海上保安庁のビデオ流出について | 田母神俊雄オフィシャルブログ「志は高く、熱く燃える」Powered by Ameba

海上保安庁のビデオ流出について

9月7日の尖閣諸島の中国漁船の体当たり事件が尾を引いている。


我が国政府は、何の目的かわからないが、当日海上保安庁が撮影したビデオを非公開としていた。野党や国民の中から「何故公開しないのだ!?」という声が日増しに大きくなり、国会の限定された議員たちに何時間もあるビデオのうち、編集された7分間弱のビデオのみが公開された。しかし、その直後に44分ほどのビデオが誰かによってユーチューブで流されることになった。政府はこれを情報漏洩事件と捕らえ調査を開始したが、間もなく神戸の第五管区海上保安本部の43歳の職員が自分がやったと申し出てきた。これを政府も多くのマスコミも『海保の情報管理態勢に不備があった情報管理の問題』としてこれを処理しようとしているが、問題の捕らえ方が違っているのではないかと思う。


このビデオを公開出来ない理由を政府は説明できていない。ユーチューブに流出したビデオを見てもわかるとおり、このビデオを見れば中国の言っていることが如何にでたらめであるか、すぐにわかろうというものだ。中国は事件後間もなく、でたらめなアニメ映像を作り、海上保安庁の巡視船が中国漁船にぶつけて来たという情報操作を中国のテレビやネット上実施していた。我が国政府は、そんなことをされながら、外交上我が国が有利な立場に立てるビデオを何故公開できないのか、全く理解できない。流出したビデオ映像は中国のネット上からはすぐに削除されたそうである。中国にとっては海保のビデオ映像が公開されることは、中国の嘘がすぐにばれ、不利な立場に立つことになるという何よりの証拠である。ビデオ非公開の政府の判断は我が国の国益を損なっているだけではないのか。中国とビデオを公開しないという密約でもあるのか。



国民の声はビデオの全面公開を求めているものが多く(※1)、海保の職員が秘密漏洩の罪に問われることに同情的である。秘密は、政府が形式的に『秘密』に指定しただけでは秘密にならない。このビデオは、衝突事件があってから1ヶ月以上の間、海保の職員なら誰でも自由に見ることが出来た。馬渕国土交通大臣がビデオの非公開を指示したのは事件から1ヶ月以上経った10月18日のことである。だから上司の指示に従わなかったという服従義務違反はあるかもしれないが、秘密漏洩の罪は問えないのではないか。そして、流失させた職員は何らかの罪に問われることは覚悟していたのではないかと思う。彼はすでに43歳という年齢であり、ビデオを流出させれば何が起きるかは、ある程度想像できていたと思う。この職員にも家族がいる。もし、これで職を失うようなことになれば、家族も路頭に迷うことになる可能性もある。しかし、彼の正義感がビデオの非公開を許せなかったのであろう。



私の元にも、amebaやtwitter経由のコメントなどでいろんな意見が寄せられる。多くの意見は、『政府は中国人の罪は出来るだけ小さくしようとし、命を懸けて国を守ろうとしている海上保安官の罪は出来るだけ大きくしようとしている。これでは国家のために正義感を持って任務にまい進する職員はいなくなるであろう』というものである。


一方では『どんなに不満でも、海上保安庁や自衛隊のような組織で、命令違反が容認されるようでは組織行動が出来ないのではないか』という意見も少数ではあるが届いている。さて一体これをどう考えればよいのか。私は、次のように考える。国家政策は、常に国民の幸せを守り国益を増大するものでなければならない。今回、ビデオの非公開と公開とでは、どちらが国益を増大するのだろうか。私は公開するほうに軍配を上げる。公開するほうに正義があると考える。そう思うから正義を実現するために、職員が合法的に行動し、ビデオが公開されることが望ましい。しかし、多分、今回は合法的な行動ではビデオの公開が出来なかった。だから彼はやむを得ずユーチューブに流出させるという行動に出たのだと思う。私は、首をかけて国家のために行動した彼を支持する。彼は我が国を救ったかもしれないのだ。彼は誇りを持って、行政処分や刑事罰を受ければよい。


こう言うと、政府の命令に従わないことを奨励しているように思う人がいるかもしれない。しかし、いつでもこのような行動が許されるべきではない。私は政府のやっていることに明らかに正義の旗が立たない、このような場合にのみ今回のような行動が許されるべきだと思う。政治は良好な結果を得ることが目的である。政府のやっていることが、明らかにまずい結果を生ずることが予測されるにも拘らず、上の命令だからとその通り実施するのは無責任というものである。『それでは、多くの職員が勝手な判断で行動したらどうなる!』という人がいるかもしれない。しかし、正義の旗が立つ上の命令に対し、そんなことは起きないのだ。もっと日本人を信用してもらっていい。それよりは指揮命令が絶対と言う原理原則論に捕われて上の間違いが修正されず組織全体が間違った方向に進む方がよっぽど怖い。そういう意味で、今回のような職員がいてくれたことに日本はまだまだ大丈夫だという感を深くしている。


頑張れ日本。





※1 共同通信社が12、13日に全国の1,000人に実施した電話意識調査で、88.4%が尖閣諸島付近の中国漁船衝突事件の映像を政府が「公開すべきだ」と答えた。 「公開の必要はない」としたのは7.8%で「分からない・無回答」は3.8%だった。(MSN産経新聞ニュース 2010.11.13 17:34 より抜粋)