みなさん、こんにちは。

とし総子です。

 

今日紹介する作品は、

岡田索雲先生の「ようきなやつら」です。

 

 

この漫画を最初に書店で目にしたとき、

一度は買うのを躊躇いました。

(正直、お金がないので笑)

 

でも、結局二回目に書店で目にとめたときに

「あ、これは買おう」

と手に取ったのでした。

 

結果、この漫画はものすごく面白かったです。

 

う~ん、面白かった、、、と言っていいのか、迷うけれど、

でもやっぱり総じて“面白い”漫画でした。

 

この漫画は、読み切りで、妖怪を一つのつながりとしています。

 





一話目、

「東京鎌鼬」(とうきょうかまいたち)

とあるイタチと鎌鼬の夫婦のいざこざ。

最後に落としていったものが秀逸。

ああ、夫婦で話し合いが“うまいこと”できたことを願います。

 

 

二話目、

「忍耐サトリくん」(にんたいさとりくん)

高校の教室で、誰とも話すことのない男子生徒がひとり。

放課後、先生は彼に語り掛けます。

「あなたが声を上げてくれたときには、助けになります」

少年は先生の言葉についに自分の秘密を語ります。

「僕は目を合わせた人の心が分かるのです」

それならば自分を使って人と目を合わせる練習をしてみましょうと言うのですが、

先生の心の声は、、、

 

 

三話目、

「川血」(せんけつ)

河童の世界で、ただひとり見た目の違う少年。

彼には甲羅もないし、頭の皿もない。

学校に通うけれど、他の河童のように水を操ることもできない。

不満と不安をため込んでいく少年が、学校の帰り道に見つけたのは自分とよく似た姿のナニカだった。

そのナニカは傷だらけだったけれど、少年を見るとその体を力強く抱きしめ、

分からない言葉で何かを必死に語るのでした。

自分と同じものを感じた少年は、なんとかそのナニカを助けようとするのですが、

“傷薬”を持って戻るとそこには____

 

 

四話目、

「猫欠」(ねこけつ)

様々な猫たちが集まって、“化け猫”になってしまった猫が箱に入って出てこなくなったことを解決しようとあれやこれや話し合っています。

箱の中の化け猫は、手に傷がついています。

それは化け猫になってしまったことにショックを受けたのか、

これからのことに絶望しているのか、

注目を浴びて苦しんでいるのか、

それともそんなこと全く関係ないことを起点に痛みを必要にしているのか。

周りの猫たちは口々に慰めたり、叱咤したり、力づくで箱から出そうとしたり、、、

けれどそのうち飽きてほとんどの猫は去っていきます。

そして最後に残った猫が語り掛ける言葉は。

 

 

五話目、

「峯落」(ほうらく)

山男と山姥の集落で、

その日は頭領を決める前夜祭だった。

三人の候補は、そこでこれから自分が頭領になったらどんな山の発展があるのかという話を語っていく。

三人目の候補である山姥のマサリは、

驚くべきことを語りだした。

「私は、昔、この今の頭領にレイプされた」

そして彼女は頭領に事実を話すことを詰め寄ります。

しかし頭領は「マサリを候補から外せ、あいつを引きずりおろせ!」と怒声をあげるのでした。

 

 

六話目、

「追燈」(ついとう)

小さな男の子が、眠れないといって提灯の頭を持つおじいちゃんのもとにやってきて絵本を読んでくれと言うのだけど、

おじいちゃんはもう目がよく見えないので“昔話”をしてあげようと言います。

おじいちゃんが子供の時のこと、東京大震災がおきました。

なんとか生き残ったのですが、父親の安否を確認しようと父親の住む長屋に向かいます。

そこはもうもぬけの空で、

父親は河原で撃ち殺される寸前でした。

朝鮮人は殺せ。そう言いながら、人々は手に刀や鎌を持って団体で練り歩いていくのです。

子供の頃のおじいちゃんは、その人々になんとか馬鹿な真似をやめさせようとしますが、

一刀のうちに首を切り落ちされてしまいました。

そうして彼の持っていたお化け提灯は彼の命を繋ぐために自らの魂を捨てたのでした。

子どもはおじいちゃんの語るお話を、耳を塞いで耐えるのでした。

 

