生きちゃった(iTunes Store) | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

生きちゃった(iTunes Store)


2020年作品/日本/91分

監督 石井裕也

出演 仲野太賀、大島優子、若葉竜也


2021年6月5日(土)の夜、自宅にて鑑賞しました、


高校時代から仲のよい幼なじみの山田厚久と山田奈津美、そして武田。厚久と奈津美は結婚し、5歳になる娘がいる。なにげない日常を送っていたある日、厚久が奈津美の浮気を知ってしまう。突然のことに、厚久は奈津美に怒ることもできず、悲しむこともできずにいた。感情に蓋をすることしかできない厚久、そして奈津美、武田の3人の関係はこの日を境に次第にゆがんでいく(以上、映画.comより引用)、という物語です。


条件付きで再開した東京は渋谷のなんとも足を運びにくい場所にあるユーロスペースという映画館で、石井裕也監督の新作「茜色に焼かれる」を観てきたのですが、見逃していた同監督の前作「生きちゃった」をレンタルで観たので、発表順にこちらから感想を書くことにします。この2作はセットで観るのが実はいいような気がしました。どちらも、〝気持ちを吐き出さない人〟を主人公にしているという点で共通していました。



《感想です》


海外での公開が決まっている本作には、〝All the Things We Never Said(私たちが決して言わないすべてのこと)〟という英語タイトルがありまして、こちらの方がわかりやすいですね。高校生の頃からの親友でギターでユニットを組んでいた山田厚久と武田、そしてふたりといつも一緒にいる奈津美。この3人を中心にドラマが進んでいくわけですが、卒業して厚久と奈津美は結婚をし、二人の間には鈴という幼稚園児がいます。


さて、この3人はお互いにオープンにしていない〝何か〟を抱えこんでいて、それによって常に関係が緊張状態にあります。厚久は奈津美との結婚にあたり幸子という女性との縁談を断ったという事実があるのですが、その理由は曖昧で今も幸子との間に何かがありそう。奈津美はそんな厚久と結婚してから5年の間、ずっと不満を抱えており既に愛情を感じていない様子。武田は口に出さないけど厚久に特別な感情を持っている感じが。


そういうなかで厚久が自宅での奈津美の浮気現場を偶然見てしまいたす。結局、二人は別れることになり、奈津美は浮気相手と暮らし、鈴の面倒をみることを申し出ます(大島優子さん、好演!)。しかしこの男が実はとんでもないゴロツキで、という展開。奈津美の生活はどんどん苦しくなり、風俗の仕事をすることに。そういう奈津美を観ても、自分の本当の気持ちをうまく伝えることのできない厚久。そんな時、大きな事件が起きるのです。


伝えなければだめだとは分かっているけど、いろんな事情があって難しいことってありますよね。先を読みすぎて臆病になることも。でも、それだとやはり上手くいかないことが多いです。厚久が幸子と交わした話を奈津美に打ち明けなかったのはなぜか。奈津美は厚久との関係に不満を持っていることを早く打ち明けなかったのはなせが。そこのところが肝だと思うのですが、映画ではそこは観客の想像に委ねられています。


厚久は最初から感情を表現することに関して精神的な面での障害を抱えていたのでしょうか。歌に託して気持ちを伝えることはできるようではあります。奈津美に〝壊れている〟とあからさまに言われる自分の家族における問題も含めて、彼の心の中に澱んでいる閉塞感を、石井裕也監督は綴っていきます。そんな厚久が手でキツネの影絵を作り、娘の鈴とコミュニケーションする場面が映画的な見せ場として秀逸でした。


結果としては想像も出来ない最悪の状況になりながらも、ラストのラストで厚久は武田の献身的という以上に激しい愛を感じさせる激励を受けて、ある行動に出ます。ここはぜひ映画をご覧いただきたいのですが、仲野太賀さんと若葉竜也さんが、渾身の演技を見せてくれます。何も言わずにいても生きることはできますが、受動的な〝生きちゃった〟ではなく、自分の意思を伝え主体的に〝生きぬく〟ことへの転換。そこが本作の見どころかと。


実は、「生きちゃった」に続いて石井監督のオリジナル脚本になる「茜色に焼かれる」では、似たようなドラマのなかで今度は自分の意思をとことん貫こうとした女性の生き方が2時間半かけて描かれています。これが、凄い映画でした!




トシのオススメ度: 4

5 必見です!!
4 お薦めです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つでした
1 私はお薦めしません


生きちゃった、の詳細はこちら: 映画.com


この項、終わり。