東京では19日(金)が最終上映日だった単館上映の「ブリムストーン」の最終上映回に駆け込んできました。地元の下高井戸シネマに来るまで待とうかと思ったのですが、いつも拝見している「新・伝説のHiropoo映画日記」で高得点を得ていて、待ちきれませんでした。
ガイ・ピアースとダコタ・ファニングが出演している西部劇という程度の知識しかない状態で鑑賞したのですが、かなり面白かったです。駆け込んだだけの価値はありました。刺激的で後味が決してよくないため好き嫌いは分かれると思いますが、一見の価値ありです。
冒頭の謎かけの上手さ、四部構成で観客をくぎ付けに
この映画は全部で四つの章に分かれており、その時間構成が非常に巧みに出来ています。最初の章で大きな謎かけをしたあと、続く章ごとにも冒頭から、さらに「何が起きたのか?」という衝撃的な画面で幕開けをし、とにかく観客の興味を引っ張るのです。
しかも、四つの章ごとに、そこで描かれる土地や風景、メインになる牧師とリズ以外は登場人物が全て変わるため、まるでオムニバス形式で異なる映画を四本観ているような面白さもあるのです。ですから2時間半ちかい長尺でも、全く飽きるということがなかったです。
本作はマルティン・コールホーベンという1969年生まれのオランダ出身の方が監督をされていて、脚本もご自身で書かれています。注目したいですね。そして、この映画はキャメラが素晴らしいです。時おり挿入される神視点の俯瞰ショットも含め、恐いけど美しい映像が堪能できます。
▼口がきけない助産婦とその娘を襲う悪夢の世界
神父のとても人間とは思えない悪魔的な怖さに背筋が凍る
そして、「ブリムストーン」を超絶面白い作品にしているのが、逆らうことのできない絶対的な権力=恐怖として描かれる牧師の存在ですね。この謎の人物の造形、そしてこれを演じたガイ・ピアースの存在感が、この作品の面白さを決定づけているといってもいいでしょう。
彼が持つ、強い信仰に裏打ちされた、鍛え抜かれた鋼の肉体と強靭な精神力。映画は、彼の登場とともに、村に住む若い助産婦リズの周囲で次々と不吉なことが起こり始めます。その血なまぐさい事件は、観ていて吐き気をもよおすほどで、気の弱い方は目を瞑るべし、です。
牧師ではあるものの、彼の登場の仕方や人間離れした身体能力を観ていると、まるで悪魔に魂を売り渡した不死身の存在のようであり、観ていて背筋が凍ります。この牧師とリズとの間には過去にどのような関係があったのか、この二人が行きつく先が映画の見どころです。
▼神の言葉だとして女性に悪魔的行為をする牧師
絶対に服従しない女性の自立と強さを描いて深い余韻を残す
この牧師の、女性への行為というのがとにかく残虐。信仰という名のもとに女性を鞭で痛めつけ、絶対服従を誓わせようとするサディストのような人間。映画は、時間を過去へ、過去へと遡りながら、牧師とリズの関係を描いていくのですが、かなりショッキングです。
これから映画をご覧になる方のために、これ以上は書けません。実際にご覧になって、確認をしていただきたいと思います。この映画は体裁としては、ミステリーあるいはスリラーの形を取っていますが、実は当時の女性の置かれていた状況を描こうとした映画でもあるのですね。
その裏テーマが、ドラマが進むにつれて明確になっていきます。西部劇でお馴染みの売春宿を兼ねたサルーンでのエピソードや、牧師とその妻とのエピソードが端的にそれを物語っており、その中でリズは、新しい時代の女性としての姿を託されているのですね。
▼商品としての価値にしか見られない西部の女性
惜しむらくは、この牧師がこれほどまでになった経緯、彼が背負っているものが何かが分からないことですね。当時の牧師は多かれ少なかれこのような傾向があったのでしょうか。でも具体的に描くと恐さが薄れてしまいますから難しいところですね。
さて、ダコタ・ファニング、エル・ファニングのお姉さんですが、1994年生まれの23歳なのですね。「アイ・アム・サム(01)」「宇宙戦争(05)」の印象が強くて、まだまだ娘さんなのかなと思っていたら、こういう役を演じる女性に成長していたのですね。
実は、この映画にはエミリア・ジョーンズという女優といっても若い娘さんが出てくるのですが、彼女が演じているある女性がダコタ・ファニングの二役だと勘違いしかけました。彼女は若い頃のダゴタそっくりなのですが、さすがにそれは無かったのですね。
残念ながら本作は既に上映を終了している映画館が多く、チラシを見る限りでは近々では2月10日から神戸で公開されるのみのようです。重たい作品ではありますが、映画的な刺激に満ちた作品かと思います。機会があればぜひご覧ください。