HERE LIES LOVE 劇評 | トシ・カプチーノ。 オフィシャルブログ Powered by Ameba

HERE LIES LOVE 劇評


イメルダ夫人といえば、フィリピンの元ファーストレディー。何しろ、フィリピンのマルコス独裁政権が1986年に崩壊して、マルコス夫妻がワイハーに亡命した後の夫妻の宮殿の内部が暴かれて、イメルダ夫人の倉庫みたいな広大な「靴の間」に一生かかっても履き切れないほどのハイヒールが並んでいる映像には世界中がアッと驚くタメゴローだったのよ。その後しばらく知人宅などで、靴箱いっぱいの靴を見つけたりすると即座にイメルダ呼ばわりするのがお約束でした。そう言った破格の奢侈に身をやつす上流夫人に我ら庶民はやっかみと羨望を持って魅惑されてしまうのは世の常。  そんなド派手なイメルダ夫人物語に目をつけたのはブロードウェイ。  夫人がニューヨークの伝説のディスコ、スタジオ54の常連だったということからヒントを得て、イメルダの生き様とディスコを合体させて制作されたミュージカルが「HERE LIES LOVE」だ。









 

フィリピンの貧しい農村で育ちながらもミスコンで優勝するほどの美貌を持っていたイメルダ。のちの大統領であるフェルディナンドはマニラで出会った彼女に一目惚れ。執拗に迫り、根負けしたイメルダは出会いからわずか11日間で結婚。フェルディナンドと死別後、イメルダ・マルコスの絢爛豪華な社交界の生活や為政者の悲哀や、元フィリピン大統領夫人イメルダの驚くべき出世と、その後のフィリピン人民権力革命による没落を70年代のおディスコサウンドで描く様はミュージカルと言うより、アートでありオペラ風のディスコパフォーマンスであるとも言える。

 

驚異的だったのは劇場!通常のブロードウェイでの出し物なら、まー舞台があって、役者たちはそこに居り、セリフ喋って、歌ったり踊ったり、お客様は客席に座り物語を追っていくーてな段取りでショーは進んでいくわけだが、「HERE LIES LOVE」は、その辺を全部取っ払っちゃった「究極の新スタンダード参加型」。演出は既成概念を壊す発想豊かな斬新な切り口がブロードウェイから注目されているアレックス・ティンバーズ。1924年に映画館としてオープンしたブロードウェイ劇場を本作だけのために大改造させ、約1800席近くあった客席のオーケストラ席をすべて取り外し、300席のスタンディング・ルームを作りあげ、頭上に直径1メートルのミラーボールからお立ち台に大型モニターまで。さらに半端ない量の音響と照明機材も持ち込まれた様子は、まるでクラブそのもの。観劇後、オフからブロードウェイ上演に漕ぎ着けるまで10年もの歳月がかかった謎が解けた気がする。このショーの本当の主役は劇場そのものを驚くべき建築的変貌をさせた舞台装置デザイナーのデイヴィッド・コリンズと言える。 

 

一心不乱に役への思いの丈をに伝えようとする熱いキャストは全アジア人。90年に大ヒットしたミュージカル「ミス・サイゴン」は アジア人の主役に白人を抜擢したという事で当時ニュースなどで議論が紛糾したことを思えば遠くへきたもんだーぁ♪  時代が確実に変化しキャストの若さと動物的しなやかさのコンビネーションは最高。まさに、アジアン・ナイト・ワイルドだぜぇー!彼らにチップあげなくていいの?なんて脳裏をよぎったほどなのさ!

 

原案、作詞、作曲を手掛けたデヴィッド・バーンは 音楽界を一世風靡した元トーキング・ヘッヅのメンバー。ファンキーなポップス、ディスコ、バラードなど色彩豊かで 、私的にはシンディ・ローパー書き下ろしの「キンキー・ブーツ」にも引けを取らない出来!特に「Here Lies Love」は耳に残る名曲!   肌の色が違うというだけで 嫌な思いをすることも度々あるニューヨークだが、観劇後、ニッポン人(アジア人)である自分がスゴーく誇らしかった。

 

最後に観劇したい方へアドバイス。チケットは少々割高でもダンスフロアのスタンディング席を選ぶべき!通常の客席だと取り残された感が半端なく満足度はかなり下がっちゃう!そうそう、スタンディング席でご覧になる方は軽装、スニーカーで行くのがベストよ。十二単は避けるべき!