再演ミュージカル「ウエストサイド物語」 | トシ・カプチーノ。 オフィシャルブログ Powered by Ameba

再演ミュージカル「ウエストサイド物語」

今年3月初旬に描いた原稿です。

リリース時にブロードウェイが閉鎖されたため、ボツとなりました。

 

日々刻々と世界的規模で広がりを見せはじめている新型肺炎、まだまだ予断は許しませんが、なんとか一刻も早く終息して欲しいですね。そんな中、春恒例のブロードウェイに新作シーズン到来。  Show Must Go Onなのです!  そして近年益々活況を呈している劇場街から次々と開幕する話題作の数々。特に今回気になるのは半世紀以上も前に初演(1957年)された大ヒット作「ウエストサイド物語」です。ブロードウェイの金字塔となった本作は、過去に4回再演されたのですが、評価は低く全て短命に終わっています。柳の下にはドジョウどころかメダカも居なかったのですね。でも実はそれは致し方ないというのが正直なところ。と言うのはオリジナルのクリエイターが凄すぎた。作曲家レナード・バーンスタイン、作詞家スティーヴン・ソンドハイム、振付ジェローム・ロビンスと、言ってみればブロードウェイ史上最強のタッグ。その結果、ウエストサイド物語は劇場を広く飛び越えて、ポップカルチャーそのものを塗り変えるような文化的一大事だったのです。そんなスーパーデラックスな方々が制作された傑作を安易に作り変えて新しい息吹を取り入れようなどと考えるだに、愚かで無謀な酔狂の誹りを免れません。豆鉄砲でお月様を狙い撃ちするようなもの。今回、5回目の再演があると知った時、私は正直、何が悲しゅうて、茶箪笥の奥から湿気った麻布十番のたぬき煎餅みたいな作品を引っ張り出してきて電子レンジで”チン”するのだろうと理解に苦しんだのですが、すぐに謎が解けました。演出家に抜擢されたのは、今、世界で最も注目を集める知る人ぞ知るイヴォ・ヴァン・ホーヴェだったからなのです。

ここでイヴォ・ヴァン・ホーヴェがどんな人物なのかおさらいをしておきますと、これまで彼は シェクスピア、ユージン・オニール、アーサー・ミラーなどなど古今東西の巨匠達の名作を大胆不敵、果敢に斬新な今様の演出で作り変え続けてきた舞台芸術界の時の人。 この「ウエストサイド物語」でもやってくれました。舞台の背後に巨大な映像スクリーンを設営し、その下の舞台上に小部屋のようなスペースを2つ作り、そこで演技する役者を撮影、スクリーンに映し出し、生の芝居と映像を観客に同時に見せると言う手法です。この挑戦に敬意は評するのだけど、演劇というよりまるで映画実写版。俳優さん達のドアップが観られて、良い事のようだけど、実は集中出来ない! やはり舞台の良さは生身の役者さん達のツバの飛ぶような熱演を目の当たりにしてナンボなのですよ。 

そもそも「ウエストサイド物語」って何ぞや?という平成生まれのお若い皆々様のために作品の紹介を少し。シェークスピア悲劇「ロミオ&ジュリエット」の現代ミュージカル化というと擬古趣味演劇かと思いきや、戦後の米国のマンハッタンの下町を舞台に人種対立や貧困を歌と激しいダンスで表現した物語なのです。見所は音楽(代表曲「トゥナイト」)、レナード・バーンスタインはクラシック畑に留まらず、ブロードウェイでも多彩を発揮した音楽の巨匠です。そして音楽と同様に注目されたのはジェローム・ロビンスの振付。映画版で世界的に有名な冒頭のダンスシーンで、両手を広げ、片足を高く上げた躍動感ある動きは、あまりにも知られた傑作シーンです。ちょっと前ならマイケル・ジャクソンのゾンビ群舞、またはビヨンセのCrazy in Loveの尻振りダンスくらい当時は衝撃的なダンスムーブだったんですよ。しかし、そんな私ごときアラ還のおっさん垂涎のジェローム・ロビンス様のオリジナルの振付は全てカット。涙がちょちょ切れましたヨ。じゃあ代わりの、その新しい振付がどーかと言うとセクシーさや胸をすく躍動感もない、ギッコンバッタンまるで減量エクササイズ。見所の抗争シーンのダンスも全く迫力なく「ウエストサイド物語」というよりはユニクロのCMレベルなのです。

清水の舞台から飛び降りるほどであろう覚悟で臨んだ5回目の再演(多分)。初演からのお年寄りのファンにそっぽを向かれようが、NYタイムズ紙に酷評されようが、 劇場は連日満員御礼状態。 オリジナルを知らない世代には、それなりにかっこいいミュージカルとして映ったのでしょう。というのも残念ながら、今のブロードウェイは、プロの評価より、ショーのブランド力やインスタばえが重要だからでしょうね。