末梢神経障害とビタミンB

 

ビタミンBの不足は、末梢神経障害などの原因となります。ビタミンBは神経細胞のエネルギー産生(糖質代謝)に関与しているため、不足すると末梢神経の働きが鈍り、しびれや痛み、貧血などの症状を引き起こすことがあります。

 

ビタミンBには、次のような種類があり、それぞれ不足すると異なる症状を引き起こします。

  • ビタミンB1

    炭水化物の代謝に関わる栄養素で、不足すると脚気やウェルニッケ-コルサコフ症候群を引き起こします。脚気では、全身の倦怠感、食欲不振、手足のしびれやむくみなどの症状が現れます。

  • ビタミンB6

    不足すると末梢神経障害や脂漏性皮膚炎、舌炎、ペラグラ様症候群を引き起こすことがあります。成人では抑うつ、錯乱、脳波異常、痙攣発作が起こる場合もあります。

  • ビタミンB12

    末梢神経や中枢神経の機能の維持・修復を行う作用があり、ヘモグロビンの合成にも関与しています。不足すると貧血や脊髄、末梢神経障害を引き起こし、手足のしびれやピリピリ感、感覚消失、筋力低下、反射消失、歩行困難、錯乱、認知症などの症状が現れます。

ビタミンBの不足は、アルコールの大量摂取や食事の偏り、サプリメントを飲まない菜食主義者、胃全摘後による吸収不良などが原因と考えられます。採血でビタミンBを測定することで診断でき、内服薬や点滴で不足しているビタミンBを補充することで症状を改善することができます。また、アルコールの大量摂取や内服しているお薬が症状を悪化させている場合は、禁酒や断薬も検討する必要があります。

 

ビタミンと神経疾患ついて

2006.04.23 放送より

 

 最近、健康食品ブームでいろいろなサプリメントが売られていますが、今日は元祖サプリメントともいうべきビタミンとその欠乏によって起こる神経疾患についてお話しいたします。

 そもそもビタミンとは、日本ビタミン学会と(社)ビタミン協会による定義によれば「微量で体内の代謝に重要な働きをしているにもかかわらず自分で作ることができない有機化合物」とされています。すなわちビタミンとはヒトが健康的に生きて行くうえで必要であるにもかかわらず、自分自身の体内では合成することができずに食事などで外部から補給をしなければいけないものです。現在までに13種類のビタミンが知られていて、水溶性のものにはビタミンB1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、ビタミンCの9種類が、脂溶性のものにはビタミンA、D、E、Kの4種類があります。ビタミンは体内では主に酵素の活動を補う補酵素として働いており、脂肪・炭水化物・タンパク質の代謝やコラーゲン・DNA・神経伝達物質などの合成、活性酸素を消去する抗酸化作用やさらには血液凝固や骨形成などにも関与するなど生体内で様々な役割を果たしています。今回はこれらの中でその欠乏により神経疾患を起こすビタミンB群についてお話ししてゆきます。

 まずはビタミンB1です。このビタミンは炭水化物の代謝に関係があります。すなわち炭水化物はグルコースにまで分解され、さらにピルビン酸を経て最終的に二酸化炭素と水になりますが、その途中でエネルギーを産生いたします。ビタミンB1はこの代謝の補助をしています。そしてその欠乏により心臓や神経系(末梢神経と脳)が障害されます。この欠乏によって起こる疾患には脚気とウエルニケ・コルサコフ症候群があります。

 最初に脚気ですが、初期症状としてイライラ感、疲労、食欲不振、腹部不快感などが見られます。その後、病状の進行とともに末梢神経障害として四肢のじんじん感や灼熱感などの感覚障害が、さらに進むと四肢の筋力低下もみられるようになります。また心臓に対する影響としては、心拍数は増加し、心拍出量が増え、末梢の血管は拡張し、皮膚が温かく湿った感じとなります。さらに進行すると心不全をきたし、肺に水がたまったり、足などにむくみをきたします。心不全が極度に進行するとショック状態となり、死に至ることもあります。手足のしびれを訴える人で足にむくみがある場合は、膝蓋腱反射などをみて反射が低下しているようであれば脚気を疑います。

 神経系に対する影響では、末梢神経系の障害に加えて脳に影響が出てくるとウエルニッケ・コルサコフ症候群がみられます。この疾患は、慢性的に起こるコルサコフ症候群と急に発症するウエルニッケ脳症からなります。コルサコフ症候群は、記銘力障害、見当識障害、作話などを主徴とし、ウエルニッケ脳症は脳内の乳頭体、第3脳室・中脳水道・中脳水道周囲の灰白質に出血性炎症を来たし、眼球運動障害、失調性歩行、意識障害などがみられます。ウエルニッケ脳症は緊急の治療を要する疾患でビタミンB1を連日大量に点滴投与する必要があります。

 その他のコルサコフ症候群や脚気でも治療は勿論、ビタミンB1の投与ですが、実際には何故発症したか考えることも再発を防ぐ意味で大切です。昔の日本では、脚気は白米ばかり食べ肉食をしなかったことでビタミンB1摂取不足により多く発症いたしました。最近では、インスタント食品やジャンクフードの食べ過ぎなどの偏食で起こることも報告されています。またビタミンB1の需要増大の結果、発症する例としては慢性的なアルコール多飲、妊娠時、感染症や癌に罹患した時、IVHの点滴などで糖分中心の栄養を行った時などがあげられます。

 次にビタミンB6です。このビタミンはアミノ酸と脂肪酸の代謝を補助し、神経伝達物質の合成や赤血球の形成のほか皮膚の維持にも関係するといわれています。 このビタミンの欠乏により乳児ではけいれん発作が知られています。また成人では貧血とともに目・鼻・口周囲の(脂漏性)皮膚炎や末梢神経炎などがみられます。ビタミンB6の不足は、摂取不足や妊娠時の需要の増大のほか、抗結核薬のイソニアジドを始めとする各種薬剤によるB6の消費などがあげられます。

 次にビタミンB12です。これは生体内のメチル化反応や脂肪酸の酸化に関係し、赤血球の合成にも必要です。このビタミンは肉類などに含まれていて小腸で吸収されるのですが、その吸収には胃で作られる内因子という蛋白が必要なので、胃や小腸を切除した人は、切除後15年以上してこのビタミンが欠乏してきます。 その結果、脊髄の後索という深部感覚を伝える経路と側索という運動神経の経路が障害され、亜急性連合性脊髄変性症という病気を発症します。症状は手足のしびれに始まり、進行すると脱力や脊髄性の失調をきたします。治療は、ビタミンB12を注射します。

 以上ですが、この他にもビタミンEの欠乏で小脳失調をきたすなどいろいろな障害の報告がありますから機会があればまたお話ししたいと思います。