セールスマンの死 | トシ・カプチーノ。 オフィシャルブログ Powered by Ameba

セールスマンの死

のっけから閉塞感漂う話題だけど、中高年の再就職ってめちゃめちゃ厳しいらしいねぇ。おととしNYから帰国した私と同い年の女友達なんて履歴書を何通送ってもダメ、ハローワークもダメ。彼女曰く年齢で弾かれるらしく、もう一年以上も失業中。先週、やっとの思いでゲットした仕事は催事のパート。3日間だけのレジ係なんだとさ。NY在住のカマ友も状況は同じ。昨年9月、20年以上務めた会社からレイオフされ、今月、失業保険が切れる彼は、必至に仕事を探しているけれど、「年齢差別が禁じられているNYでも中高年を雇ってくれる奇特な会社なんてほぼ皆無なんだ」と嘆いているわ。世はまさに大失業時代。そんな時代を見据えたかのように、ブロードウェイではストレートプレイ「セールスマンの死」が上演されてるし・・なんとタイムリーなことか!

「セールスマンの死」の原作は、社会でうごめく一般人の心の叫びを描かせたら天下一品といわれた戯曲家アーサー・ミラー(1915—2005年)。NY生まれブルックリン育ちの米国を代表する作家のひとりで、マリリン・モンローとの劇的な結婚などでも注目を浴びた人よね。そんな彼の名声を不動のものにしたのが、この「セールスマンの死」。高度成長の米社会でアメリカン・ドリームに破れ、自滅して行く年老いたセールスマンの一日を描く本作は、1949年にブロードウェイ初演。絶賛されトニー賞とピュリッツァー賞を受賞。それ以後、全世界で上演され、ブロードウェイでは今回が4回目の再演となるわけよ。

1948年のブロックリン、ニューヨーク。ローマン一家は庭付き一戸建てに住んでいる。父のウィリーの職業はセールスマン。地方を車で回り、物品販売をしている。饒舌で押しが強い彼の販売成績はトップクラス。週170ドル位のコミッションを稼いでいた。ウィリーには自慢の息子が二人。長男ビフは高校時代にフットボールの花形選手として名を知らしめ、将来有望な逸材として期待されていた。がしかし高校を落第。その以後、何をしてもうだつの上がらず、今は実家に戻って来ている。弟ハッピーは会社務めはしているものの、無類の女好きでエゴイスト。自立出来ない二人の息子を抱え、歳をくって行くウィリーの稼ぎも年を食うごとに、徐々に悪化。しまいには会社を解雇されてしまう。蓄えもなく失業したウィリーは首になったことを家族に言えず、友人に借金して会社務めしているふりをするのだが・・・。

演出を手掛けたのは、映画・演劇界の巨匠マイク・ニコルズ(「スパマロット」05年)。本作で彼は60年前の初演時にジョー・ミールツィナー(1901—76)がデザインした舞台装置と、アレックス・ノース(1910—91)が作曲した音楽をそのまま再現。初演を観た人の中には、「ただ単にノスタルジックな気分に浸れただけ」とバッサリ言う人もかも・・?でも初演を知らない私にしたら、シンプルなセットと、シーンを引き立てる控えめな音楽は、役者(役柄)をより身近い感じさせる最高の演出だったわね。

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同作はなんといってもアーサー・ミラーの代表作だもの、役者たちの意気込みも半端じゃなかったはず。でもね、全員がテクニック先行型。オスカー俳優フィリップ・F・ホフマン(「夜への長い航路」03年)扮したウィラーの若かりし頃の演技に傲慢な自信家は見えなかったし、初老時に絶望感を漂わせた微妙な陰影もなかったと思うの。長男ビフを演じたアンドリュー・ガーフィールド(7月公開映画「アメイジング・スパイダーマン」主演)も同様。一見感情込めて演じているように見えるのだけど心に響いて来ないのよ。とにもかくにも、アーサー・ミラーのこの脚本は借金地獄に喘いでいる私にはキツ過ぎ。翌日、寝込んだわよ私。神様仏様、どうかウィリーの二の舞になりませんようにアーメン・・・なお、上演は6月2日までの予定。

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