6/28 深夜1時。
手術が始まった。
連絡用の専用携帯電話を渡され、家族控え室で待つように言われた。
中に入ると看護師さんが休憩中だ。
「あっごめんなさい。どうぞ」
片付けて席を立とうとするので、
そのままどうぞ
ご一緒させて下さいと伝えたが、足早に行ってしまった。
悪い事をした。こんな時間まで働いて、休憩もゆっくりさせてあげられなかった。申し訳ない
この日の深夜のオペは彼だけのようで、物音ひとつしない。
控え室にテレビがあるが、あまりの静けさに付けるのも気がひける。
部屋を出た直ぐ右側には、自販機がある。
飲料水だけでなく、カップラーメンやスナック菓子なんかも売っている。
長時間の手術の立ち会い家族の為なのか、当直の方の為なのか、今時の病院に感心。
日中は気付かなかったが、建物が結構揺れる。
目の前を大きなトラックが通るからなのか、
震度2くらいは揺れるから、手術大変だぁとか考えていた。
右手首を握る。
肌身離さず身に付けている数珠がない。
そういえば、手術直前にオペ看護師さんに、彼に渡してくれと託したんだ!
中には、亡くした愛犬と愛猫の毛が入っている。
きっと彼を守ってくれるはず
人はキャパを超えると、情緒不安定を通り越してハイになるのかも。
意外と能天気に過ごす。
控え室に置かれた病院の冊子を読み漁ったり、
時間的に帰りはタクシーを拾えないだろうから、安く呼べる方法は無いかとか、スマホをいじっては、残りの%と時計ばかりを見ていた。
◯先生との相性も良かったんだと思う。
いたって普通の盲腸がんって言っていたのに、転移はあるし、急変するし、なんだよって思いもしたけど、
終始ほんわかした雰囲気に、大した事ないって言われている気がして正気を保てた。
手術直前、「しっかりやるから」と言われた時の目を見た時、◯先生でダメならどこに行ってもダメだと思った。
そんな事を思っていたら、渡された携帯電話が鳴った。
◯先生だ。
「手術が終わりました。
手術室の入口まで来てください。」
6/28 朝4時過ぎ。
予定通りだ。
迷路のような薄暗い通路を抜けると先生が立っていた。
走って行きたいが病院内を走る訳にも行かず、早足で向かう。
先生、お疲れ様でした。それで、彼は?
「開けてみたら、こうねぇ腸の回りをぐるっとねぁぇ、意外と深くてねぇ」
はぁ。
「回りの腫れているリンパもねぇ。」
はぁ。
「癒着もねぇ。やっぱり思ってた通りあってねぇ」
はぁ。
「全部、取った」どや顔
「これから、まだ縫合不全とかあるかもだけど、たぶん無い」どや~
「きれいに取れたから、盲腸がんの方は、これでもう大丈夫。
肝臓のがんは残っちゃったけど、首の菌も直ぐに特定して治療するし、落ち着いたら肝臓も切れるから、悪い所1個ずつ潰していきましょう」
先生、本当にありがとうございました。
こんな夜中にオペしてくれて、主治医が変わるって聞いた時はショックでしたが、結果◯先生に切って貰えて本当に良かったです
あっ緊急手術だから、良くはないですけど
◯先生、笑ってる
疲れてくぼんだ先生の目は、獲物を狩り終えた獣のそれだ。
満足感と達成感に満ちている。
もう大丈夫だ。
何の根拠もないけど、そう思った。
先生と別れて、30分位してから彼とリモート面会。
さすがに疲れたんだろう、声も出せない。
ただ右拳をあげて、大丈夫と合図。
看護師さんに、可哀想だから切ってあげてとお願いした。
お礼を伝え、病院の出口へ。
途中、白衣の美女とすれ違う。
朝から電話対応してくれた女医さんだ
思わず手を取り合った
わぁ◯◯先生
この度は、色々と本当にありがとうございます!
先生のお陰で入院もスムーズに行き、入院していたお陰で、早い処置も受けられました。
感謝しかないです
「わぁ◯◯さん
本当に良かったです
彼、一時は危ない所だったんですよ!!
本当に危なかったんです
なのに手術も無事に終わって本当に良かったですね」
え?
聞いてないよ?
くそ主治医にまた騙された爆