山下敦弘、松江哲明監督。2017年のドラマ。
映画を作ることを映像にしたドラマだが、日本の映画の状況について、映画を作ることについて、演じることについて考えさせれる。
以下、2話、7話で話されている内容のメモ。
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第2話
日本映画大学校の学部長・天願大介。映画監督で脚本家。パルム・ドール作品『うなぎ』の脚本も手掛ける。
(山下、カンヌに行くコツと言うか…)
天願:一般論として言うとね、ハリウッドが嫌いなんですよ、カンヌの人たちは。もう、憎悪してるんですよね。だから不親切につくることですよ。説明したり、お客さんにサービスしない。(山下、お客に向けてつくるって言うより、批評家に向けてつくる?)
批評家に向けてつくるって言うより、作家の中にある整理されてないものが出てこないと。それをお客さんに向けて整理しちゃうとエンターテインメントじゃないですか。もうちょっと原型のまま出すみたいな。
直接的なメッセージみたいなものを入れたほうがいいかもしれないですね。
(山下、それは一言で語れるようなシンプルなものということですか?)
いやそうじゃなくて、例えばキャメラ目線で彼女(芦田愛菜)が女性差別についてしゃべる、3分間しゃべる。そうするともうOK。嘘でもいいから、そういう現実の酷さを誇張して描くことで、全然お話に関係なくても。
(山下、それは、なるほど。)
ようするにバランスを崩す。結局。
(山下、今の日本映画がコンペにいけなくなったってあるんすか。今の日本映画の傾向というか、状況ってどうですか?)
みんな大喜利が好きなんですよ、日本は。みんなが同じことを知ってて、経験をしてて、同じ価値観を共有しているから小さな価値観(の差が)楽しいってゲームですよね。これって年寄りの、体力がなくなった年寄の遊びなんだと思うんですよ。だからつまり、フィジカルが弱いというかね、日本映画は。だから微細なね、大喜利ゲーム、センス合戦をいくらやっても、国内では評価されるかもしれないけど、外行ったら一撃で倒されてしまう。つまり、同じものを共有してないから、最初から。
(山下、とくに今の日本映画ってそういう感じします?)
というか今の日本映画というか、日本全体。だんだんそういう傾向が強くなってきているように思いますね。
そして業界の中には業界のルールがあって、あなた(山下敦弘監督)も自主映画出身だから分かると思うけど、そんなルール誰が決めたんだよというルールをみんな守るのが無前提に、当たり前だと思ってるでしょ。
(山下、はい)
その中で作っていっても、それはやっぱり外に出ていったときに強いフィジカルを持ったものになかなかならない。つまり体力がつかないと思うんですよね。もっとなんか酷い目にあって作んないと。映画なんだから。そういうことを海外の奴らなんかはわりとやってると思うんですよ。だから対峙したときにやっぱりパンチ力があるんだよね。こっちはポイントを取って逃げようと思っても、そんなもん誰が観たいんだって言うことになるから、結局。だから実際直接ぶつかると負けちゃう。
7話、河瀨直美
河瀨直美の学校が舞台のショートフィルムに山田孝之を出す。
そこで山田が涙を流す。
撮影前の河瀨直美の言葉。
頭の中だけで考えたことってそんなに重要じゃなくて、彼がそこで生きてくれていることっていうのの方が、そしてカメラがその場で回ってる瞬間がリアルでしょ。
形としてなにかきれいに作るというのは、本気嘘つく、本気で何かこの辺が熱くなってくる。それは俳優としてあるでしょ?(と山田孝之と芦田愛菜に)
撮影中、山田は無言で天体観測の部屋の中に座っている。
カットがかかる。山田孝之が泣いていた。そして河瀬と山田の会話。
山田:なんか辛かったですね。すごい楽しかったこととか思い出すんですけど、なんか……辛い、全部
ここで河瀨直美はそっと手招きをして芦田愛菜を呼び寄せ、隣に座らせる。
芦田:どうしたんですか?
山田:(首を傾げ)どうしたんだろうね。(長い沈黙)わからない。
河瀬:自分と演じてる何かっていうのは、何かこう、違うっていうか、混ざっちゃう感じ?
山田:(まだ鼻をすすっている)そうですね…そんな感じでしたね。
河瀬:自分の居場所ってある?今。
山田:それをなんか考えてましたね。たぶんずっと探してるんですよね、小っちゃい時から。それを何かこう思い出して、だから、やっぱりないんだなって思って。
(芦田愛菜も泣いている)
河瀬:私とかってさ、イメージとかってさ、奈良とかさ、映画とかさ、めっちゃ自分持っているみたいに思われてんねんけど、すごい自分の居場所を探し求めてて、根無し草だなと思ってて、自分が。たぶん、山田くんとか芦田さんとかだったら、表現…俳優としてかもわからへんけど、そういうところでこそ生きていて、それ以外のところは実は、あんまり何にもなかったりするのかなとかって。私は人のことはわからへんけど、私は何かそんな感じでね。
自分の人生だけだったら多分、どうにも生きてられなかったかもしれないなっていうところに映画がやってきたので。
だからこそそこにものすごいリアリティ、ものすごい魂入れたくなる、そこにしか入れられないみたいな。
そして河瀬直美が山田孝之の背中をポンポンたたきながら「河瀬組にようこそ」。山田「しんど」。