 

七話目、

「ようきなやつら」

 

これが最終章であり、

あとがきを読むとこれが最初にあって、ここから妖怪を主軸にしての物語が生まれていったそうです。

なので、ここまでに描かれたいくつかの物語から妖怪たちが一同に集まる場面があります。

 

精神科の入院患者には、不思議な人が沢山いる。

武良木さんもその一人で、この病院を出たり入ったりしている。

この精神病院は患者を縛り付けることが治療の妨げになっていると考えていて、

患者の様子を見ながらにはなるけれど外出も可能な病院だ。

今日は朝から気分が良かった武良木さんも、

外出することに。

目的場所は黒い煙が上がる場所。

いっしょに出かけていくのは精神科の入院患者の仲間たち。

そう、かれらは“ようきなやつら”だ。

かれらが向かった先に居たのは、今にも倒れそうな男性だったけれど、

それは一瞬で大きな九尾の狐の姿へと変わるのだった。

 

 

 

 

この漫画、妖怪とか、不思議な世界を舞台に物語は展開するのですが、

語られている物語自体は私たちの世界での大きな問題だったりします。

 

それもけっこう重たい問題の。

(じゃあ、軽い問題ってなに?って思ったのですが、そんなものあるんでしょうか??)

 

私は五話目の「峯落」が一番好きでした。

二番目は一話目の「東京鎌鼬」です。

たぶん自分にとって身近な問題だったことと、

そこからの解決の持っていきかたがとても力強くて、読んでいて励まされたような気がしました。

 

「峯落」では、女性への差別、そしてレイプされた被害者を周りが叩きのめすさまが山姥と山男という世界で語られます。

山姥のマサラは、容姿だけをみればまるで男性のような体躯をしています。

「レイプされた」

という彼女に対して、周りのものは

「そんな顔で、体で、被害者面するな!!」

と声を上げます。

読むのも書くのもしんどくなるような言葉を、そして拳を浴びせます。

そんななかで、マサラは

「自分以外にも被害を受けたものはいる。でも名乗らなくていい。

こんな汚い言葉を浴びることはない」

と言います。

 

本当は、あなただって、そんな言葉を浴びなくてもいいのに。

 

こういう問題が出るたびに、不思議なことだけど顔も見せない誰かたちが一斉に声を上げます。

「そんなことは嘘だ」

「だったらこんなふうに出てこられないはずだ」

「被害者面した売名行為だ」

等々。

正直それをする理由も理解できないし、理解したいとも思えない。

 

傷ついている人がいて、その人に石を投げることの意味が分からない。

 

こんなふうに誰かが傷だらけになりながら道を切り開いていかなくては、

どこへもいけないんだろうか。

そんなことない、と思いたいです。

できるなら、いっしょに石をうけながら、歩きたい。

そんな風に感じる物語でした。

そしてこの物語のラストは、そんなふうに感じるひとは自分だけじゃないと信じられるものでした。

 

 

六話目の「追燈」のなかには、

朝鮮のひとたちをどんなふうに嬲り殺していったのかを

何ページにもわたって、何十もの吹き出しを使って

何十人もの証言(ようなもの)が書かれています。

読みながら、涙が底を尽いてしまうな、と思いました。

こんなの本当じゃない、と思いたいとも思いました。

私が目の前で見たわけではないから、すべてが本当だったとは言えない、とも思い、

でも本当に目の前で見たとしてもこの描写を本当だと思えないな、と思いました。

それくらい酷いことが書かれています。

もう二度と読みたくないし、

こんなことを誰にも書いても欲しくない。

なにより、こんなことがもう誰にも起こらないでほしいと思いながら、

これを読むことがその小さな第一歩になるように祈るように読みました。

そうでも思わないと読みきれなかったかもしれません。

 

 

誰にも、とてもおすすめです!

と言える漫画ではないのですが、

私は読めて、この漫画の存在を知れてよかったと思います。

 

なので、もしこのブログで興味をもってくれた人がいたら、

どうか心が安らかなときに読んでください。

 

 

ここまで読んでくれて、ありがとうございます。

よければ、また次のページでお会いできますように。