今日、7月30日は『乱歩忌』
日本の推理小説の生みの親、江戸川乱歩の1965年の忌日
 
 
この間から紹介しているが、この季節は亡くなる方が多い
暑さのせいだろうか?
著名人でも多く、『文学忌』 ───文学忌(ぶんがくき)とは、作家の命日をその雅号やペンネーム、代表作などにちなんで、その文学的な業績を偲ぶ日としたものである─── というのだそうだが、この時期には多数いる
先日紹介した芥川龍之介の『河童忌』もその一つだ
 
江戸川 乱歩──
1894年(明治27年)10月21日 -1965年(昭和40年)7月28日)は、大正から昭和期にかけて主に推理小説を得意とした小説家・推理作家であり、戦後は推理小説専門の評論家としても健筆を揮った
実際に探偵として、岩井三郎探偵事務所(ミリオン資料サービス)に勤務していた経歴を持つ
自身の趣向であった「エロ・グロ・猟奇・残虐趣味」を前面に押し出した「蜘蛛男」を「講談倶楽部」に連載し、大好評となり、これを契機として乱歩は続けざまにヒット作を連発させた
子供の頃から、探偵小説などに親しみ、大学在学中にエドガー・アラン・ポーやコナン・ドイルの探偵小説に出合い、「江戸川藍峯」というペンネームを使用したが、後に「江戸川乱歩」に改めた
 
 
 
そんな乱歩だが、作風が強烈故か、数々の発禁作品をもっている
そんな発禁作品だが、長い年月を経て発売されることになった作品がある
 
それが、『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』だ
 
 
株式会社スティングレイが運営するサイト『allcinema』によると、1969年公開の映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』のDVD化が決まったという
発売は東映ビデオから2017年10月を予定している
『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』は江戸川乱歩の複数の小説を原作にしたオムニバス映画で、石井輝男が監督の長編映画
 
タイトルからわかるとおり異形の姿をした人間が多数登場することから、日本国内では地上波放送はおろかソフト化すら果たしていない「幻の映画」である
また本作は以前から映画マニアの間でカルト的な人気が高く、今回の発売決定の知らせをうけてネット上には喜びの声が多数あがっているということだ
何故2017年、演出に問題がある『恐怖奇形人間』のソフト化が決まったかは真相は不明であるが、一部では東映ビデオの売上不振が根底にあるのではないかと囁かれている
現在、セルまたはレンタルDVDソフトの売上が年々下がっており、視聴者の好みはAmazonプライムビデオやHule、Netflixなどの動画配信にシフトしているという
そのため、これからのDVDメディアについては、確実な売上が見込める「マニアックな作品」が求められているといわれていて、今回の『恐怖奇形人間』もその一環ではないかと囁かれている
 
果たして『恐怖奇形人間』のDVD発売は、今まで日の目を見なかった封印映画を続々とリリースさせるきっかけを作ってくれるのだろうか・・・
 
 
 
 
江戸川乱歩の作品には、発禁のものといえば、ほかに『芋虫(1929年)』が挙げられる
芋虫といっても、昆虫ではなく、「芋虫」のようになってしまった人間の話
現在でも伏せ字のままの文庫本があるくらいで、発表当時は伏せ字だらけ、その後も全面削除などの憂き目を見た作品だ
 
 
 
 
(ネタバレ)
「」内は原文からの引用
 
 
 
戦争で両手両足、聴覚・味覚まで失い、かろうじて視覚と触覚のみを残して帰還した傷痍軍人・須永中尉の話だ
 
夫の負傷の知らせを聞いたとき、時子は戦死でなかったことに安堵したものだが、病院でその姿を見たときには「ほんとうに悲しくなって、人目もかまわず、声を上げて泣き出した」 
そして、上官だった鷲尾少将のはからいにより、鷲尾家の離れの二階で暮らしていた
世話をする妻・時子とのコミュニケーション方法は、目、頭、肩、尻を動かすことと鉛筆を口にくわえてカタカナを書くことだけだ
 
