午後二時十分、手術室へ。前回はベッドでしたが、今回は歩きです。
Iさんに導かれて、うふふ…手に手を取っての道行きです。

中央手術室。扉を開けると(IDカードをかざして、フットスイッチを踏んで)そこは…広い廊下をはさんで、部屋が十一あるとか。すべて、手術室なり。

おぉ! 廊下の幅は、結構あります。
5mでは、きかないか…? もっと広いかな。メジャーで、今度計りましょうかね。

8番だっけ? 促されて入室。中央に設置してあるベッドに横たわり、おっと狭い!
危うく落っこちそうに。ほんとに人一人分の幅でした。

体中あちこちに、ペタペタと。
心電図に血圧測定に脈拍測定、そしてそしてなんたらかんたら…
ええぃもう、好きにしてくれえ! 

入れ替わり立ち替わりに声がかけられ、「お名前をおしえてください」。「生年月日を言ってください」。そしてはては「なんの手術ですか」ときた。

「胆のう摘出手術です」。「はい、結構です」
「あたしは、麻酔医のEと申します」

おお、ついてる! 許す、許す。すべて、許そうじゃないか。
あなたのような女神さまに見届けてもらえるならば、わたしは本望だ。
                                    
待て、待て、待てえぇぇ! 忘れたか! 
「魔物が恐ろしい姿をしていると誰が言った。神が気高い姿だと誰が教えた」
この台詞いいでしょ、中々に。

なんだったっけ、タイトルは。

極短編作品(400字詰め原稿用紙、一枚分)の自信作なのですよ、わたしの。
 

 碁盤の目状に作られた道が、ムサシには奇異なものに映った。

街道もまたまっすぐの道が多くはあるが、

これほどに整理された街並みは初めてのことだ。

しかも間口は狭いが奥に深いという[ウナギの寝床]と称される町家が多い。

物珍しさからなかなか歩の進まないムサシに、丁稚が
「ムサシさま。

そのようにきおくれされるならば、いっそ用心棒にでもなられては」

と声をかけた。


「馬鹿な! 気後れなどとは、笑止千万。初めての地ゆえ……」
「ああ、そうでございますか。このようなところは初めてで……」
 田舎者と嘲笑されていることは知っていたが、

面と向かっての言葉にムサシが声を荒げた。
「グズグズするな! 昼餉までには戻るぞ」


 京都御所ちかくにさしかかった折には「天子さまがおられます」と、

深々に一礼をする丁稚に倣いムサシも一礼をした。

それを見ていた周囲から失笑がもれて、

丁稚の底意地の悪さに「おまえは帰れ!」と追い返した。


 御所を離れたムサシは、店舗を持たずに立ち売りをする商人たちに

「堀川一条の、吉岡道場は……」と声をかけつつ向かった。

怪訝そうな顔つきで答えるのだが、

ほとんどの者が最後に「かかわらぬほうが……」と、付け足した。

教えられたとおりにまっすぐに進み、堀川の手前で折れて川沿いに進んでいった。

そうではなくて、朝、なのです。夜も明けぬ、五時すこし前に目が覚めたのです。
窓から外を見ても、空はまっ暗です。星? 星は…気がつきませんでした。

今日は、長い一日になりそうです。朝、抜きですからね。
唯一許されている、なんたらかんたらという経口補水液2本を午前九時までに飲めるだけなのですよ。

以降は、絶飲絶食です。勿論、手術後の夜もそうでしょう。
そしてそして、明日の朝も、なのです。

血糖値が下がるからいいじゃないか、ですって! 冗談じゃないですよ。
空腹感の辛さ、知ってます? 

あなたのそれではなく、わたしの、です。
それはもう、地獄の苦しみなのですから。のたうち回るほどの辛さなのですから。

I看護師さんが、あれこれと世話を焼いてくれます。
あぁ、彼女の笑顔にどれだけ救われたことか…。

そうそう、言い忘れてましたが、Iさんの声、甘ったるい声ですよ。
さとう玉緒ちゃんと同じように、何とも熟したメロンのような声なんですねえ。

「君のためなら死ねる」
ねえ、名文句じゃないですか。わたしだって、早乙女愛ちゃんになら言えますよ。
彼女、今、どうしてますかね。いや、いい! 今の彼女には会いたくありません。

何だったっけ、あのドラマ。シティハンターじゃなくて、何とかハンター…
それからそれから、「雌猫」だったっけ? スケベ大王の山城新伍おっちゃんが監督をした映画…。
あの辺りまでの、早乙女愛ちゃんでいいです。

おっと、Iさんから連絡です。一時のはずが、少し遅れるとか。
前日には「早くなるかもしれませんよ」って連絡が来てたのに。