第72回トニー賞予想(長文) | トシ・カプチーノ。 オフィシャルブログ Powered by Ameba

第72回トニー賞予想(長文)

 

僭越ながら、私の野望は いつの日かトニー賞を受賞すること。なんと突拍子も無い妄言かとお思いになるかもしれないが、これまで紛いなりにも色々あーしたい、こーしたいと夢見てきたことが、ほとんど叶ってしまっている。どんな奇天烈な夢だって、具体的に作戦を練って走り続けれっば、なんとかなるものだ。実はトニー賞を目標に制作したのが自作自演自伝ミュージカル「大器超晩成」。2016年、NYのオフオフで開幕したその作品は、今年1月、念願叶って東京で大々的に上演されるまでに至った。トニー賞受賞の暁には地元紙”週刊NY生活”の一面トップを飾り、某国営放送の人気番組「仕事の流儀」など、日米のTVにも引っ張りだこだろう。おーほほほ!

 

そもそもそのトニー賞とは一体なんぞや!?映画界のアカデミー賞、音楽界のグラミー賞とならんで、全米の耳目を集める、NYの舞台芸術の祭典だ。1500万円が与えられる松宮殿下記念世界文化賞とは違い、受賞者に贈られるのはトロフィーのみ。だが、ひとたびトニー賞を受賞すれば、世界中から公演のオファーが舞い込むことはもちろんの事、ハリウッドの映画化の話も全く持って夢じゃない演劇界最高の栄誉なのだ。 

 

さて、今年で72回目を迎えるこの賞で、栄光を掴むのは誰なのか?ここからはおちゃらけ抜き、真剣勝負のダンディーな私が大胆予想しよう。まずは、トニー賞最大の花形、最優秀ミュージカル作品賞。例年に比べてぶっちぎりな本命がなく、何が受賞してもおかしくない抜きつ抜かれつ、走れコータロー状態なのだ。

 

候補作は4作品。「FROZEN」(邦題:アナと雪の女王)は言わずと知れた人気アニメ映画の舞台化。映画版の主題歌「Let It Go〜ありのままで〜」は日本の老若男女にまで浸透したほど爆発的なヒットを記録したが、その出来は可もなく不可もなく。12部門ノミネートの「ミーン・ガールズ」と「スポンジ・ボブ / スクエアパンツ」の知名度は共に抜群。「スポンジ・ボブ / スクエアパンツ」は、TV放映されている国民的人気アニメの舞台化。着ぐるみ、被り物一切無しで勝負した創作力も、衣装と舞台装置のコンビネーションも素晴らしいのだが、今ひとつ決定打に欠ける。「ミーン・ガールズ」はリンジー・ ローハン主演の学園コメディ映画の舞台化。連日大入り満員だが、電子レンジでチンした料理(脚本)をキレイな器にのせて、飾り付け(楽曲とダンス)したような舞台版に目新しさはない。そして、「The Band’s Visit」(邦題:迷子の警察音楽隊)はカンヌ映画祭の審査員たちが一目惚れした映画の舞台化。脚本、音楽ともに地味だが、今シーズンの大穴か。ズバリ、今年のミュージカル作品賞は「The Band’s Visit」。豪華絢爛な舞台装置も、煌びやかな衣装もない地味なミュージカルながら、人の血の温もりさえも感じるところが決めてだ! 

 

リバイバル・ミュージカル賞の候補作は3作品。「Once On The Island」は、仏領、アンティル諸島を舞台に、嵐の中、少女を慰めるために語られるおとぎ話だ。主役ティ・ムーンを演じるハイレイ・キルゴアが光る。「マイ・フェア・レディ」は、オードリー・ヘップバーン蘇るミュージカルの最高傑作。観劇後、豪奢な余韻には浸れる。「回転木馬」はロジャーズ&ハマースタインの代表作の一つ。第二次世界大戦直後の初演とは思えないほど、楽曲とダンスが優雅だ。ズバリ、今年のリバイバル作品賞は「回転木馬」。役者の層が厚い!特に助演俳優のリンゼイ・メンデスとアレクサンダー・ジェミニャニの二人が主役を凌駕するほどの存在感。また、衣装も誂えたというより登場人物の私物のように見えてしまうほど秀逸な作品に仕上がっている。

 

今年はストレート・プレイ部門が見逃せない。「エンジェルス・イン・アメリカ」や「ハリー・ポッター」などの英国産の芝居の圧倒的な強さと、それらを演じる豪華な役者陣、アンドリュー・ガーフィールド、ネイサン・レインの大熱演で、ミュージカル部門以上の盛り上がりを見せている。 

 

授賞式は6月10日、午後8時から、NYで一番赤絨毯が似合うラジオ・シティ・ミュージックホールで行われる。その模様は米国三大ネットワークCBSで全米に生中継。 大リーグの大谷選手や、いきなりステーキの新規開店ネタもいいが、ぜひぜひ、いいとこどり、プレビュー満載のトニー賞をきっかけにして、ブロードウェイ通勤圏内のあなたに素晴らしい舞台芸術の世界に親しんでいただきたい。