偉そうに編集論を語るつもりはないけれど、ひとつの考え方を、仕事上の基本的な共有事項的メモとして。
「花の図鑑」があるとする。そのままなら「花の図鑑」で間違いないが、これに売るためのキャッチコピーを付けるとする。たとえば監修したひとが超有名人ならば、「○○○○さん監修!」でも価値アピールになる。機能性を訴えるなら、「ポケットサイズ」「全000種掲載」みたいな方向性もある。
もっと高次な機能性を訴えるなら、「毎日の散歩道が楽しくなる!」みたいな訴え方もある。類書との差別化ポイントをアピールするならば「咲いている場所から調べられる」「都会の公園に咲く花に特化した」みたいな特徴を強調するのも一手。著者の想いを前面に押し出すなら、「花に囲まれた豊かな生活を!」「毎日一輪の花に思いをはせれば、人生が豊かになる」のようなメッセージをキャッチにしてもいい。
そういう訴求ポイント別に、いろんなワードを考えて、ブレストする。湧いてきた案を書き出し、一つ一つ、頭の中にいる想定読者に「どう? これ読みたくなる?」と尋ねてみる。すると頭の中にいる想定読者が「うーん、これはぱっと見には意味がわからない」とか「うーん、これはちょっと難しそう」とか「いや、こういうのは求めてない」とか教えてくれる。
その対話をくり返し、「あ、これ惹かれるかも」「こういわれると胸にチクッとくる」みたいなひっかかりを見つけたら、その案を軸に、さらにより良いワーディングの組み合わせがないかを探りながらブラッシュアップする。そのときにブレストで出てきたワードの断片が再利用できたりもする。
それができるようになるためには想定読者について知り尽くしていないといけない。想定読者について客観的に知り尽くし、自分の頭の中で彼らが自由に発言できるようにしておき、さらに客観的にその発言を評価できるのが、職業としての編集者。
普通のひとは「どれがいいと思う?」と聞かれた瞬間に、意識的に選ぼうとしてしまうから、視野の片隅に無意識でとらえたキャッチコピーに自分がどう反応するかまでは想像できない。100人の一般人に「どれがいいと思う?」と聞くより、1人のプロの編集者に聞くほうが、実際に「売れる」ものがつくれる可能性は高いと思う。