週刊NY生活の連載「ブロードウェイ界隈〜Jagged Little Pill」 | トシ・カプチーノ。 オフィシャルブログ Powered by Ameba

週刊NY生活の連載「ブロードウェイ界隈〜Jagged Little Pill」

 

2020年3月に、NYCの顔であるブロードウェイの灯りが消えて、抜き足差し足でなんとか再開に漕ぎ着けたのが今年の9月。それがここ数週間ほど、やっと本来の賑わいを取り戻しつつあるのは実に喜ばしいことである! とは言っても、41軒ある劇場で稼働しているのは約7割。全劇場が稼働できるのは来年春ごろになりそうだ。春よ来い!早く来い!!

 

 

一足お先に再開したのはディズニー系の「アラジン」、「ライオンキング」、そしてロングラン作品「オペラ座の怪人」、「シカゴ」、「ウイキッド」だ。この歴史的なブロードウェイ暗黒時代に入る前まで、私は年間約100本、浴びるほど舞台漬けの日々を送っていたのだ。従って1年半ぶりの観劇のためなら、正直何でも良かった。とにかく一刻も早く劇場の空気を胸いっぱいに吸って、歌と踊りの夢幻の世界に飛翔したい!今回私が選んだのは「Jagged Little Pill」(ジャグド・リトル・ピル)。カナダ出身の女性ソングライター、アラニス・モリセットの空前のヒットアルバムをベースにしたジュークボックス・ミュージカルだ。オフで制作され、2019年にブロードウェイに昇格したが、コロナによって閉鎖に追い込まれ、今年10月に新たに上演を開始した。

 

 

ジュークボックスとは、既存のヒット曲をちりばめて、後付けでプロットやストーリーでもって隙間を埋める比較的安全路線。楽曲のクオリティや知名度&人気は保証済みで、観客からするとお馴染みの曲を口ずさめるという取っ付き易さも魅力なのだ。また当時を知る年配層の人に昔を懐かしんでもらえ、同時に知らない新世代には新鮮さもあり、世代を越えて音楽を楽しめるところはいい。さらに英語で丁々発止に長台詞を捲し立てるタイプの舞台よりも、ジュークボックス系は日本人には優しいジャンルとも言える。

 

 

物語の舞台はNY郊外のコネチカット州。そこに暮らすヒーリー家は傍目から見ると日の打ちどころのない理想的の家族。がしかし、それぞれに人に言えない裏の顔があったのだ。専業主婦のメリージェーンは鎮痛剤依存症、弁護士の夫ステーブは家族を省みないワーカホリック、夫婦中も冷め切っている。養女に迎えた15歳の黒人でバイセクシャルの少女フランキーは白人社会の中で自分の居場所を探している。そして息子ニックは見事ハーバード大学への入学が決まったものの、友人のパーティーで厄介な事件に巻き込まれ・・・。

 

 

『ジャグド・リトル・ピル』は、ABBAの「マンマ・ミーヤ!」の成功に学び、脚本家、演出家、音楽アレンジャーに世界的な数々のアワードを受賞した超一流のクリエイターを起用。舞台芸術としての質は高い。しかし脚本においては人種差別、麻薬中毒、性的マイノリティ、レイプなど盛り沢山というより詰め込みすぎで、強烈な印象が残る場面が少ないのだ。正直言うと、あの辛口のニューヨークタイムズ紙が絶賛したことやトニー賞では最優秀脚本賞を獲得したことが不思議でならない。

 

 

本作の見所はやはりアラニス・モリセットの楽曲。名曲のオンパレードの中で、私の目を釘付けにしたのは新進女優ローレン・パテンが歌うアラニスの代表曲「ユー・オウタ・ノウ」。レズビアンの恋人である黒人の女の子フランキーとの別れを感情込めて歌いあげる彼女のエネルギッシュなステージングは圧巻。毎回拍手が鳴り止まずショーストップになるほど最高に盛り上がる瞬間だ!トニー賞で助演女優賞を獲得したのも納得。ブロードウェイにまた新たなスターが生まれた予感だ。

 

 

クリスマス、お正月のホリディーシーズンも直ぐそこ。今後、悲劇のプリンセス、ダイアナ妃のミュージカル「DIANA」やマイケル・ジャクソンの半生を描いた「MJ THE MUSICAL」など話題作も目白押し。海外からのお客様がまだ少ない今だからこそ、ブロードウェイ城下町に住む我々がミュージカルを応援したいですよね!最後にコロナ禍のため、劇場に入る際はワクチン接種証明と身分証明書の提示が求められ、劇場内ではマスク着用をかなり厳しく義務化されているのでお気をつけ下さい。 それでは、皆様、劇場のロビーにてお会いしましょう♪