花筐/HANAGATAMI | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

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花筐/HANAGATAMI

2017年作品/日本/169分
監督 大林宣彦
出演 窪塚俊介、矢作穂香、常盤貴子

12月24日(日)、有楽町スバル座にて11時の回を鑑賞しました。

1941年、春。佐賀県唐津市の叔母のもとに身を寄せている17歳の俊彦は、アポロ神のような鵜飼、虚無僧のような吉良、お調子者の阿蘇ら個性豊かな学友たちと共に「勇気を試す冒険」に興じる日々を送っていた。肺病を患う従妹・美那に思いを寄せる俊彦だったが、その一方で女友達のあきねや千歳と青春を謳歌している。そんな彼らの日常は、いつしか恐ろしい戦争の渦に飲み込まれていき(以上、映画.conより抜粋)、という物語です。

2時間49分の超長尺。これは、1日に二本の〝はしご〟は苦しいというもの。24日のクリスマス・イブはこの一本だけに絞り、体調を整え万全を期して有楽町まで出かけました。向かう劇場は、有楽町スバル座。スクリーンは一つ、自由席でシネコンとは異なる昔の雰囲気の映画館なのです。

この空の花 長岡花火物語(12)」「野のなななのか(13)」と合わせて、〝戦争三部作〟と称される本作。これは決して万人にお薦めできる作品ではないのですが、作品に込められた反戦へのメッセージを感じ取り、前代未聞・空前絶後の映像を体験いただきたく〝必見〟とさせていただきました。


いつもどこかで死の匂いがしていた大林作品

大林宣彦さんは、別に突然のように〝戦争〟を扱いだしたわけではないのですよね。劇場用映画デビュー作の「HOUSE ハウス(77)」が、戦争で愛する人を失った女性の怨念を描いたように、かなり初期の段階から戦争を自作の中の重要な要素として、作品に取り込んできたのですよね。

中には「野ゆき山ゆき海べゆき(86)」のように、子供たちの視点で第二次世界大戦そのものを丸ごと切り取ったような作品もあるくらいです。振り返るに、大林宣彦さんの撮る映画というのは、戦争も含めて、いつも何かしら死の匂いが漂っていることが多かったのです。

時をかける少女(83)」は、原田知世さん演じる芳山和子が、両親と共に交通事故で死亡した深町に恋心を寄せる物語でした。また、「異人たちとの夏(88)」は、風間杜夫さん演じる中年男性が、幼い頃に死に別れた両親の幽霊と再会する物語でした。大林映画では、いつも何らかの形で〝死〟が顔を覗かせるのです。

ただし、大林監督はそれをあからさまに押し出すようなことはせずに、あくまでも〝死〟が主人公たちの身近に存在していることを気配として分からせる程度に扱っているのです。だから数々の作品は、どことなくペシミスティックなのですね。

▼映画の語り手となる俊彦(僕)、実は17歳の大学予備校生。演じるは窪塚俊介さん
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死が身近にあるなかで輝く、痛ましくも美しい青春

この〝死〟というものが身近にあるからこそ、若い主人公たちがより一層の輝きを増すのが、大林映画の特徴であるように思います。そのことは、この新作「花筐」において顕著で、しかもその〝死〟は戦争や病によって、避けようもなく若者たち自身の身に降りかかってくるのです。

考えると初期の作品から本作に至るまで、こんなに多くの若手女優を撮ってきた映画監督というのも珍しいと思うのですが、どの作品の女優さんもテレビで見せる天真爛漫な笑顔を封印し、どこか不安げで翳のあるヒロイン像を演じさせているのも大林映画に共通する点だと思います。

廃市(84)」で小林聡美さんが演じた貝原安子、「さびしんぼう(85)」で富田靖子さんが演じた立花百合子、「ふたり(91)」で石田ひかりさんが演じた北尾実加など、彼女たちの周りには常に死や病気といった暗いムードがつきまとい、その中で彼女たちが見せる輝きが心に突き刺さるのです。

今回、その役割を与えられた三人の女性は、矢作穂香さん、門脇麦さん、山崎紘菜さん。太平洋戦争勃発前夜の唐津を舞台にし、それぞれが背負った運命と向き合いながら、それを受け入れていく姿が描かれるのでした。そして、その結末というのがあまりに切ないのですね。

▼登場する三人の乙女たち。矢作穂香さんの着る純白のドレスが印象的です
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誰にも真似できない、唯一無二の映像作家

そして、大林宣彦さんの作品を語る上で欠かせないのが、大林宣彦ワールドとでも言うような、その映像世界。もともと自主製作映画のご出身で、CM作家であった大林監督の自由奔放で型破りな絵作りについては、好き嫌いがはっきり分かれるのではないかと思います。

また大林宣彦さんは、〝全ての作品の編集は自分で行う〟と、どこかで語られていたことを覚えています。編集こそが映画の醍醐味であり、面白さなのだという話でした。今回の「花筐」は特にそうですが、このような斬新な絵の繋ぎかたは、誰かに任せっぱなしにして出来るものではないでしょう。

そんな大林宣彦さんが、映画評論家を含め世の中に認められたのが、作家性を逆に殺した「転校生(82)」だったのですよね。皮肉というか、それだけ突き抜けていたのでしょう。その後も大林宣彦さんらしさを出しながら、どう商業映画として成り立たせていくのか、その微妙なバランスの上に大林作品は常に揺れ動いていたように思います。

しかし、「花筐」を含む戦争三部作では、観客におもねることはせず、とにかく頭から尻尾まで自分の好きなように映画を撮ることを徹底して、振り子を完全に振り切ったのですね。その結果、リアルさなんて一切ない超虚構の世界にも関わらず、恐ろしいほどのパワーと魅力を湛えた作品が完成したのです。

▼若者たちの中心にいる未亡人を演じる常盤貴子さんが最高に綺麗でした
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赤い血の色とともに全編に漂う死の匂い。血潮の滾る純粋無垢な若者たち。従来の映画文法を無視した革新的な表現。過去の大林作品に何の思い入れもなく、免疫のない状態で「花筐」をいきなり観ると、大林テイスト全開の作品にショック症状を起こし、途中退場してしまうかも知れませんのでご用心です。

それでもです。太平洋戦争の足音がしのびよるなかで、一人の未亡人と若者たちが愛と友情を紡ぎ、線香花火のように儚い生命の火花を見せるこの作品は、一見の価値があると思います。「青春が戦争の消耗品になるなんて、まっぴらだ!」という彼らの痛切な叫びを、ぜひ劇場で聞いていただきたいのです。

戦争そのものを大々的に描くことなく、しかし作品は見事な反戦映画となっている。これが、大林宣彦さんらしさだと思います。なお、劇場では、前衛画家の作品を鑑賞しに美術館へ行くような気持ちで入場料を払っていただくのが、よろしいかと思いますニコニコ

オススメ度: 5
5 必見です
4 お薦めです
3 興味があれば
2 もう一つです
1 駄作


この項、終わり。