北陸地方では“ネソ”、岐阜では“ネッソ”と呼ばれている樹木があります。特に飛騨地方では、「ネッソを練る事ができてようやく一人前の男だ!」という言い伝えがあったようです。ネソやネッソと呼ばれているこの木は、マンサクという樹木です。

 

若いマンサクの幹や枝はねじったり曲げたりして使うにはもってこいの樹木です。柔軟性があり、ねじっても結わえても強くて、キリリと締まる事から大きな合掌造りの家では釘などを使うことなくネッソだけで建てられています。つまり、マンサクの木で合掌造りの骨組みを組むことができれば、大人の男として認められたという事です。農村や山村では貴重な藁縄の代わりに結束する用途で使われていました。人々の暮らしに深く入り込んでいた、マンサクはとても頼りになる樹木として人々と共存していたことが伺えます。人々が利用するには山に多く存在しないといけないのですが、マンサクはそんな人々の期待に応えるだけの量が存在しています。

 

マンサクは俳句の歳時記では漢字で、“金縷梅”と書きます。俳句の世界では早春の季語として有名です。マンサクの語源ですが、二つの有力な説があります。2月中には独特の形をした花が咲き始める事から、東北地方ではちょっと訛って「まんず咲く」と言っていたのが「マンサク」になったと言われています。これが一つ目の説!そして二つ目は、マンサクの木はたくさんの花を付ける事からその年の“豊年満作”をイメージできます。そこでこの名がついたという説です。方言からなのか、豊年満作から付けられた名前なのか、皆さんはどちらの説に一票を入れますか?

 

それほど高木になる樹木でもないので、山歩きをしていると割合見つけやすい樹木です。雪国には、亜種の“マルバマンサク”もとても多く成長しているのでこちらも見つけやすいと思います。特に花が咲く時期は容易にマンサクを見つける事ができます。それはガクから出ている花弁が紐のような形状(写真参照)であり、他にこの様な花を付ける樹木はほとんどありません。早春の森を歩き、他の木々が目覚めていない静かな森の中にマンサクの花を見つけると、森の中で木々や動物たちの活動がそろそろ始まるな~という嬉しい気分になってきます。見通しが良くて歩きやすい早春の森を散策してみませんか!