9人の翻訳家 囚われたベストセラー | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

9人の翻訳家
囚われたベストセラー

2019年作品/フランス・ベルギー/105分
監督 レジス・ロワンサル
出演 ランベール・ウィルソン

2月8日(土)、新宿ピカデリーのシアター3で、13時50分の回を鑑賞しました。

フランスの人里離れた村にある洋館。全世界待望のミステリー小説「デダリュス」完結編の各国同時発売に向けて、9人の翻訳家が集められた。翻訳家たちは外部との接触を一切禁止され、毎日20ページずつ渡される原稿を翻訳していく。しかしある夜、出版社社長のもとに「冒頭10ページをネットに公開した。24時間以内に500万ユーロを支払わなければ、次の100ページも公開する。要求を拒めば全ページを流出させる」という脅迫メールが届く(以上、映画.comより抜粋)、という物語です。

ミステリーが続きます。こちらは会社の同僚バリー(日本人です)が、イチオシしてくれた作品になります。とにかく観てきてください!、と。これは行かねばなるまいと上映している劇場を調べると、ミニシアター系を中心になんと全国で20館しかやってないんですね。うーん、面白いのに勿体ない。東京は、新宿ピカデリーで大きめの箱で上映していて、8割くらいは入っていて盛況でしたよ。

単なる犯人探しに終わらない極上ミステリー

いきなり登場人物がフランス語で話をし出したときには驚いてしまいました。何を勘違いしていたのか、アメリカ映画だと思い込んでいました。もちろん、ポスターは嫌でも目に入るので、ミステリーであることくらいは知ってましたよ。本作は、とにかくバリーの勧めに従って劇場へ足を運んだので、予備知識ゼロだったのですよね。ミステリーと分かれば、余計に情報をシャットアウトしたくもなりますよね。

この映画のレジス・ロワンサルという監督、〝いったい誰⁉︎〟と、鑑賞後に調べると「タイピスト!(12)」を創られた方でした。あれは、実話をベースにしたタイプライターの早打ちコンテストのお話で、主演のデボラ・フランソワがお人形さんのように可愛いらしい、1950年代のフランスの田舎町を舞台にしたロマンチック&スポ根もののコメディでした。良い作品なので、未見の方にはぜひお薦めしたい作品です。

さて、慎重にネタバレにならない範囲で書くとしますと、「ナイブズ・アウト」は亡くなった〝ミステリー小説作家〟の老富豪の物語であったわけですが、この「9人の翻訳家」もまた正体の見えない〝ミステリー小説作家〟の物語だというところが興味深いですね。どちらも映画のなかで、ミステリー小説を扱っていて、それを商売にして大儲けをしている人たちについてのお話なのですよね。

▼監禁されて翻訳作業をさせられる9人、ストレス溜まります

翻訳家の持つ知識・技能の凄さ、仕事の尊さ

今回は、世界的ベストセラー推理小説「デダリュス」の多言語同時発売で一儲けしようとする男が出てきて、各国から翻訳家を集めてきて一つ所で仕事をさせるわけです。今まで考えたこともなかったのですが、確かに一カ国で発売されると、その海賊版が出回って他の国での商売に大きな影響を与えるわけですから、根強いファンがいるなら〝世界同時発売〟がいちばん賢い売り方なんですかね。

しかし、考えてみると翻訳家というのは凄いお仕事ですね。まずは多言語に通じていることは当然ながら、すべての言葉から最も適切な言葉を選択し、その作家ならではの文章がもつ特徴や魅力も再現しなければならないのですよね。もう本当の作家以上に、その作家のことをよく知らなければならず、作家と同じだけの知識や教養を身につけておく必要まであるわけですから、すごい才能ですね。

「9人の翻訳家」のなかでも、そういうところの苦労を垣間見ることができる場面もありました。よく考えると、アガサ・クリスティでも、スティーブン・キングでも、ダン・ブラウンでも、日本語翻訳版を読みながらも、世界中のクリスティやキングやブラウンのファンと同じ土俵の上で楽しみを共有できているというのは凄いことなのかも(しかし誰か検証してるのかな)これも、名翻訳家の方々のおかげですね。

▼このオッサンと雇われの監視員が嫌なやつらなんです

文学にはお金には変えられない価値がある

作家が格闘しながら長い時間をかけて物語をつむぎ、翻訳家が苦しみながら言葉を探しだし、そして世界中の読者の手にわたっていく小説。いや、文学の持つ力って凄いです、書籍って貴いですね。それをマーケティングだとかで、商売の道具にしか考えない輩がいたら寂しいですね。私はよく知らない世界ですが、今の出版業界なんかはどんな感じなのでしょうか。

9人の翻訳家たち、やはり同じ職業ということで、そこに彼らでしか分からない、分かち合えない価値観、苦悩や喜びがあるのでしょうね。最大の喜びの一つは、誰よりも先に大好きな作家の新作が読めるというところでしょうか。それを感じさせるいい場面がありましたよ。私が子供の頃には、マンガの回し読みというのをよくやりましたが、小説ならば音読ですね。

感情を込めて音読すると、文章の素晴らしさが心に染みてくるような気がします。それから、昔、子供の頃に、親から〝本を粗末にしたらいけない〟と言われたことを思い出しました。いや本そのものもそうですが、文学に対する敬意ですかね。繰り返しですが、文学にはお金には変えられない価値があるということです。そういうことをこの映画は教えてくれています。

▼こんな色んな国籍の方が友達になれて、羨ましいですね

ネタバレしてないつもりですが、でも、既にご覧になったかたに読んでいただくと、〝あ、ここは?〟と感じられるところもあるかと思います、笑。でも少なくとも一番のお楽しみどころを奪うようなことはしていないかと。「ナイブズ・アウト」とは異なるテイストの作品です。私はどちらか選べと言われたら「9人の翻訳家」派ですね。前半がちょっと物足りないですが、後半の畳みかけかたはとにかく素晴らしいです。

この映画を観たら、きっと翻訳家を尊敬せずにはおられなくなりますよ。

トシのオススメ度:4

5 必見です!!

4 お薦めです!

3 良かったです

2 アレレ?もう一つです

1 私はお薦めしません



この項、終わり。