ブロードウェイ・レビュー『ザ・シェール・ショウ』 | トシ・カプチーノ。 オフィシャルブログ Powered by Ameba

ブロードウェイ・レビュー『ザ・シェール・ショウ』

 

”花の色は移りにけりないたずらに・・・”と1000年以上前に絶世の美女とされた小野小町が詠み、拙 「夜のチョットスタジオ」キャバレー・ショー的に言えば、昭和の実力派歌手高橋真梨子さんは「キーレイーとイーワレール時は短すぎてー♪」で一世を風靡した。事ほど左様に儚く移ろいやすい若さと美しさ。そんな詠嘆など物ともせず、半世紀以上、米国のエンタメ界に君臨し、全身整形を臆せず公表し、近年ますます若く(パッツンパッツンに)年齢や性別までも超越した人工美を見せつけているシェール。他にも幼年時代の貧困と家庭の不和、 数々の泥沼離婚など、「事実は小説より奇なり」にステロイドとボトックス注入したようなドラマチックな彼女の人生がミュージカルになると知り、さぞや芳しく、なんかこースカッと元気づけてくれるような作品になるのではと期待してしまう。

 

そんなシェール嬢は御年72歳。現在も第一線で活躍し、昨年は映画『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』にも特別出演し変わらぬ美しさが話題になった。

 

以前から、この連載で度々お伝えしているが、往年のヒット曲を紡いで蘇生させるという手法のジュークボックス系ミュージカルの先駆者は、何と言ってもスウェーデンが生んだ男女4組のスーパースターABBAの「マンマ・ミーア!」。これが大ヒットしちゃったものだから、二匹目のドジョウを狙って出るわ出るわ。しかし、その数の割に興行が成功したケースは、フランキー・ヴァリフォーシーズンズの「ジャージー・ボーイズ」と、現在も上演中の伝説のソングライター、キャロル・キングの「ビューティフル」くらいと僅か。はい、激戦区です。果たして「ザ・シェール・ショー」が、ジンクスを打ち破り、どこまで健闘できるのか。

 

物語の舞台はロサンゼルス。高校を中退し芸能界を目指ていたシェールは、幸運にも歌手ソニー・ボノに才能を見出され、彼との結婚後、”ソニー&シェール”というディオを結成。デビュー曲「I Got You Babe」が、いきなり全米NO.1に輝き、次々とヒットを連発。TVの冠番組までも持つまでの人気者となるが、ソニーと離婚後のソロ活動はうまく行かない。

 

3人の女優によって演じられるシェール。ピチピチの10代、迷走した30代、そして大成功を収めた熟年時代を、その年代の女優が演じる。それにより主人公が、よりリアルになるのはいいが、有り体に言ってしまうと、唯一、熟年役のシェールだけがドンピシャ。声質、歌の上手さ、ルックスと、本人が降臨したかと感違いしてしまう。また、熟年時代のシェールの出番が多い分、若い頃のシェール役の存在が薄く、何の為のトルプル・キャストだったのか!

 

衣装デザインは、ニューヨークの人気デザイナー、ボブ・マッキー。シェールの専属デザイナーの他にもベッド・ミドラー、ダイアナ・ロス、ライザ・ミネリなどのディーバ系大御所のデザインも担当。彼のドレスの特徴は面積が少なくセクシーで煌びやかであること。私も一度、デザインをお願いしたい!  

 

音楽は、爆発的なヒットとなり日本でもカバーされた「ビリーヴ」などヒット曲の嵐。記憶に鮮明に残る曲ばかりなので、人種性別年齢を問わず、観客はノリノリ。特に団塊の世代のゲイっぽいおじ様方は、椅子の上に乗り、踊りだしそうな勢いがあちこちに見えたほどだ。  

 

ミュージカルとして素晴らしい素材なのに、脚本はウキペディアにあるような杓子定規的に事実だけを羅列しただけ。シェールの影の部分、例えば美容整形。ボトックス・ヒアルロン酸注入しまくりなどの整形告白や、成功するダイエット法の伝授。性同一性障害の息子との葛藤。また、女性シンガーとして、マドンナやレディ・ガ・ガへの妬み嫉みなどなど、多くの女性やLGBTが、より興味をそそられるゴシップネタは含まれず。一番芳醇なスキャンダラスな部分は何気に軽めにスルーしてしまったのは、やはりシェール自身がプロデューサーとして名を連ねているだけあって、いらぬ忖度が働いてしまったのではないかと勘ぐってしまう。 この不老不死の化身のようなシェールのミュージカルに期待していたのだけれど、どこをどう間違ったのか、極上の神戸ビーフを最悪の調理で台無しにしてしまったみたい、と断罪せざるを得ない。