気はないようだ。また、自衛隊は世界で唯一国際法で動けない軍である。国際法とは何か。それは条約と慣習の集合体である。主に禁止事項が決めてある。世界の軍は原則何をやるのも自由であるが、国際法で禁止されたいくつかのことは実施できない。これに対し自衛隊は、一般の官公庁の行政事務と同じ扱いで動く。自衛隊法などに法的根拠があり、予めやれと言われたことが、いくつか例外的に出来るだけである。しかしこれでは、自衛隊は状況変化があった途端に行動できなくなってしまう。


集団的自衛権も、我が国は権利として保有しているが、憲法上行使できないそうだ。保有するが行使できない権利とは一体何なのか。これがまた国際社会で他国の軍と一緒に行動するときに障害になる。自衛隊は助けてもらうことは出来るが、他国の軍を助けることができないというわけだ。こんな非人道的なことを、我が国政府は自衛隊に強要しているのだ。国を守るために、その他にも多くの修正すべき事項がある。我が国はそれらをきちんと解決する必要があるのに、今年もまた一歩も動かなかった。来年こそは軍のグローバルスタンダードに向けて踏み出す年になってもらいたいものだ。