ロシアの文豪、トルストイの小説「戦争と平和」の一部を基にした恋愛物語 | トシ・カプチーノ。 オフィシャルブログ Powered by Ameba

ロシアの文豪、トルストイの小説「戦争と平和」の一部を基にした恋愛物語

 

貧乏暇なしとはよく言ったもので、ショーの打ち合わせのために、日米間を往復する機会も増えている。そんな時しんどいのが、時差ボケ中観劇すること。いくら舞台芸術を心から愛する私とは言へ、薄暗い客席のクッションにじっと座っていると、泥沼のような睡魔が襲ってくる。加齢とともに苛烈さをます時差と、生の舞台をこよなく愛する私の演劇魂の相克。そんな時、生ぬるい出来の冗漫な舞台を見せられた日にゃ、大船を漕ぎながら鼻ちょうちん全開ってな事も。ああ恥ずかしい。そんな中、先日、なんと帰米翌日の時差バリバリの最悪の体調で拝見した「ナターシャ、ピエール&グレイト・コメット・オブ1812」は開幕直後から眠気どころか舞台に釘ずけ! 終演まで息もつかず、観入ってしまうほどの快作だった。実は本作、3、4年前、ミートパッキングエリアのサパークラブで食事をしながら観劇する参加型のオフ・ミュージカルとして話題になっていた。それを知りながら、観なかった自分の嗅覚の悪さを今更だが悔やんでいる。

 

まず、劇場に入るなり度肝を抜かれるのが本作が上演されているインペリアル劇場内。ロングランであった「レ・ミゼラブル」でお馴染みのその箱が、よくぞここまで劇場側が許可したな!ってほど大改造されている。舞台上に設置された観客席の間を縫うように曲がりくねった花道。言わばランウェイのような通路は2階のバルコニー席までつながり、ロシアの高級ナイトクラブのような雰囲気を再現。客席とステージを一体化させたキャバレー風の新感覚シアターに変身している。また、ブロードウェイ版では食事ができない代わりに、舞台の両袖にバーを設置。お酒を楽しみながら観劇できる寸法なのであった。 

 

 

ロシアの文豪、トルストイの小説「戦争と平和」の一部を基にした恋愛物語の舞台は1812年のモスクワ。若くて美しいナターシャは、大フランス戦争でナポレオンを倒すため戦地へ出向いたアンドレ公爵と婚約をしていた。そんなある日、グランドマザー(名付け親)に、モスクワにいるアンドレの父親と妹に会うことを勧められ、従姉妹のソニアと共に訪問。その翌日、偶然に出会ったのがプレイボーイのアナトール。婚約者がいながらも次第に心を奪われたナターシャはアンドレ公爵への裏切り行為を犯してしまう。

 

 

脚本と音楽の良さを最大限に引き出し、役者にのびのびと演技をさせたのは、オフで前衛的な舞台芸術を中心に活躍してきた演出家、レイチェル・チャフキン女史。30名以上のキャストを劇場内所狭しと動しながら、観客までも参加させることで芝居にどっぷりと引き込み、小気味良いテンポで最後まで一気に見せる。総合的な舞台の完成度は現在今シーズンで一番!それを目の当たりにした私は、将来大物に成長する有望株のミュージカルの出産現場に立ち会った気分なのだ。

 

見どころ聴きどころは、アメリカの国民的シンガー、 ジョシュ・グローバンの甘い歌声。彼のキャスティングを知った時、また人寄せパンダ商法か!と嘆いた私だったが、再演「キャッツ」の娼婦猫に抜擢された英国のポップスター、レオナ・ルイスのように大コケしなかったのは、旬の作品として出たての真新しい脚本と音楽に勢いがあることと、そしてグローバン氏のエンタテイナーとしての実力だろう。テクだの声量などを超えたググッとくる歌唱の魅力はもちろん、セリフがほぼない、全編歌で奏でられるオペラ風ミュージカルだから余計にピエール役のジョシュ・グローバンの匠の技が冴えまくる。そしてもう一人、グローバン氏を凌駕するほどの存在感でナターシャは演じるブロードウェイ・デビューのディネ・ベントン。全観客を味方につけてしまうほどチャーミングで、すでにスター・オーラ全開。来年のトニー賞主演女優賞は彼女に決まり!?

 

最後に、小姑根性で重箱の隅を突かせてもらうと、1幕に比べて2幕はちょっと燃料切れ!?ちと退屈な部分も。しかし、脚本、音楽、演出、キャスト全てがスバラシイでSHOW! 開幕間もない本作だが、口コミで連日ほぼ満席。当日販売する39ドルのラッシュ・チケットもかなり早く並ばなければ入手できないほどの人気だ。「オペラ座の怪人」や「ミス・サイゴン」など悲劇系のオトナのミュージカルがお好きな方はダッシュで劇場へ急げ!