こんばんは。
とし総子です。
 
私、一か月分の本(主に漫画)を次の月に替わる直前に全て予約注文をしてしまいます。
 
その方が、色々欲しくならない、、、という、
出来てるんだかどうなんだかの節約術なのですが、
 
時々、買う決定をしたことを忘れていて、
届いて「え?これどんな本?」となるものがあります。
 
たとえばはじめて買った作者さんの本、
それも初単行本だったりすると、
開けて出したときにどきっとするくらい、
覚えていないことが、、、
 
この漫画がまさにそうでした。
 
そしてよくぞ買っておいた私!
と先月終わりの頃の私を褒めてやりたくなりました。
 
先ほど読み終えたのですが、
めっちゃいい!!
とひとり身もだえました。
 
それがこちらの
『開花アパートメント』です。
作者は飴石先生。
この作者名も、なんだか素敵です。

 

絵柄に、独特の静けさがあります。

 

カバーを外したら、その美しい様子に見惚れました!

触り心地も上等な気がします。

 

そして表紙を捲った一枚目のこの雰囲気!

 

ここまでで、私はもうちょっと満足してました笑

物凄く作品の雰囲気を感じさせてくれる本の造りだと思うのです。

 

お話は、

明治の頃でしょうか?

 

洒落た造りのアパートメントに一人の男が入居します。

 

このアパートメント、とっても素敵で、上流階級なひとというのか、

やっぱりある程度の給金を貰っている方が住む場所なのかなと思います。

 

調度品も上品、

一階には食堂があり、洋食を頂けます。

同じ階には床屋や車庫、倉庫などいくつか生活に添う商店も入っています。

 

そこに入ったばかりの男は、

食堂でサンドウィッチを食べているところ、

先住人である探偵の男から声を掛けられます。

曰く、このアパートメントの住人は個性的な人が暮らしているので、

ついつい興味を掻き立てられるのだと。

 

探偵は男に職業を聞きます。

男は「翻訳をすこし」

と答え、「文壇に少しいた」ことを語ります。

それを聞いた探偵は、

最近の話題であるとある作家が亡くなった話をはじめます。

 

その作家の代表作であり、

話題作であり、

連載中で、お話は佳境にはいっていた小説【誰が袖】。

それが最後まで書かれなかったことを惜しんでいるのだと。

 

実はこの作品は、その作家のたったひとりの弟子であるこの翻訳家の作品でした。

作家に見せたその作品を、作家は自身の名で出してしまったのでした。

それをけして恨んだわけではなく、

翻訳家は「作品が世に出たのだからいい」と言ったのですが、

どんどんと評判を上げていく作品に、

作家は嫉妬と罪悪に苛まれ、

身体を壊してしまったのでした。

 

そして作家のもとを去るしかなかった男は、

同じ書くことでも翻訳というかたちで生計を立てることにしたのでした。

 

しかし、探偵の助手だという少年の

「書きあがったら読もうと思っていたのです」

「名作が完結しないのは、僕でも悲しい」

という言葉に、

燻ぶっていた物書きとしての責務を押されたのか、

続きを書き、作家の遺構を預かっていたということで出版社に原稿を送り始めたのでした。

 

このアパートメントには他にも、

お互いのパートナーではなく親友を愛してしまっている二組の夫婦、

亡くなった姉を思って夜な夜な階段の大きな鏡にその姿を映して会話をする少女、

あまりにうつくしい声を持っている亡婦など、

抱えたもののある人たちが入居しているのでした。

 

それぞれのうっすらと暗い部分を恐れたり、

悪戯に日に透かして見たり、

そっと小箱にしまうように大切にしていたり、

彼らは静かに、その匂い立つ自身の胸内を普段に紛れ込ませているのでした。

 

狂言回しのような位置にいる探偵のことも、

後々語られるのでしょう。

その助手をしている少年も、

無表情にみえてこころに思っていることは可愛らしいような、素直な言葉を持っていて、

とても惹かれます。

 

翻訳家の自身の書くこととの折り合い方は、

どうなっていくのか。

 

あの少女はどう大人になるのか。

 

どこか薄暗く、そしてその下に存在を感じさせる艶がある漫画です。

 

 

 
 
 

 

読み終えて、

なんとなく思い出したのは中村明日美子先生の『ウツボラ』でした。

えぐみのある美しさ、

ミステリアスな物語でぐいぐい読ませる作品です。

 

 

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