「素晴らしき哉、人生!」は、私が若い頃には深夜放送枠で繰り返し放送されていました。今の時期に鑑賞するのは、ちょっと〝季節〟が違っていて、本来ならばクリスマスの夜に家族全員で観るのがぴったりな作品なのですよね。アメリカ人にとって、ジェームズ・スチュワートの代表作といえば、これを選ぶか、あるいは「スミス都へ行く」なのだろうだと思いますが、何れも〝国民的映画〟〝これぞアメリカ映画〟と呼ぶにふさわしい内容です。
世界を渡り歩き建築家になることを夢みていたジョージは、急逝した父の住宅ローン会社を成り行きから引き継がざるをえなくなります。悪徳投資家の嫌がらせにも負けず、貧しい人たちのために額に汗して働く正義感の強いジョージ。街の人たちの信頼も厚く、可愛い妻や子供たちに囲まれてようやく小さな幸せを掴みかけた時、彼を〝会社の倒産〟という悲劇が襲います。絶望した彼は自殺を図ろうとするのですが、そこへ二級天使が現れて・・・。
「素晴らしき哉、人生!」は、この二級天使が現れて、ジョージに〝彼がいなかった、もしもの世界〟を見せるという紹介をされることが多いのですが、実はその場面は後半の30分くらい。最初のほうは、ずっとジョージの子供の頃から、青年になって、結婚をして、仕事を一生懸命にして、子供をもうけて、という〝彼の人生そのもの〟を丁寧に、丁寧に描いていきます。貧しくても、正直に、まっすぐに生きる彼の誠実な姿に誰もが共感すると思います。
それが最後の30分で、全部ひっくり返っていくという、ここの見せ場が凄いのですね。ジョージがいない世界では悪徳投資家が街を牛耳っていて、街全体の様相が一変しています。これ、同じセットをジョージのいる世界といない世界で二種類作って、そこで登場する人の姿もまったく異なっていて、相当の手間とお金がかかっているよう。昔はそんなことは考えもしませんでしたが、まるで「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」の荒廃したヒルバレー。
やっぱり最後の場面は泣きましたよ。ジョージを救うために、彼が昔助けた大勢のひとたちが、小さなお金をもって彼の家へ押しかけてくるという。人生、投げたらいけない。困っている人がいたら迷わず手を差し出す。大きなことでなくていい、自分たちにできることをやってあげよう。このチャリティの精神、アメリカという国が持っている素晴らしい一面を見せてくれます。夫婦愛、家族愛、隣人愛、アメリカっていい国だなあ、そう感じます。
自分の幸せのためではなく、他人のために何かをやってあげる。それが巡り巡って、いつか自分自身に返ってくる。これは、そんなことを考えさせてくれる作品ですね。