トク、トク、トクと、正確に脈が刻まれておれば、ひょっとすると私のリズム感も、今よりはマシになるのではないかとの期待があります。医学的なことや、音楽的なことの分からない私のことですから、想像の域を出ないのですが、脈とリズム感には、きっと何か関係がありそうだと思うからです。

毎日、トク、トトク、トッと、まったく不規則な脈を、漫然と感じているようでは、リズムの基準を抑えることが出来ません。不整脈の人が、全員リズム感がないのかどうか、実証的な思考に乏しい私には分かりませんが、この着眼は悪くないような気がします。

 

けれども、合理的に思える私の素敵な(自画自賛)思い付きにも、大きな穴があることを白状しなければなりません。それは、私の記憶が正しければ、私の不整脈は、生まれつきではなく、後天的なものだということです。

 

「えっ?不整脈ですか?今まで言われたことがないのですが」

 

と驚いたのが、その証拠です。

 

つまり、私の心臓は、その時の検診を受けるまで、ずっと規則正しく、トク、トク、トクと刻み続けていてくれたはずです。それなのに、ああ、哀しいかな、その頃も、今の私と同じように、アマチュアのヴァイオリニストが、雑音を音高らかに響かせていたのでした。もちろん、正しいリズムを刻むことも出来ずに。