世界の人口が10000人だとします。そのうち200人は日本人です。一方、世界で100人が精神病院に入院してるとすると、80人が外国人、20人が日本人です。なので、外国では9800人中、80人が精神病、日本では200人中20人が精神病。外国では0.8%くらいなのに、日本では10%の人が病気という事になります。その差10倍以上、なんかおかしい。

 

日本だけ精神科病床が削減できていない

2018年12月に行われた厚生労働省の精神科医療についての検討会で配布された資料に、こんな記述がありました。

国際的に見て日本の精神科病床(病床とは入院ベッドのこと)数は非常に多い」「過去15年間我々(厚生労働省)は、精神科病床を削減する努力をしてきた。それでも約35.8万床が33.8万床になったにすぎない」(『第1回精神保健福祉士の養成の在り方等に関する検討会(厚生労働省)』より)。

一説には、全世界の精神科病床の約2割が日本にあると言われます。

みなさんは、日本の人口が世界の人口の何%を占めているかご存知ですか。2%弱です。その日本に、世界の精神科病床の約20%があるのです。「多すぎるのではないか」と思うのは、私だけではないでしょう。

下のグラフはOECDのデータを元に、先進国にどれくらい精神科病床があるかを示したものです。人口1,000人当たりのベッド数を比較ですが、日本は一貫して世界一を続けています。

 

【諸外国との精神科病床数の比較(人口1,000人あたり)】日本は1996年から2010年まで一定して3.0床/千人。1996年ごろは日本に次ぐ多さだったベルギーも2006年に2.0床/千人にまで減らしている。アメリカ・ドイツ・イギリス・スイスは2020年時点で1.0床/千人以下。アイルランド・オランダ・ベルぎーは2010年時点で1.0~2.0床/千人。 出典:『第8回精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会 参考資料(平成26年3月)』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

この推移をもっと長いスパン(たとえば1960年頃から現在まで)で見ると、日本の精神科医療が諸外国とかなり異なることがわかります。日本以外の先進国は、1960年代から精神科病床をどんどん減らしているのに、日本だけ高水準を維持しているのです。

つまり、世界的な傾向として、精神病(今の名称は精神障害)の「脱入院化」が進むなかにあって、日本では旧態依然とした「隔離収容主義」がまだ残っていることになります。

平均入院日数の長さも大きな課題

病床数の多さと同時に問題なのが、精神科における平均在院日数の長さです(在院とは入院のこと)。精神科だけでなくすべての診療科の平均在院日数は、29.1日ですが、精神科の平均在院日数は285日にも及ぶのです。

平均在院日数の長さは精神科病院の約8割、精神科病床の約9割を民間の医療法人が運営していることが原因です。

 

【諸外国の1,000人あたりの精神科病床数と平均在院日数の比較】国名:1,000人あたりの精神科病床数(2012年):平均在院日数(2014年)。日本:2.7:285.韓国:0.9:124.9.イギリス:0.5:42.3。スイス:0.9:39.4.ドイツ:1.3:24.2.イタリア:0.1:13.9.ベルギー:1.7:10.1.フランス:0.9:5.8.背景は精神科病院の役8割、精神科病床の役9割を民間の医療法人が運営していること。よって売り上げを確保するには在院日数を長くせざるを得ない。 出典:『第1回精神保健福祉士の養成の在り方等に関する検討会 参考資料(平成30年12月)』(厚生労働省)よりWe介護編集部で作成

日本には「精神科特例」というものがあります。「入院患者に対して医師数は一般病床の3分の1、看護師・准看護師は3分の2でいい」という取り決めです。このように設置基準を緩める代わりに、診療報酬は一般病床より低く設定されています。

民間の医療法人であれば、当然ながら利益を追求しなければなりません。ですから、国(厚生労働省)から先進国並みに病床数を減らすように、と言われても簡単に従うわけにはいきません。

精神科病院は、多くの病床を持って「薄利多売」しなければ利益を上げることができないのです。一説には90%台の病床利用率を確保しないと経営は困難と言われています。そのため、「一旦入院させた患者はなかなか退院させられない」という問題が出てきます。

日本の精神科病床はなぜここまで増えたのか?

では、どのような流れで日本にこんなにたくさんの精神科病床ができたのでしょうか。その特徴を端的に言うと、「民間頼み」と「指定の活用」です。精神科病院に関する法律の変遷で見てみましょう。

精神科病院の成り立ちを解説

北欧や西欧などの福祉先進国と日本が医療面で大きく異なるのは、先進諸国は公的医療機関が多いのに、日本は民間医療機関が多いことです。それらの国の医師や看護職、介護職の多くは公務員なので、国が何か方針を打ち出せば、一斉に同じ方向を向いてくれます。