ミュージカル「FUN HOME  ある家族の悲喜劇 」 | トシ・カプチーノ。 オフィシャルブログ Powered by Ameba

ミュージカル「FUN HOME  ある家族の悲喜劇 」

 

 

 

拙自伝ミュージカル上演のため

滞在していた日本では、

丁度、「サザエさん」のスポンサー交代が

ニュースになっていました。   

 

 

言わずと知れた

「サザエさん」は国民的長寿番組。

 

 

ごくありふれた家族的アニメですが、

孤食、夫婦別姓、引きこもり、DVなどが

ニュースになるご時世となっては、

まるで時代劇。   

このように日本でも時代と共に

変容してしまった家族のあり方。

 

 

「FUN HOME  ある家族の悲喜劇 」は、

日向のサザエさんとは真逆の方向から

「普通のありふれた」

家族の影の部分をえぐり出し、

普遍的な家族と言うテーマに

挑んだ野心作なんです! 

 

 

 

 

 

 

私がNYで初観劇したのは2013年。

今でもプレイビルとチケットは

大切に保管しています。

心にズシリと来た作品のプログラムは捨てられません!

 

 

 

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そもそも『FUN HOME」って、

どんなミュージカルなのでしょう?

 

 

粗筋は、

ゲイであることを隠し続けた父と

レズビアンとして性に目覚めた娘を

核に描く家族の物語。

 

 

って言うと

何か珍奇で深刻で重い話のようだけど、

表面上はペンシルバニアと言う

ごく平均的な米国の地方都市に住む、

一女二男を持つありふれた家族の悲喜交々を

ちょっとブラックで

エッジの効いた笑いを散りばめた

素肌感覚の現代劇なのです。 

 

 

 

 

◎原作者

 

俗に言う、

四コマ漫画のような

「Dykes to Watch Out For」で

知られたレズビアン・ライターで

グラフィック小説の自伝として

2006年『ファン・ホーム』も

出版したアリソン・ベクダル。

 

 

日本では、

2011年

「ファン・ホーム〜ある家族の悲喜劇〜」

というタイトルで出版されています。

 

 

 

◎ミュージカル化された経緯

 

2006年に

出版された『ファン・ホーム』は、

NYタイムズの

ベストセラーリストにも選出され

25万部を売るヒットに。

米国の多くの大学が

大量の読書課題の中の一冊として

扱っているほどなのです。

 

 

そんな秀作に注目したのが、

脚本家で女優のリサ・コロン、

作曲家、ジニーン・テソーリ、

演出家、サム・ゴールド。

 

 

彼らの目にとりまり、舞台化が進み、

ついには2013年、

ミュージカルの傑作

「ヘアー」、

「コーラスライン」、

「ハミルトン」を

誕生させた

オフの名門、パブリック・シアターで

『FUN HOME」が開幕。

大評判となり、

複数回公演期間も

延長されるほどの話題となり、

2015年4月には、

ブロードウェイ進出を果たしたのでした!

 

 

 

◎ブロードウェイ演劇界の最高峰、トニー賞

 

2015年度のトニー賞ミュージカル作品賞に

ノミネートされたのは4作品・・・

 

「パリのアメリカ人」

(アカデミー賞受賞映画の舞台化)

 

「サムシング・ロットン」

(捧腹絶倒オリジナルコメディ)

 

「ザ・ビジット」

(大女優、チタ・リベラ主演)

 

 そして、『FUN HOME」

 

あくまで私の主観なのですが、

この4作品中、

脚本、音楽、演出など全てに

芸術性が突出していたのは

『FUN HOME」でした。

 

 

しかしながら、

所詮ショー・ビジネス(お商売)。

米国地方都市では、

まだまだ抵抗がある

レズビアンを扱った作品は

興行の部分で弱い。

 

 

つまり

「パリのアメリカ人」が

断然有利のはずだったのですが・・・・

 

 

サプライズ!

トニー賞に輝いたのは、

なんと『FUN HOME」!

これは快挙ですよ!

大金をつぎ込んでの大博打に挑む

トニー賞審査員を見直した瞬間でした。

 

 

『FUN HOME」は、

圧倒的な強さを見せ、

12部門にノミネートされ、

ミュージカル作品賞を含む5部門も受賞する

総ナメしたのですよ、奥様!

