正欲
2023年作品/日本/134分
監督 岸喜幸
出演 稲垣吾郎、新垣結衣、磯村優斗
2023年11月29日(日)、新宿ピカデリーのスクリーン5で、9時40分の回を観賞しました。
横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突している。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学のときに転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子はそんな大也を気にしていた(以上、公式サイトからの引用)、という物語です。
浅井リョウさんの原作小説を読んでいました。ダイバーシティ(多様性)という言葉を当たり前のように目にしたり口に出したりする時代になりましたが、存在さえも理解されないような性的スーパーマイノリティとでも呼ぶべき価値観の人たちがカミングアウトし、社会に受け入れられる日がくるのだろうか?と問いかけてくる作品。映画は原作にかなり忠実に描かれていたと思います。
《感想です》
- 真に多様な価値観が受け入れられる世の中になるにはまだ壁は高い
- 自分の常識が揺さぶられるという破壊力やインパクトには欠けるか
- ラストが変わった男女のラブストーリーみたいに着地するのは残念
高校で同級生だった桐生夏月と佐々木佳道は、ほとばしる〝水〟に対して異常なまでの興奮を覚え、他の何を置いても〝水〟により性的な欲求が満たされるということなのですが、あまりにも綺麗に描かすぎていて、その嗜好性が世間から見るといかに受け入れ難いものか、理解できないものかがインパクトをもって伝わってきにくいところが本作の難点なのかと思いました。
LGBTQと言って声をあげられる人たちはまだいい。一言でも声をあげようものなら奇人変人扱いされて、社会からつまはじきにされるのがおちだ、と考えるマイノリティが抱えた問題を描くには、その嗜好性に対して観客が〝嫌悪感を覚える〟ほどに描かなければいけないと思うのですが、たんに〝あなたの価値観は理解できません〟くらいの反応にしかならず、切実さが伝わってきにくかったです。
ドラマのなかで男性に対して恐怖心を持つ女子大生が出てきて、そのことを告白する場面があるのですが、そっちの方がより大きな問題に思えてしまいます。また、ラストに向けて地雷と言うか落とし穴的に登場する児童性愛者のほうが社会にとって危険な存在なのです。そういう中で、どうもここで描かれた〝水〟へ特殊性癖を持つ人たちの話が、全体の中でうまく消化されていない感じを受けます。
ドラマでは、家庭に問題を抱えた検察官が一般的な視点、観客の声を代弁してくれるようになっています。彼は極めて常識的な人間ではあるのですが、故に特殊で、はみ出した人間を認めようとしません。彼の不登校の子供についてもいろいろ理由があると思うのですが、ただ背景が全く描かれていないので、父に分があるように見えてしまいます。その結果、やはり問題を抱えた側の気持ちに深く入り込んでいけないのです。
最終的にはちょっと変わった男女のラブストーリーみたいなところへ着地してしまっているのが残念で、価値観を揺さぶられるような破壊力を感じるところまでは行かなかったように思います。でも、自分の価値観が全てではなく、ましてや押し売りしてはいけないことは理解でき、映像もすごく丁寧に作られています。またキャストの皆さん演技が素晴らしく、最後までじっくり観賞できました。
ダイバーシティという言葉は綺麗ですが、真に多様性が受け入れられる(犯罪は駄目です)社会になるためにはまだまだハードルが高そうです。
トシのオススメ度: 3
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