引き裂かれたカーテン(DVD): ヒッチコック34 | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

引き裂かれたカーテン(DVD)

1966年/作品/アメリカ/128分
監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 ポール・ニューマン、ジュリー・アンドリュース

5月3日(日)の朝、自宅にて鑑賞しました。

 物理学者マイケルは、恋人のセーラとデンマークの国際会議に赴くふりをして、東ドイツへ亡命。しかし、その真相は、東側の軍事機密を探る逆スパイとしての任務を果たすためであった(以上、amazonの商品情報からの抜粋)、という物語です。

前作「マーニー」で、英国諜報員ジェームズ・ボンド役で人気だったショーン・コネリーを使ったヒッチコックですが、この「引き裂かれたカーテン」は、そういうなかで作られた割とリアルなスパイ映画。当時は冷戦の象徴としてヨーロッパの東西両陣営の緊張状態をチャーチルが〝鉄のカーテン〟と呼んだのですが、東側に潜入した主人公が西陣営に無事に逃げ遂せるかというサスペンスで、見せ場の多い作品になっています。

P.ニューマンとJ.アンドリュースという配役の妙

まず、のっけからアメリカからコペンハーゲンへ移動中の船室で、ポール・ニューマンとジュリー・アンドリュースが演じる物理学者マイケルと秘書のセーラがベッドのなかで〝イチャイチャ〟しているシーンから始まります。ふたりは婚約中なのですが、なんでも船内のエアコンが故障して凍えそうだということで、温め合っているようなのです。このふたりの俳優の組み合わせが、ヒッチコック作品中、異色ですよね。

当時、ポール・ニューマンは、〝メソッド演技法〟で有名なニューヨークのアクターズスタジオ出身の新進気鋭俳優として「熱いトタン屋根のネコ(58)」「ハスラー(61)」で活躍中でしたが、スターというよりは若手演技派として注目されていたのだと思います。ヒッチコックは俳優には演技は求めない監督なので、このキャスティングは、作品の性質=リアルなスパイ物を追求するという観点から重要だったのでしょう。

そしてその相手役には「メリー・ポピンズ(64)」「サウンド・オブ・ミュージック(65)」で人気最高潮のジュリー・アンドリュース。二本の映画で明るくて誠実な家庭教師を演じた彼女を、スパイ映画のヒロインにというこのキャスティングに当時のファンは驚いたのでは。しかも、いきなりラブシーンですから。でも、一途に婚約者と祖国を思う一般的な女性像というイメージからすると、これが悪くないんですよね。

▼ヒッチコックらしくない配役ですが悪くないです。

大学教授が見つけた〝数式〟というマクガフィン

この映画は、アメリカの物理学者マイケルがコペンハーゲンから東ドイツに亡命したふりをして、軍事機密に関わる数式を盗み出して西側に無事に脱出するまでを描くというのが大きなストーリーになっています。当時の冷戦という政治状況下で作られたスパイものとしては、派手なアクションや仕掛けに頼らない、ヒッチコックがお得意とするサスペンスやユーモアがいくつも連なって最後まで楽しめる作品になっています。

マイケルが東側から盗み出そうとする核兵器開発に関して圧倒的に優位に立てる数式。これが、物語を動かしていく際の主人公の動機付け、ヒッチコックがよく言うところの〝マクガフィン〟になっているのですが、正直なところ、それがどんなものかは観ていてもよく分からないのですね。しかも、物語の結構早い段階で、マイケルはその数式を発見した大学教授から〝まんまと〟それを聞き出すことに成功します。

そこのふたりの黒板を前にしての丁々発止、侃侃諤諤な会話が重要な場面であるにも関わらず、私には何回この作品を観ても、このお人好しで、いかにも大学教授といったキャラクターがマンガっぽくて、真実味を感じられないんですよね。そこがユーモラスでいいんだという見方もあるとは思うのですが、現実味のある緊張感を求めている本作のなかでは、ちょっとここの展開が〝緩い〟というのが正直な印象ですね。

▼マイケルに自分の数式を披露してしまう大学教授

主人公の西への脱出を助ける印象的な人物たち

一方で、マイケルのスパイ活動や、セーラとの西への脱出を助ける人たちの活躍というのが、面白く描かれていて、次から次へと転がっていくサスペンスは飽きさせないですね。「北北西に進路を取れ」のような、大きな見せ場、クライマックスというのはないのですが、小粒ながらも緊張感のある話がチェーンのように繋がって進んでいくイメージです。しかも、それぞれの話に印象的な人物が登場するのですよね。

東ドイツに亡命してからマイケルがまず最初に接触する西側のスパイ。これが農業をしている夫婦なのですが、マイケルを監視している東側の強面の男がやってきて屋内でマイケルと死闘になります。ここで、助けに入る農婦の〝残酷な行為〟がすごくリアルです。はっきり言って、この場面が本作においては最高の見せ場になっていて、あとこれを上回る場面がないというのが辛いところなのですが。ここは一見の価値ありかと。

その後も、数式を頭に叩き込んだマイケルがセーラとともに西側へ脱出するくだりで、偽装バスを手配し彼らを街に無事に送り届けるまでをサポートするリーダー。そして、街でマイケルとセーラと偶然知り合い、アメリカへの亡命をサポートしてくれることと引き換えに便宜を図ろうと近づいてくる伯爵夫人と名乗る派手な女性。こういった周りを固める人物造形が大変うまく出来ているところが見どころになっています。

▼この伯爵夫人がですね、結構インパクトある方で。

バレエ劇場で東側に包囲され追い詰められたマイケルとセーラが、そこから抜け出す手口などはもう何度も過去のヒッチコック作品で見慣れていますし、全体的に驚きというのがあまりない作品なんですね。ですから、「北北西に進路を取れ」「サイコ」「鳥」などを観てしまうと物足りないと感じるのも事実でした。それでも、最後の最後まで観客を引っ張っていくのはさすがヒッチコックだとは思うのですが。

さあヒッチコック作品の鑑賞もあと3本となりました!

トシのオススメ度: 3
5 必見です!!
4 オススメです!
3 良かったです
2 アレレ?もう一つです
1 私はオススメしません

引き裂かれたカーテン、の詳細はこちら: 映画.com

この項、終わり。