アミロイドβという物質はアミロイド前駆タンパク(APP)が分解してできます。APPは、脳内で栄養素が十分に足りていると神経の成長を促すような別の物質に変化します。しかし、栄養素が不足していると、APPが分解してアミロイドβができやすくなります。

 

神経が成長する方向に働くのか、破壊する方向に働くのかが、神経栄養状態によって変わってくるのです。そして、脳内に炎症が起こったり、毒素が蓄積したりすることで、神経の成長に必要な栄養素が不足しがちになるということです。

 

つまり脳内に何らかの炎症、毒素の蓄積、栄養素の不足が起こることで、APPを分解してアミロイドβを増やす方向に働き、脳内にアミロイドの沈着を起こすということになります。

 

脳内に炎症が起こらないようにコントロールされ、脳内の毒素が取り除かれ、栄養成分が十分に補充されると、APPは神経の成長を促進する別の物質に変化し、アルツハイマー病になることが回避できるということです。実際に、ブレデセン博士はこの理論に基づいて、「リコード法」という治療法を提案しており、アルツハイマー病も初期の段階であれば9割以上に症状の改善が見られたと報告しています(デール・ブレデセン著『アルツハイマー病 真実と終焉 “認知症1150万人”時代の革命的治療プログラム』)。

 

 

アルツハイマー病の治療の歴史は、これまではアミロイド仮説に基づいて、βアミロイドを脳から除去する方法が研究、開発されてきました。しかし、その結果、アルツハイマー病の治療薬はどれも「惨敗」だったのです。βアミロイドがなくなってもアルツハイマー病は改善しないからです。これも、ブレデセン博士の仮説に基づいて考えると納得がいくのではないでしょうか。

 

アミロイドβは、脳内の炎症、毒素の蓄積、栄養素の不足が原因で起こってきた結果の一つに過ぎないとすれば、アミロイドβをいくら取り除いても、根本的な原因は一向に解決されないのも当然と言えるでしょう。

 

ブレデセン博士は「アルツハイマー病の脳は穴が36個開いた屋根である」という表現で、アルツハイマー病を進行させる36個の要因があると指摘しています。脳内の炎症、毒素の蓄積、栄養素の不足を起こす原因が36個あるということです。アルツハイマー病を完治させるには、これらの要因を一つ一つ取り除き、身体のバランスを整えていく総合的な戦略が必要とされるのです。単一の薬剤で治るような病気ではないということです。