1892年、ドイツのペッテンコーファーは、自らコレラ菌を飲んでも発症しないという証拠を示すことで、コッホの提唱したコレラ菌病因論を否定して自説の正しさを実証しようと試みた。

 

コレラ菌自飲実験は、「近代実験医学の父」とも呼ばれたペッテンコーファーらしい、綿密な実験計画に基づいて行われたものであった。

 

実験の公正を期すために、コレラ菌は予めコッホが培養し送付したものが用いられ、発症に十分だと考えられていたよりも遥かに多く、10億個以上(軍の一個支隊を壊滅させることができると言われる)の生きた菌が存在していることを確認した上で用いられた。

 

さらに実験に先立って重曹液を服用して胃酸を中和し、胃の殺菌作用による影響を除外するという点まで配慮された。

 

実験は10月7日から行われ、翌日にはペッテンコーファーには何の異常も現れなかった。10月9日午後から下痢の症状が現れ、13日まで水様の便が続いた後、15日になって正常に戻った。

 

しばしば誤解されることであるが、コレラとはあくまで激しい下痢だけではなく脱水症状を伴う疾患であり、ペッテンコーファーはコレラ菌によって激しい下痢を起こしたもののコレラは発症しなかったのである。

 

軍の一個支隊を壊滅させることができる量のコレラ菌を飲んでも、なぜ、ペッテンコーファーは助かることが出来たのか。