 

 

 

◎物語のポイント

 

 

ペンシルベニアの小さな町で

葬儀屋を営む家庭の下に

長女として生まれたアリソン。

現在、漫画家として

生計を立てている彼女は43歳。

ちょうど父ブルースが自殺した年齢となり、

ようやく、父をより理解できる年に達した。

 

 

二人の共通項はゲイであり、

レズビアンである同性愛者であること。

そして、アリソンがレズビアンであることを

カミングアウトした数週間後に、父は自殺。

 

 

父の死から20年以上が経過して、

漫画家となったアリソンが、

まるで”名探偵コナン”のように、

なぜ、父が自殺まで自分を追い込んだのかを

分析しながら、

何が真実だったのか、

その判断を観客にも委ねるていくのです。

 

 

家族というのは、

もっとも身近なようでいて、

ミステリアスな部分を持っています。

特に近親を亡くした家族にとって、

亡き人について、

改めてその人の人生や

人となりを振り返るというのは、

誰しも経験することでもあります。

 

 

 

◎見どころ

 

 

ブロードウェイ版の一番の見所だったのは、

子役達の想像を絶する

大人顔負けの実力と存在感。

これに尽きます!

どうせ、ガキのミュージカルだろ・・

なんて、舐めてかかると

痛い目にあいます!?

 

 

また、主役のアリソンが、

幼少期、大学時代、43歳の現在と、

3人のアリソン役が登場しながら、

エピソードが錯綜していくところも

非常に興味深いのです。

 

 

 

◎音楽

 

 

ミュージカル界両雄の大作曲家と言えば、

 

アンドリュー・ロイド=ウェイバー氏

(オペラ座の怪人)

 

 

スティーヴン・ソンドハイム氏

(スウィーニィ・トッド)。

 

 

本作の作曲家、ジニーン・テソーリは、

間違いなく70年代に

ソンドハイムの音楽に

多大なる影響を受けたことが

手に取るようにわかる

メロディラインを創作しています。

語るように歌い、歌うように語られる

楽曲すべてが濃厚で繊細。

且つ、登場人物の心の襞までも

微妙なさじ加減で

表現しましてまう

天才的な創作能力を持った方なのです。

 

 

また、台詞から歌への流れも自然で、

全曲が、

斬新、キャッチー、オリジナリティ抜群と

3拍子揃った名曲の数々に

心が激しく揺さぶられるだけでなく、

メロディラインが心に深く刻まれ、

観劇翌朝でも鼻歌で

メロディーを口ずさめるほどです。

 

 

もちろん、遊びゴコロも忘れていません。

「愛のレインコート」は、

まさに70年代の米国人気TVドラマ

「パートリッジ・ファミリー」を回想させ、

子どもたちが作った

家業の葬儀屋のCMソング

「おいでよ、ファンホーム」は、

ジャクソン5を彷彿とさせる

ハッピーソングなのです。

 

 

 

◎ミュージカルとしての題材の新しさ

 

 

一昔前まで

「倒錯」とされた性愛の

様々な形が認知され、

それほどタブーではなくなってしまった今、

ブロードウェイでは

LGBT系ミュージカルや、

ゲイが登場する作品が

続々と上演されています。

 

 

とはいえ、

あくまでゲイである個人の生き様を

描いている作品がほとんどで、

それに絡む

家族を描いた作品ではありません。

 

 

その部分で、

「FUN HOME〜ある家族の悲喜劇〜」は、

ゲイである父とレズビアンの娘を物語という

下手をすると

異様な三面記事的題材を核としながらも、

実は普遍的な家族の愛と 絆を

どっしりと描くという力技を

見せつけていて、

んん十年も

ブロードウェイの舞台を

見続けてきた私でも

隔世の感を禁じ得ません。

 

 

また、レズビアンという

異性社会から外れた位置なのだけど、

同性愛というものが

どういうものなのか

家族の問題や父と娘の関係、

性的欲望とは一体何かについても描く、

実に奥深い万華鏡のように

様々な位相をきらめかせる

新しいタイプの

ミュージカルであると言えます。

 

 

◎最後にトシカプチーノの一言

 

 

ミュージカルとはいえ、

ストレートプレイ色の強い

「FUN HOME〜ある家族の悲喜劇〜」。

 

 

実は、2月7日から、

シアタークリエで日本初演されるんです!

http://www.tohostage.com/funhome/

 

 

豪華な舞台装置の上で、

美男美女がキラキラした衣装に

身を包み歌い上げ、踊りまくる

「ウイキッド」や「アラジン」などの

ミュージカルを観劇するノリではないので、

しっかりそれを肝に銘じてご鑑賞下さい。

 

 

でも観劇後、

きっとミュージカルの新しい世界観に

大満足されるでしょう。

 

 

ミュージカルって、ブロードウェイって、

 

楽しいだけでなく、

 

本当に役に立つ、

 

人生訓がギュッと詰まった、

 

素晴らしいもんなんですよね!