最初は献身的に介護をしていた時子も、いつしか「身の毛もよだつ」ような欲望がふくらみ、夫の身体を「けだもの」か道具のように見なしているという自覚が芽生えていくのだった
 
そばを離れて3時間もすると夫は機嫌を悪くするが、その「和解の手段」はいつも、いきなりかがみ込んで夫に迫まっていくこと
その「物狂わしい」行為には、この憐れな夫を「勝手気ままにいじめつけてやりたい」という「弱い者いじめの嗜好」も含まれていた
夫・須永中尉は時子の狂った性欲のはけ口と化していくのだった
 
やがて夫は、夫婦の営み以外に生きがいもなくなったようで、完全に無力なくせにその種の欲求だけ旺盛な塊が、ただその「つぶらな両眼」で喜怒哀楽を表す
その奇妙さが時子には不思議に「限りなき魅力」となってゆく
と同時に、相手の「意にさからって責めさいなむこと」に「この上ない愉悦」を感じるようにもなっていた
 
夜中に夫が、天井の一点を見据えて、物思いに耽っている様子が、「ひどく憎々しく思われ」「例の残虐性が彼女の身内に湧き起こってくる」
突然、飛びかかって肩をゆすぶると、夫は叱責のまなざしで睨みつけるが、時子は「怒ったの?なんだい、その眼」と、どなって「いつもの遊戯を求めて」行く
 
あるとき、夫がいつまでも天井を見据えつづけるので「なんだい、こんな眼」と叫んで、両手を相手の眼にあてがい「病的な興奮」とともに無意識の力を加える
 
夫は踊り狂い、両眼からまっ赤な血が吹き出す
夫の「物言う両眼」が「けだものになりきる」のに邪魔だったからか、それともいっそ「ほんとうの生きた屍にしてしまいたかった」のか、種々の考えを意識しながら、時子は医者の家へ走った
 
医者が痛み止めの注射などの処置をして帰ると、時子はようやく静まった夫の胸をさすって、「すみません」と何度も泣いて謝り、胸に指で「ユルシテ」と幾度も幾度も書いた
それでも一向に身動きもせず、表情も変えない夫に、時子はワッと子供のように号泣し「取り返しのつかぬ罪業と、救われぬ悲愁」に打たれ、「世の常の姿を備えた人間が見たくて」鷲尾少将のいる母屋へ駆け込んだ
 
ところが、少将と二人で戻ってみると、離れには誰もおらず、枕もとの柱に、鉛筆で「ユルス」と書かれていた
 
二人は「古井戸」があったことを思いだし、時子と鷲尾少将がそこへ行くと、夫が「胴体の四隅についた瘤みたいな突起物で、もがくように地面を掻きながら」前進しているのを見つける
次の瞬間、身体全体が消え、「遙かの地の底から、トボンと、鈍い水音が聞こえてきた」
 
放心して立ち尽くす時子は、闇夜に一匹の芋虫が枝の先から「まっくろな空間へ、底知れず落ちていく光景を、ふと幻に描いていた」
 
 
 
この作品、乱歩自身が妻に見せたところ「いやらしい」と言われたとか
作品を読んだ芸妓の何人もが「ごはんがいただけない」とこぼしたとのことだ
そして、発表されるや、左翼からは「この様な戦争の悲惨を描いた作品をこれからも
ドンドン発表してほしい」との賞賛が届いたという
ただ、乱歩自身はこういう評価には興味がなく、左翼から賞賛されたものが右翼に嫌われるのは当然で、「夢を語る私の性格は現実世界からどのような扱いを受けても一向に痛痒を感じない」とうそぶいていたという
 
また、丸尾末広による漫画バージョンもあり、小説ではイメージしにくい状況が、明確に描かれており、より深く江戸川乱歩の世界へ入り込めるのではないだろうか
 
 
 
ミステリー小説の要素は薄い作品だが、このおぞましいほどの心理描写は一読の価値があり、また、この作品は、時子の視点で語られており、須永中尉がどう思っているかははっきり書かれておらず、須永中尉の立場を深く想像して読んでみると、また違った見え方がしてくるのかもしれない
 
 
 
 
 
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