『ジーザス・クライスト=スーパースター』 | トシ・カプチーノ。 オフィシャルブログ Powered by Ameba

『ジーザス・クライスト=スーパースター』

ブロードウェイで最長ロングラン記録を更新している長寿ミュージカルといえば『オペラ座の怪人』。作曲家は言わずと知れたアンドリュー・ロイド=ウェバー卿。数あるヒット作の中で私のお気に入りは、近々待望の日本版が上演される『サンセット大通り』。ノーマ役は美輪明宏…じゃなく、安蘭けい。相手役には、私が今、背中を流してあげたい男ナンバーワンの田代万里生くん。

さて、話をロイド=ウェバー卿に戻すね。
このところの彼って、才能が枯れたのか新作の出来はサッパリだけど、70~80年代にはミュージカル史に残る大作を次々世に送り出した。その中で、彼を一躍時の人にしたロック・オペラ『ジーザス・クライスト=スーパースター』(71年)と、ポップ・オペラの新境地を開拓した『エビータ』(78年)。その2作品が、偶然にも現在ブロードウェイで再演されている。

『エビータ』次回にまわすとして、まず『ジーザス・クライスト=スーパースター』(以下、JCS)。
『JCS』が誕生するきっかけとなったのは、まだ無名だったロイド=ウェバーと作詞家ティム・ライスが共同制作した、同名のコンセプト・アルバム。それが空前の大ヒットを記録したことから、コンサートツアーが実現し、全米で大きな話題に。ついには舞台化され、71年、ブロードウェイへと進出した。今回の再演版は、カナダの演劇祭「ストラトフォード・シェイクスピア・フェスティバル」での公演が批評家たちに大絶賛され、ブロードウェイ進出を果たした。

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新約聖書をもとに、ジーザス=クライスト(イエス・キリスト)の最期の7日間を描く『JCS』。古代ローマ時代の地球に送り込まれた神の息子ジーザスは、独裁者の支配下で貧困に苦しむ民衆を救うため、エルサレムへ赴き教えを説いていた。彼の教えに民衆は歓喜し、「彼こそが神の子」とたたえるが、ユダヤ教の救世主カヤパはそれに激怒。ジーザスを抹殺するべく、彼の弟子ユダに近づき、居場所を見つけようとする。ちょうど、自分より元娼婦のマリアを気にかけるジーザスに嫉妬していたユダは、悩んだ末、金と引き換えに彼の居場所をカヤパに密告。そしてジーザスは、カヤパが操るローマ帝国のピラトによって捕らえられてしまう。ユダは、自分の行いを悔やみ自殺。ジーザスも十字架にかかり…。

カナダ公演のオリジナル・キャストでほぼ構成されたNY公演。ジーザスに扮したのは、ブロードウェイ初挑戦のポール・ノーラン。カリスマ性に満ち威厳のある主人公を、それなりに歌い演じているのだけど…存在感は薄いし、オーラもない。英国の名優マーク・ライランスのようなアクの強さが欲しかったわね。

演出を手掛けたのは、『ジャージー・ボーイズ』のデス・マカナフ。メタリックな舞台装置やスタイリッシュな衣裳など、まさにロック・コンサートといった感じのステージ。せりふのない複雑な物語を分かりやすく伝えながら、スピーディーな場面展開を見せる演出は、彼だからこそなせる業。それに、観客にこびを売る作品が多い昨今のブロードウェイで、迎合しない彼の強い信念にも敬服するわ。だけど、“見かけ”ばっかり。演じる側と観る側が一体になれない一方的な演出だから、作品の魂がまったく伝わってこないの。本作を観て喜ぶのは、ロイド=ウェバー卿の名曲の数々にノスタルジーを感じる団塊の世代くらいじゃないの!?私にとって『JCS』は、まさに“おお、ジーザスぅ神よぉぉ”だったわぁ。